40.初めての授業
入学式の翌日から、いよいよ授業が始まった。
昨晩から、どんなことを学ぶのだろうとワクワクしていた私は、朝から楽しみで仕方がなかった。
時間割を確認すると、授業は魔法だけではなかった。読み書きや計算といった一般的な学術に加えて、歴史や地理、美術など、今まで学んだことのない授業がたくさんある。
歴史の授業では、この国がどのようにしてできたのかを学び、地理の授業では世界各地の土地や気候について教えてもらった。美術の授業では筆を持って絵を描き、初めて触れることばかりで、どの授業も新鮮で楽しかった。
今まで私は遊んでばかり。魔法しか触れてこなかった。だからこそ、直接役に立つか分からないようなことまで学べることが、とても嬉しかった。
もちろん、一番楽しみにしていたのは魔法の授業だ。
魔法の座学では、魔力の性質や術式の構造、魔法の歴史などについて学んだ。内容のほとんどは今まで読んできた本にも書かれていたものだったけれど、先生の説明を聞き、クラスメイトと一緒に考えながら学ぶと、同じ知識でも楽しさが全然違った。
確認したいところをクラスメイトと話したり、先生に質問したりすることも新鮮だった。一人で本を読むだけだったこれまでとは違う。
同じように魔法を学ぶ人たちと一緒に勉強することで、私はますます魔法が好きになっていった。
そして、いくつかの座学を終えたところで、とうとう――魔法の実技授業の日がやってきた。
待ちに待った、実際に魔法を使って学ぶ授業。どんな魔法を教えてもらえるのか。どんなことができるようになるのか。
期待に胸を膨らませながら、私は魔法訓練場へと向かった。
◇
「よし、みんな集まったな。これより、魔法実技の授業を始める」
カレン先生が開始の挨拶をすると、生徒たちは声を上げる。
「今日は座学で先に勉強した、火魔法の実技をする。みんな、杖はちゃんと持ってきたか?」
……あっ! 私、用意してない!
「す、すいません! 私、用意してなくて……。それでも大丈夫ですか?」
「う、うーん……。ユフィは杖がなくても魔法操作に問題がないからいいが。先生としては持ってきてもらいたい。杖の使い方を学ぶのも授業の一環だからな」
「は、はい……」
「まぁ、ユフィぐらいになると、杖は邪魔かもしれん。だから、自分がこれだっと思った杖を見つけた時は、授業に持ってきてくれ」
「分かりました。その時は必ず持ってきます」
よ、良かった……。杖がないと授業が受けられないかと思った。よし、良い杖を見つけたら、これから使ってみよう。
「それじゃあ、火魔法の実技について説明する。まず覚えておいてほしいのは、火魔法は三つの工程で発動するということだ」
先生が杖を取り出し、ゆっくりと構える。
「最初は魔力の収束。自分の中にある魔力を一点に集める。次に、収束した魔力を杖へと送り込む。杖は受け取った魔力を火魔法へと変換する。そして最後に、変換された火を狙った方向へ射出する」
先生が杖の先に小さな炎を生み出す。
「収束、変換、射出。この三つを順番に行う。どれか一つでも乱れれば、火魔法は上手く発動しない」
先生が杖を少し下げると、炎が消えた。
「特に最初の魔力の収束が重要だ。魔力が十分に集まっていなければ、火は小さくなる。逆に、必要以上に魔力を込めれば、今度は制御が難しくなる。自分がどれだけの魔力を扱っているのか、しっかり意識するように」
カレン先生の話を聞いて、自分のやり方を見つめ直す。一つ一つは大事なことは分かっているけれど、それよりも流れが大事だ。どれだけ上手く制御を出来るか、それにかかっている。
「じゃあ、私が手本を見せるよりも、ユフィにやってもらおうか」
「わ、私がですか?」
「その方が生徒の刺激にもなるだろうからな。あの的に向かって火を放ってくれ。あの素材を溶かすくらいの威力でな」
あの素材を溶かすような威力……。あの素材、普通の鉄よりも溶けにくい素材だな。融点は三千度ってところか。それくらいの火、出すのは久しぶりだな。
「じゃあ、いきます」
「目で追える程度の速度にしてくれよ。魔法操作を見せてやってくれ」
「分かりました」
目で追える程度の高温の火か……うん、問題なさそう。私は手を構えると、火魔法を発動させた。
私の手の先に青白い火が現れる。
「「「ん?」」」
周りの疑問の声が聞こえてきた。だけど、気にすることなく、火を射出した。火は真っすぐに的に向かっていき、難なく着弾。的を一瞬で溶かした。
「ひぃぅっ!」
「はい。目で追える程度の速度で的を溶かしました!」
笑顔でカレン先生を見ると、カレン先生は引きつった顔のまま固まっていた。あれ? もしかして、速度が足りなかったかな?
「もうちょっと、速度上げた方がいいですか?」
「あ、あ、あんな高温の火をどうして操れるんだ! 威力が高いほど、操作は難しくなるのに!」
「えっと、昔……遊びで極限にまで火の温度を高めて、それで遊んだことがありますので」
「とんでもない火遊びをしていたな!」
えっ? 気になるとやってしまわない? どれだけできるか試してみたくなると思うんだけど……。
同意を得るために、クラスメイトに話しかけようとしたが――みんな溶けた的を見て固まっていた。
こ、これじゃあ、同意を得られない! どうしたらいいの!?




