31.入寮(2)
「部屋に向かう途中に色々と説明するわね」
そういって、寮長は寮を案内してくれた。まず先に案内されたのは、食堂だった。
広々とした空間には、たくさんのテーブルと椅子が整然と並べられている。床も壁も綺麗に磨かれていて、私には少しばかり豪華すぎるように感じられた。
こんな場所で食事をするのかと思うと、自分が場違いなところに来てしまったような気持ちになる。
ここでは朝食と夕食が用意されるらしい。
自分で食事を作らなくてもいいというのは、とても助かる。村では毎日のように自分で用意していたから、食事の心配をしなくていいだけでも、かなり楽になりそうだった。
次に向かったのは洗面所だった。そこには見慣れない金属の器具が取り付けられていて、これが都会で使われているという「蛇口」らしい。
教えてもらった通りに捻ってみると、なんと水が出てきた。今まで水を使う時は、その都度魔法で出していたから、蛇口を捻るだけで水が出てくることに感動してしまう。
魔法を使わなくても水が使える。それだけのことなのに、ものすごく便利に感じた。都会の設備って凄い。
さらに進むと、お風呂もあった。しかも、朝でも昼でも夜でも、好きな時間に入れるようになっているらしい。今まではお風呂に入るためにも、自分でお湯を用意していた。
それをしなくても、好きな時に温かいお湯に入れる。なんて恵まれた場所なんだろう。これなら魔法を使う時間も、その分だけ増やせそうだ。
その後に案内されたのはランドリーだった。着た服はここに持ってくれば、専門の人が洗ってくれるらしい。
自分で洗濯をしなくてもいい。それを知った瞬間、私は思わず考え込んでしまった。
洗濯って、結構大変なんだよね。もし汚れを簡単に取り除ける魔法を作ったら、もっと楽になるだろうか。洗濯物を一瞬で綺麗にできたら、とても便利そうだ。
……今度、試してみようかな。そんなことを考えながら、私は寮の中を見て回った。
食事を用意してもらえて、水も簡単に使えて、お風呂にも好きな時に入れて、洗濯までしてもらえる。これまで村で自分がやっていたことの多くが、ここでは必要ないらしい。
なんだか、とても不思議な気分だった。そうして寮内の見回りを終え、いよいよ私が暮らす部屋の前までやってきた。
「ここがあなたの部屋よ」
そう言って寮長は扉を開ける。中を見て見ると、十五畳ほどの広い部屋が見えた。
「わぁ、意外と広いんですね」
大きな窓が二つ。綺麗なベッドが端に一つ。広い机が一つ。タンスに棚にハンガーラックもある。暮らしていくのに必要な物が揃っていた。
「もし、足りないものがあったら買い足せばいいわ。あと、それと……教材も全部揃っているわよ」
「あっ、本当です! 本棚に本がたくさん!」
「制服はまだ作っている段階だから、完成次第配達されるわ。配達されたら、ちゃんと届けるから」
「そ、そこまでして下さるんですね。助かります」
至れり尽くせりとはこのことを言うのだろう。田舎での一人暮らしと、学園の寮生活……全く違う生活になりそうだ。
「はい、これが寮内の地図ね。何か困ったことがあったら、何でも相談して。力になるわ」
「あ、ありがとうございます! 相談できる人がいて、本当に助かります」
ここでも、頼りになる人がいてくれて安心した。私は一人じゃないって思ったら、とても心強い。
少し話した後、寮長は「ごゆっくり」と言って、部屋を出ていってしまった。一人残された寮室。ワクワクとした気持ちがまだ残っていて、何かをしたくなった。
きょろきょろと見渡すと、目に飛び込んできたのは――本棚。そこに仕舞われていた魔法に関する書物だ。
「これ、私の家になかった本だ……。わぁ、新しい本……いつ振りだろう……」
手に取って、席に着くと本を捲る。すると、すぐに意識が本に向かい――それしか見えなくなった。
◇
……なんか暗いな。そう思って、本から顔を上げると――外は月明かりが差し込む夜になっていた。
「あっ、夜!? じ、時間は!?」
慌てて壁に掛けてあった時計を見ると、午後十時を指していた。
「し、しまった……夕食食べ損ねた……。うぅ、新しい本に浮かれてしまった……」
つい新しい本が嬉しくなって、夢中で読み進めてしまった。我に返ると急に空腹が襲ってきて、お腹がキュルルッと鳴った。
「これは仕方がない……。明日の朝まで我慢しなくっちゃ」
頬杖をついて、溜息をつく。こんなことは一度や二度じゃなかったから、気を付けていたのに……久しぶりにやってしまった。
まだ目も頭を冴えていて、寝付けそうにない。このまま空腹と戦うことになるのか……。そう思っていると、窓から音がした。
顔を上げてみると、そこにローブを被った人がいた。……三階に人!? 驚いて立ち上がり、窓を開ける。すると、その人はローブを取った。
その瞬間、月明かりがその人の姿を照らした。
銀色の長い髪が夜風に揺れ、月の光を受けてきらきらと輝いている。雪のように白い肌に、整った顔立ち。長い睫毛の下にある瞳は夜の中でもはっきりと分かるほど美しく、その姿はまるで――本の中から、そのまま抜け出してきたお姫様みたいだった。
こんなに綺麗な人、今まで見たことがない。思わず見惚れてしまっていると、その人は口元に小さな笑みを浮かべた。
「こんばんわ、怪物さん」




