37.デモンストレーション(2)
みんなに注目される中、私は身を縮めるようにして壇上へと向かった。どうしてこんなことに……。
さっきまで、レイチェル様が魔法を披露するのを楽しんで見ていただけなのに。まさか、その次に私が壇上へ上がることになるなんて思ってもいなかった。
できることなら、このまま誰にも見つからない場所へ逃げ出したい。でも、ここで逃げたら余計に目立ってしまう。そう考えると、逃げることもできなかった。
壇上に上がると、在校生代表の男子生徒が私のところまでやってきて、そのまま中央へ連れていく。
観客席から何百人もの視線が集まっているのが分かる。こんな大勢の人に見られるなんて、今まで一度も経験したことがない。
手も少し震えている気がする。ちゃんと立てているだろうか。変な顔をしていないだろうか。
「この子が新入生首席のユフィだ!」
そう紹介された瞬間、在校生から歓声が上がり、新入生からは大きなどよめきが起こった。
ひぃっ……! さっきより、ずっと注目されている!
私の顔は絶対に引きつっている。今すぐ顔を隠したい。そんな私の顔を、隣にいるレイチェル様がじっと見つめてくる。
は、恥ずかしい! そう思っていると、レイチェル様が小さく溜息を吐いた。
……その溜息には、どんな意味が!? 頭の中でいくつもの可能性を考えていると、レイチェル様が小さな声で呟いた。
「別に……なりたくて新入生代表になった訳じゃないから」
「えっ?」
思わず聞き返してしまう。レイチェル様は少しだけ視線を逸らし、それから静かに続けた。
「お父様の命令だったから、断れなかったわ。だから、本来はあなたの出番だったのを奪って、ごめんなさい」
「いえ、そんな……」
慌てて首を横に振る。むしろ私は、レイチェル様が代表になってくれて助かったと思っていた。
私だったら、あんな大勢の前で宣誓なんて、とてもできなかった。だから、謝られる理由なんてない。
「そう言うことだ。実はユフィがこの場に出てこれるように、レイチェルが俺にお願いしてきたんだよ」
「レイチェル様が?」
思わずレイチェル様を見る。どうして……?
私はレイチェル様を怒らせてしまったと思っていた。魔法のことを勝手に見抜いてしまったせいで、嫌われたのだと思っていた。
こちらを見ていたレイチェル様だったけれど、突然視線を逸らす。
「……あなたの魔法、まだ一度しか見ていない。私は二度も見せたのに、そんなの卑怯じゃない。あなたは散々、私の魔法を見抜いたっていうのに……」
「あっ……」
レイチェル様は私の魔法に興味があった? 嫌いじゃなくて、純粋にそう思ってくれた? そう思うと、嬉しい気持ちが沸き上がってきた。
「よし、これではっきりとしたな。気持ちがスッキリしたところで、魔法を披露してくれるかな?」
「えっと、人に見せるための魔法は使うのが初めてで、上手くいかないかもしれませんが……」
「それでもいい。ユフィは今できる最高のパフォーマンスを見せるだけでいい」
「最高のパフォーマンス……」
「ユフィの全力を見せてくれ!」
私が今できる全力……。私もあんな風にみんなを驚かせたり、喜ばせたりしたい。そのためには、全力で当たるしかない。
「……はい。私、やります」
「その意気だ。みんな、これから新入生首席のユフィの魔法を見せる! しっかりと目を見開いてみるんだぞ!」
二人は私から離れ、私は深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。そして、空に向けて両手を突き出した。
身体の奥から大量の魔力が溢れ出していく。それは一気に空へと広がり、私の頭上を覆っていった。
頭の中にあるのは、一つのイメージだけ――ドラゴン。大きくて、強くて、空を自由に飛ぶ生き物。
まずは、大きな身体。魔力の塊がゆっくりと形を変え、巨大な胴体を作っていく。そこから四本の脚が伸び、長い尾が生まれる。
さらに背中から大きな翼が広がった。大空を飛ぶための、力強い翼。
次は表面。魔力を細かく分け、一枚一枚を重ねていく。固い鱗を表現する。傷つきにくく、強そうに見えるように。
頭部を作り、口を大きく開かせる。そこに鋭い牙を並べていく。
最後に――目。細く鋭い形に整えて、こちらを睨みつけるような表情を作る。
「出来ました、これが私のドラゴンです」
「ギャオォォンッ!」
ちゃんと声が出るように微調整をしたから、これで本物に見えるに違いない。ドラゴンを操作して、翼をはためかせて宙に浮かび上がらせる。
その光景を、全員が唖然とした様子で眺めていた。まだ、インパクトが足りない? それだったら――。
「じゃあ、火!」
ゴォォオオオオッ!
ドラゴンの口から火を噴きださせた。その瞬間――。
「ドラゴンッ!? ほ、本物!? どうして、ここにっ!?」
「こ、これは召喚魔法かっ!? に、逃げなきゃっ!」
「うわぁぁっ、こ、殺されるーっ!」
在校生も新入生も驚き、逃げ惑う。本物だと勘違いをしているようで、ちょっとだけ嬉しかった。頑張ったかいがあったなぁ……。
隣を見て見ると、唖然としている在校生代表とレイチェル様の姿があった。これは……ちゃんと驚いてくれている?
「あ、あの……ど、どうですか? ちゃんと、出来てました?」
恐る恐る聞いてみると、レイチェルが勢いよくこちらを見た。
「あなたっ、多重魔法の展開をあんなに複雑にっ! 一体、いくつの魔法を重ね掛けしているのよ!」
「あっ、分かります? こういうのはしっかりとしたイメージが――」
「なんで話しながら、あの魔法を難なく発動しているのよ! なんで、こんな、なんでっ!?」
ふふっ、レイチェル様と魔法の話が出来て嬉しい。その気持ちのままお話をしながら、ドラゴンを操作していった。




