35.入学式(2)
「入学おめでとう。このクラスの担任になった、カレン・ヴァルハートだ。よろしく頼む」
長身の女性が教卓の前に立った。茶髪の髪を一つにまとめ、都会の女性らしくカッコよく教職員の制服とローブを身にまとっている。
「話をしたいところだが、先に入学式を終わらせないといけない。各自、講堂に集まるように。移動開始」
カレン先生がそういうと、教室中がざわめいた。生徒たちは言われるままに廊下に出て、講堂を目指して歩いて行く。私もロゼリア様たちと一緒に廊下に出た。
そこで、私はため息を吐く。
「レイチェル様とあまり話せませんでした……。何がいけなかったのでしょう」
「……それは突っ込み待ちか?」
一人でボヤくと、前を歩くアルベルト様が引きつった顔でこちらを見てくる。
「えっと、何が悪かったか……分かりますか?」
「君は、レイチェルが誰にも知られたくなかった魔法を、あっさり見抜いただろう? しかも仕組みまで言い当てて、本人がどれだけ時間をかけて作ったのかも考えずにね。つまり……君は悪気なく、レイチェルの自尊心をものすごく傷つけたんだよ」
「えっ!? そ、そうなんですか!? わ、私はただ褒めようとしていて……」
「相手はそう受け取らなかったみたいだ」
「……会話って難しいんですね」
ここで、あまり人と話してこなかった弊害がっ! 仲良くするには誉めたらいいって寮長が言っていたから、そうしてみたんだけど……私に褒める技術がなかった!?
すると、隣で歩いていたロゼリア様が肩を叩いてきた。そして、キリッと表情を引き締める。
「分かったわ。じゃあ、今度ユフィにも褒め方のレクチャーをしましょう。この学園で生活するには必須の篭絡技術よ」
「いやいや、それは言い過ぎだって! ユフィちゃんに必要なのは、普通に交流するやり方だよ!」
ロゼリア様は褒め方を、ミレイ様は普通の交流を。一体、どっちが正しいのだろうか? 魔法のことならすぐに頭が働くけれど、こういう時は思うように頭が働かない。
そんな話をしている内に講堂に辿り着いた。誘導員に従って、新一年生は並べられた椅子に座った。そうして、時間が経つと、講堂には新一年生が集まった。
ガヤガヤと騒がしい講堂内。やがて、講堂内に進行役の声が響き渡り、入学式の始まりが告げられた。
新入生たちが静かに前を向く中、式は滞りなく進んでいく。
新入生の入場に続いて、開式の言葉。学園関係者の紹介や来賓の紹介が行われ、王立グランセリア魔法学園の新たな一年が正式に始まったことを実感させられる。
そして、いよいよ学園長からの言葉となった。壇上に立ったのは、もちろん学園長のアーヴェル様だった。
アーヴェル様は講堂に集まった新入生たちをゆっくりと見渡す。
「君たちは今日、この王立グランセリア魔法学園の門をくぐった。ここで学ぶのは、ただ魔法の使い方だけではない。多くの人と出会い、知識を得て、失敗し、そして自分自身の可能性を見つけてほしい。ここで過ごす時間が、君たちの人生にとってかけがえのないものになることを願っている」
その言葉を最後に、学園長の話が終わった。
「続きまして新入生代表による、宣誓です。新入生代表、レイチェル・ヴァルディア」
「はい」
その言葉に新入生がざわつき、近くの人が一斉にこちらを向いた。えっ、な、何?
レイチェル様が壇上まで上ると、宣誓を始めた。それでも、近くの人からの視線は私に向けられている。戸惑っていると、隣にいるロゼリアが小声で教えてくれる。
「普通は首席がやるんだけれど、どういう訳か次席のレイチェルがやるみたい」
「じゃ、じゃあ……本当はあれを私がやるんですか? ……よ、良かった、私じゃなくて」
「……いいの? 名誉な事よ」
「いえいえ。こんな大勢の前で話すなんて、無理ですから」
わ、私が新入生代表に選ばれなくて良かった。どうして、レイチェルが選ばれたか分からないけれど、本当に助かった。
レイチェル様は流れるような口上で宣誓を終わらせると、講堂中から拍手が沸き起こる。私も拍手をしていると、レイチェル様と目が合ったような気がする。まぁ、きっと気のせいだ。
こうしていくつもの式次第を終え、入学式は無事に閉式となった。
長いようで、あっという間だった。私は初めて参加する大きな式典に少し緊張しながらも、これから始まる学園生活への期待を胸に、静かに立ち上がった。
「では、この後――アリーナで在校生によるデモンストレーションがあります。新入生はアリーナに移動してください」
その言葉に講堂のざわつきが大きくなる。一体、何があるのだろうか?




