45.二年生首席視点
勝った! 小さな火を見た時、私は勝利を確信した。
やっぱり、まだ一年生……それほど強い魔法は使えないみたい。そうよね、まだ学園で勉強をしていないのだから、魔法が弱くても仕方ないわ。
でも、一年生の首席がこの程度……。どうやら、今年の一年生は未熟な子ばかりみたいね。これなら、将来に希望を見いだせないわ。
きっと、先生たちも苦労するでしょう。あっ、そうだわ! 私たちが中心になって鍛えればいいのよ。そうすると、内申点も上がるし、一年生全体を分からせることが出来る。
そう、この国の将来を背負って立つ人物が誰なのかをね! そうしたら、一年生は全員私の下僕にしてあげるわ。私を敬い、崇め、傅き……私の思い通りになる下僕にするのよ。
「そのトロ火――消してあげるわ!」
さっさと勝負を付けてしまいましょう。巨大な水球を飛ばして、それでトロ火を消す。きっと、一瞬で消えるでしょうね。それを見るのが楽しみ。
勝利の笑みを浮かべていた、その時。目の前の巨大な水球が一瞬で水蒸気と消えてしまった。
「――へ?」
何が……起きたの? 今、私は水魔法を使ったはず。間違いない。魔力も十分に込めた。形も崩れていなかった。五メートルはある巨大な水球だった。
それが、どうして――一瞬で無くなった?
私は恐る恐る前を見る。そこには、先ほどと変わらない白い火が浮かんでいた。五十センチほどの、小さな火。
私の水球を消したというのに、少しも勢いが衰えていない。
「……な、なんで!? どうして!?」
おかしい! 何かがおかしい! 水球が大きすぎて、制御を失った? 違う。私が魔法を失敗した? それも違う。
だったら、どうして水球だけが消えて、あの炎は残っているの?
「……こ、こんなことって!」
だって、火と水なら水が有利に決まっている。しかも、私の魔法は五メートルもの大きさがあった。対して、あの子の炎はたった五十センチ。
どう考えても、私の方が圧倒的に強い。なのに――。
「何が起こったのっ!?」
頭を抱えて叫ぶ。信じられない、信じたくない。私の水球が一瞬にして消えるなんてありえないのにっ!
なのに、あの子は平然とした顔で答える。
「えっと、私の火は五千度を超える温度に高まっているので、水は一瞬で蒸発しました」
……はっ? い、今……なんて言った?
「全力で出したんですけれど、ここまで上げるのは久々だったので、ちょっとだけ火が小さくなりましたね。だけど、水は消せましたよ」
平然とした様子で語る。呆気に取られて、しばらく呆然とする。横目で周りを見ると、他の子たちも唖然とした表情でその子を見ていた。
わ、私がおかしいんじゃないわよね。この子が、常識から外れているからだよね!
だって、普通は――五千度を超えるなんて無理なんだから! な、なんなの……この子、一体なんなのっ!?
自然と足が震えて、膝がガクガクと揺れる。今、目の前に五千度を超える火があると思うと、怖くて仕方がない。
いや、怖いってもんじゃない! 正直言って、そんな人と敵対したくない!
「それで――」
その子が、こちらに顔を向けた。その瞬間、悪寒が全身を駆け巡り、私は反射的に頭を下げていた。
「ごめんなさいっ!」
地面に額が付きそうな勢いで頭を下げる。
「えっ?」
「さっきのことは全部忘れてください! 私が悪かったです! 完全に私が悪かったです!」
「え、えっと……?」
その子が困惑した声を上げている。そんなことはどうでもいい。今、目の前に五千度を超える火を平然と浮かべている少女がいる。
そんな相手と敵対していいわけがない!
「私、あなたのことを誤解していました! 一年生だから大したことないなんて思って、本当に申し訳ありませんでした!」
「い、いえ……」
「上下関係を教えるとか、下僕にするとか、全部忘れてください!」
「えっ、下僕?」
「あっ、いえっ、これは、その……ちょっとした冗談です! 私、冗談が好きなんです!」
「そうなんですか?」
「はい! 大好きです!」
もう、無我夢中……必死に頷いた。さっきまで本気で一年生を下僕にしようとしていた自分を殴ってやりたい。
五千度。五千度よ!? そんな火を前にして、どうして喧嘩を続けられるというの!
「私たちは、とても仲良くできると思います!」
「仲良く……ですか? そ、それはちょっと……怖いですし」
「あっ、すいません! では、こちらからは関わらないようにします! それでいいですか!?」
「あっ、はい。それなら大丈夫です」
よ、良かった! 敵対しなくて済む! 私は急いで同級生の下に近づくと、みんなを引き連れて魔法訓練場を後にした。
本当に良かった……生きて帰ってこれた! もう二度と、下級生には手を出さない! 絶対に!




