30.入寮(1)
光が収まると、そこはずっと泊まっていた宿屋の部屋だった。
「ふー、何とか戻ってこれたー」
私は背伸びをして、息を吐いた。家のことは、全部やってきた。家畜を売ってさよならして、畑を更地にして、家の整理も。あとは、透過魔法をかけて姿を消しておいた。これで、私がいない間に悪戯をする人はいなくなっただろう。
でも、これでしばらく家に帰らないとなると、少し寂しい気持ちになる。
「ううん、これから新しい生活が待っているんだから、落ち込んではいられない!」
自分に喝を入れる。折角手に入れた機会だ、生かさなくてどうする。ペチペチと頬を叩いた時、テーブルに紙が置かれていたのが見えた。
「あれ? なんだろう……」
近づいて、紙を見る。そこには綺麗な字でロゼリア様からのメッセージが書かれてあった。
「えーっと……『こちらの準備が終わり次第、一緒に買い物に行きましょう。絶対に一人で行かない事、分かった?』っと。なんだか、保護者みたい……」
ロゼリア様の面倒見の良さはゼロムスさんを思い出す。なんだか懐かしい気持ちになって、気分が落ち着いた。
これからは新しい関係を築いて、自分の新しい人生を歩まなければいけない。まずは、ロゼリア様たちといい関係を築けるように気を付けていこう。
「じゃあ、ロゼリア様たちが来るまで私は何をしていようかな?」
一人で買い物に行ったらいけないと言われたので、やることがない。ずっと、宿屋にいるのも疲れるし、何かないかな?
と、その時。窓の方で音がした。顔を向けると、そこには見慣れた魔法媒体がいた。
「あっ、伝書だ! 懐かしい!」
それは鳥の形をしていて、魔力で出来ている魔法媒体。良く、外で魔法で遊んでいる時に、ゼロムスさんから伝書で呼び出されたっけ。
という事は、私に何か伝えたい人がいるって事? 一体、誰だろうか? 不思議に思いつつも、窓を開ける。すると、伝書が羽ばたいて私の肩に止まった。
「えっと、魔力を出してっと」
伝書に指先で魔力を渡す。すると、収められていた伝言が再生される。
『アーヴェルだ。寮の準備が整った、明日にでも入寮できるから、寮の受付を訪ねるといい』
伝言はそれで終わり、伝書はスゥッと消えた。
「わぁ、もう寮の準備が整ったんだ。宿代もかかるから、明日にでも行ってみよう」
寮……一体、どんなところだろうか? 考えるだけでワクワクして、今日は眠れなそうだ。
◇
「いつ見ても、大きいなぁ……」
正門の前で立ち尽くして見上げる。王立グランセリア魔法学園の建物はとても大きく、そして広い。その大きさに圧倒されて、中々踏み込めない。
「……えぇいっ」
でも、とうとう踏ん切りがついた。正門を越えて、私は敷地内へと入って行った。手に持った地図を確認しながら、寮の場所へと向かっていく。
そうすると、校舎の傍に寮の建物があった。赤レンガで造られた建物は温かみがあって、馴染みやすい風合いだった。
だけど、建物は大きい。こんな大きな建物で寝泊まりするなんて、恐縮してしまう。恐る恐る建物に近づき、大きな扉を開けた。
そこは広いエントランスになっていて、天井が高いし、床には絨毯が敷かれてある。まるで、別世界に来た感じだ。
「わぁ、凄い……」
「いらっしゃい。初めての生徒さん?」
「あっ」
エントランスを見ていると、声がした。勢いよく振り向くと、カウンターのある場所におばさんが立っていた。
「すいません……。えっと、初めてです。あっ、これ……生徒バッチです」
「どれどれ……確かに。あなたが今年の一番乗りよ。良かったわね」
「ど、どういうことですか?」
「寮に一番乗りをした生徒はね、メルテルテ女神の祝福を授かって、素敵な学園生活を送れるっていうジンクスがあるの」
「す、凄い……」
寮に一番乗りしただけで、創造神と言われたメルテルテ女神の祝福が!? 神様の祝福か……魔法では再現できない領域なんだよね。でも、いつか再現出来るようになれば……。
「ふふっ、こんなに話を真に受けてくれた子は初めてよ」
「あはは、すいません。そうだったら、楽しいなって思って」
「それで、あなたの名前は?」
「あっ、申し遅れました。ユフィって言います」
「ユフィ……あぁっ! 学園で初めて特待生に選ばれたって凄い子よね! 制度を変えちゃうなんて、あなたはとんでもない魔法使いになりそうだわ」
あっ……そこまで知られているのか。なんだか、恥ずかしいような気がする。
「あなたの部屋は早めに用意してって言われたから、もう用意は出来ているわ。着いてきて」
そう言って、おばさんは一度奥の個室に入ると、手に鍵を持って歩き出した。私はその後を追っていった。




