46.レイチェルの注意
「ユフィさん、二年生の首席と勝負したって本当?」
「あっ、はい……。どうしても、勝たないといけない事情がありまして……」
「ほ、本当に勝負したのか。勝ったって聞いたけど、大丈夫なのか?」
「はい。私の魔法が通じるかなっていう不安はありましたけれど、なんとか勝てました」
午後の授業が終わるとすぐに周りに人だかりが出来た。昼休みの勝負の話を聞いたクラスメイトが興味本位で尋ねてきたのだ。
二年生の首席の生徒との勝負。正直、不安だった。一年も違う生徒と勝負するなんて、無謀だと思えた。
だけど、クラスメイトの事を考えれば、引けなかった。だから、自分に力が足りないだろうけれど、全力を尽くそうと思った。
「二年生の首席の子を負かすところ見たかったなー……」
一人の男子がそう呟くと――。
「いや、見なかった方が良い。見たら寿命が縮んだ……」
アルベルト様が遠いところを見て、そう呟いた。それに頷くのがロゼリア様とミレイ様。
「知らないのも怖いけれど、知ってしまった方が怖いと思うの。だから、この件には触れない方がいいわ」
「出来ることなら記憶から消し去りたいけれど、無理なんだよね……。これを知ってしまうと、他にもあるかもって思うと不安で不安で!」
二人ともなぜか深刻そうな顔で言った。しかも、ため息つき。
「まぁ、勝負は出来るだけ受けたくありませんね。心臓が持ちません」
「いや、ユフィちゃん! それはこっちのセリフだから!」
「うっ……何も起こりませんようにって願うしかないって辛いわね」
「どうしてこうなった……」
勝負は緊張して、負けた時が悔しいから受けたくない。そう言うと、三人が同意してくれた。やっぱり、何も起きない方がいいよね!
みんなに囲まれて色々と質問されたが、なんとか返答をすることが出来た。私も少しずつ交流というものが上手くなっているような気がする。
「じゃあ、ユフィ。途中まで帰りましょう」
ロゼリア様たちに連れられて、教室を出ていく。お喋りしながら歩く廊下はとても楽しくて、時間があっという間に過ぎてしまう。
気づけば、敷地の門の手前まで来ていた。
「じゃあ、ユフィ。また、明日」
「ユフィちゃん、バイバーイ!」
「またな」
「はい、また明日会いましょう」
そう言って、三人に手を振って別れる。遠ざかっていく三人を見ると、少し寂しい気持ちもする。だけど、それも明日まで。明日になれば会えるんだから大丈夫。
自分にそう言い聞かせると、私は寮に向かって歩き出した。寮に帰ったら何をしようか。そう考えながら歩いていると――。
「ユフィ、来たわね」
道の端にレイチェル様がいた。どうして、こんなところに?
「……もしかして、待っていてくださったんですか」
「……ちょっとね、話したいことがあって」
あのレイチェル様が私を待っていた!? その事実だけで、とても嬉しい気持ちになる。喜んで駆け寄ると、レイチェル様の強い視線が向けられた。
「えっと、どんな用事ですか?」
「……あなた、目立っているわね。二年生首席の勝負を受けるってどういうつもり?」
「あの、それは……みんなに酷い事をしようとしていたので」
「だからって、あなたが前に出る必要はないんじゃない?」
「いえ、それは出来ません。同じクラスメイトなんですから、お互いに思いやりを持って――」
「――それはどうかしら」
私の言葉をレイチェル様は遮った。
「あなた、周りが見えていないの?」
「周り、ですか? ちゃんと見えているはずですけれど……」
「あの教室に、あなたを敵視する人がいるってこと……気づかない?」
「えっ?」
自分のクラスに私を敵視する人がいるってこと? よくよく思い出すと、全然身に覚えがない。それに、そんな敵意は全く感じなかった。
「平民で首席。これだけでも、妬まれる要素があるのに……さらには二年生首席との勝負に勝った? 相手の火に油を注ぐ行為だわ」
「そ、そうなんですか? ……私、人間関係に疎いので、そういうことはあんまり……。でも、疎まれるのは慣れているので、そんなに気にせずに――」
「それで済むとでも思っているの? おめでたいわね」
ぴしゃりと言われて、体がすくんだ。恐る恐る目を見て見ると、そこには怒りの色が見えた。
「自分の身を守りたかったら、もっと控えめにするべきよ。明日から気をつけなさい」
そう言って、レイチェル様は歩き出した。その後ろ姿を見て、言われたことを考える。
村では魔法を使って疎まれていた。他人からの暴言には慣れているし、無視されることも大丈夫。だけど、レイチェル様の言葉にはその意味が含まれていない気がした。
もしかして、他の嫌なことが起きる? レイチェル様はそう教えてくれた?
でも、何が起こるか分からない。だから、その言葉に不安だけが積もっていく。
「私は普通に学園生活を送りたいだけなのに……」
きっと、大丈夫。そう、自分を励まして、寮へと向かった。
だけど、翌日から私の身の回りに変化が起きた。それは、予想していなかったことだった。




