4.詐欺を無自覚に撃退
「試験は三日後。試験会場は王城にある部屋を使って行われる。これが受験票だから、忘れずに持って行ってね」
「はい、ありがとうございます。それに、宿の紹介も助かりました」
「いや、いいんだよ。悪いところに入って、受験どころじゃなかったってなったら大変だし。田舎から出てきて不安だろうけれど、頑張って」
私はお辞儀をして、受付場を後にした。外に出ると、通りにはたくさんの人がいて困惑する。
「わぁ、こんな場所……歩けるかなぁ……。えーっと、宿屋の場所は……」
貰った地図を見て、進む通りを確認する。その時――。
「ねぇ、何を見ているの?」
声がして振り向くと、そこには二人組の男女がいた。ニコニコと笑っていて、とても優しそうに見える。
「えっと、宿の場所を探していて……」
「見せて見て。……この場所なら分かるよ、案内してあげようか?」
「えっ、でも……悪いですし……」
「大丈夫だよ。じゃあ、その代わりと言っては何だけど、話を聞いてくれる?」
「あっ、はい。話なら大丈夫です」
道案内をしてくれる代わりに、話を聞くだけでいいの? 私は不思議に思いながら、その男女の話を聞く。
「この建物から出てきたってことは、王立グランセリアの試験に挑戦するんだよね?」
「えっ、そんなことが分かるんですか?」
「もちろん、分かるよ。これから試験だから受かるかどうか不安だよね?」
「いや、どうせ私なんか受からないですし……。今回は約束を果たすために来たようなものですから」
一人で生きていけるだけの力はあるけれど、それが合格に繋がるかは分からない。都会には私よりも凄い人がいっぱいいそうだし、私は受からないだろう。
落ち込んだようにそういうと、その人たちはずいっと前に出てきた。
「だったら、君にいい話があるんだ。これを身に着ければ合格間違いなしの特別な物」
「と、特別な物、ですか? そんなものが本当にあるんですか?」
「えぇ、ついさっき出来たばかりで、これを適切な人に売りたいって思っていたの。そしたら、その人が建物から出てきたから、ぜひ役に立ててもらおうと思ったのよ」
そんな特別なものを私に売ってくれようとしていたの? 私は受かるつもりはなかったから、申し訳ない気持ちになる。
「でも、特別な物を身に着けても受からないと思います。本当に田舎で一人暮らしをする程度しか、能力がありませんから」
「そういう君にこそ、使ってもらいたいんだよ。受からないってとても辛いことだから、これを身に着けて自信と能力を身に着けて欲しい」
そう言って、男性の人は箱から指輪を取り出した。すると、隣の女性がニコニコと笑って説明をする。
「まず、素材からして特別なの。使われているのは、遥か遠くの鉱山でしか採れない、とても貴重な魔鉱石。普通の魔石とは魔力の通り方がまるで違っていて、ほんの少し触れるだけでも魔力を増幅してくれるのよ」
「そ、そんなに凄いんですか?」
「ええ。しかも、それだけじゃないわ」
女性は指輪をくるりと回し、光を当てる。
「この形に仕上げるまで、熟練の職人が何日もかけて丁寧に加工しているの。魔鉱石はとても繊細だから、少しでも加工を間違えると魔力の流れが乱れてしまうのよ。だから、これほど美しく、なおかつ高い性能を持った指輪は、そう簡単には作れないの」
「へぇ……」
「もちろん、見た目だけじゃないわ。この指輪を身に着ければ、持っている魔力そのものを底上げしてくれる。魔力が増えれば、それだけ強力な魔法を使えるようになる。今まで使えなかった魔法だって、使えるようになるかもしれないわ」
「そ、そんなことまで……?」
「そうなの。だから、魔法使いを目指す人には、とても人気の商品なのよ。今、買わないと、すぐに他人の手に渡ってしまうわ。もちろん、買うわよね?」
ニッコリとした笑顔を向けて、女性がそう言った。話を聞けば、凄い指輪だっていうのが分かる。でも――。
「それからは、何も力は感じませんよ」
首を傾げて、私は説明を始めた。
「見たところ、普通の鉄で出来ているようですね。素材の元素を確認したのですが、そこの辺にある鉄と変わりありません」
「なっ!?」
「それに、そこからは能力は感じません。魔力を増やすような性質もありませんし、魔法の威力を高めるような魔力の流れも存在していません」
私は指輪をじっと見つめながら、さらに続ける。
「魔力を増やすためには、外から魔力を取り込むか、持っている魔力の回復効率を高める必要があります。でも、この指輪には魔力を取り込むための構造も、回復効率を上げる構造もありません。それに、魔法の威力を上げるなら、魔法へ流す魔力そのものを増幅する仕組みが必要ですけど……これにも、そんな機能はないです」
「……え?」
「だから、この指輪を身に着けても、魔力が増えることも、魔法の威力が上がることもないと思います。ただの鉄の輪、みたいですね」
指輪に関して素直な考察を言ってみた。すると、男女は顔色を悪くして――。
「そ、そうだ! これは他に渡す人がいるんだった!」
「そ、そうだわ! じゃ、じゃあ!」
「えっ、あのっ……!」
男女は足早に私の前から消えてしまった。一人残された私はどうしようも出来なくて、ただ茫然と立っていた。
「あぁ、宿の場所……。仕方がない、一人で探そうかな」
私は地図とにらめっこをして、難しい道順を確認していった。




