33.買い物
何もやることがないので、学園の教本を読む日々を続けていた。日常の仕事がないっていうだけで、こんなにも本に没頭することが出来る。なんて素敵な学園生活なんだ。
そういえば、学園には大きな図書室、なるものがあると寮長から聞いた。なんでも、たくさんの本がいっぱいあるとかないとか。
まさに、夢の世界だ。早く図書室に入りたいが、まだ入学式を終えていないので、無理とのこと。このもどかしい気持ちを抑えるため、教本を何度も読み返したりした。
そんな堕落した日々を過ごすこと、数週間。いつも通りに本を読んでいると、窓から音がした。顔を上げると、そこには伝書の魔法が窓を突いていた。
「誰からだろう?」
不思議に思いつつも、窓を開けた。すると、伝書が私の肩に止まる。
『ユフィ、久しぶりね、ロゼリアよ。学園の準備が出来たから、明日にでも買い物に行きましょう。ミレイも終わったようだから、二人で迎えに行くわね。寮の門で午前九時に迎えに行くわ』
「あっ、連絡だ! そっか、明日お買い物か……。えへへっ、楽しみ」
とうとう、待ちに待ったお買い物だ。どれだけお金を使うのか怖いけれど、王都を見回るのは楽しみだ。
「そうだ、返信しないと!」
私は魔力で伝書を作ると、そこに声を録音する。
「分かりました。明日、寮の門で午前九時ですね。楽しみにしてます」
しっかりと声を録音すると、伝書を放した。伝書はシュンッと残像を残して、音速の速さで飛んでいった。
◇
翌日、私は寮の門の前で待っていた。楽しみ過ぎて、三十分前から待っている。
「そろそろかなぁ……。あっ、来た!」
通りの向こう側を見て見ると、見慣れた馬車が近づいているのが見えた。その馬車は私の前に止まると、扉が開く。
乗り込もうとすると――。
「ちょっと、ユフィ! 昨日の伝書は一体なんなの!?」
「えっ?」
乗り込んですぐ、ロゼリア様の大声が響いた。ロゼリア様は困惑した表情で必死に訴えてくる。
「私が出した伝書は一時間もかかるのに、戻ってきたのは一時間と数分。一体、どれだけ速いの!? びっくりして、紅茶を噴き出しちゃったわ!」
「あっ、いえ……伝書は速さが肝なので、そのように改良しただけですが……」
「速さが肝って……一時間の道のりを数分に短縮するのは異常すぎるわ!」
でも、伝書は速さがあったほうがいいんだけどなぁ……。こんなに驚かせるなら、一緒に会話出来るような魔法を生み出した方がいい? ……それは、楽しそうだ。
と、考えているとミレイ様の笑い声が聞こえてくる。
「あはは! 私もその伝書、見たかったなぁ。今度、私とも伝書交換しようよ」
「はい! もし、新しい魔法が出来たら、その時は相手してくださいね!」
「……どうして、新しい魔法の話になるのかな?」
魔法学園、楽しいことがいっぱいになりそうだ。期待しながら私は席に着くと、馬車は動き出した。
「でも、新しい魔法もいいかもね。面白そう! そうだよね、ロゼリアちゃん!」
「とにかく、ユフィには都会の常識というものを教えないと……。いつ、異常な魔法を使うか分からないわ」
「……ダメだ、話を聞いていない。まぁ、いっか! ユフィちゃん、久しぶりにお喋りしよっか!」
「はい!」
ロゼリア様はぶつぶつと何か独り言を言っていて、話を聞いてくれない。そこで、私たちは二人で会話を楽しむことにした。
馬車の中では、楽しそうな話し声が響いていった。
◇
それから、ロゼリア様とミレイ様は色んな所に連れて行ってくれた。まずは服装が大事だと、仕立て屋を訪ねた。そこではなんと、オーダーメイドで服を作るところだった。
古着を着ていた私にとって、それは雲のように高い存在。だけど、王立グランセリア魔法学園に通うなら、これくらいが普通だって二人は言っていた。
だから、そこで採寸をし、服のデザインを決めた。とても長い時間拘束されて、終わる頃にはへとへとになっていた。
だけど、買い物はこれだけでは終わらない。身の回りの品、靴やカバンアクセサリーまで。全ての物を新調する勢いで、二人は私に合うものを選んでくれた。
その度に大金が飛んで行って、目が回るような気持ちだった。これが都会……恐ろしい!
一旦カフェで休憩を挟んで、午後も買い物を続けた。寮生活で必要な備品や消耗品を買い漁った。初めて見るものが多く、二人に使い方を教わりながら買い込んでいく。
そして、全てが終わる頃には、馬車の中は買った物で溢れかえっていた。
「こ、こんなにたくさん……付き合ってくださってありがとうございます」
「とりあえず、今日中に集まってよかったわね。私たちは屋敷から通うことになるから、その準備はないけれど」
「もし、何か不便なことがあったら言ってね。便利な物を教えるから!」
一日かけて買い物に付き合ってくれた二人には本当に感謝だ。でも、どうしてここまでしてくれるのだろうか?
「えっと、どうしてここまで親切にしてくれるんですか?」
「それは、ユフィが放っておけないからよ。つい、手が出ちゃうのよね」
さらっと、ロゼリア様がそう言った。ロゼリア様は出会った頃からそうだった。これは、本人の性格なんだろうか?
その横では、ミレイ様がちょっとだけ俯き、言い辛そうにしている。
「ミレイ様?」
「えっと……あんまり仲良くしてくれる人がいなくって。でも、ユフィちゃんはわけ隔たりなく接してくれて、嬉しかったからかな」
照れ臭そうにポツリと言った。ミレイ様の性格なら誰とでも友達になれそうだけど、そうじゃない?
「私、田舎から出てきたばっかりで……何も分かりませんが、これからも仲良くしてくださると嬉しいです」
「私も! そうしてくれると嬉しい! ユフィちゃんがいるだけで、学園生活がもっと楽しくなりそう!」
私たちは笑い合うと気持ちを確かめ合った。仲の良い人がいるだけで、こんなにも楽しくなるなんて思ってもみなかった。
これからの学園生活、一体どんなものになるのだろうか?




