26.王都で買い物
宿屋の前で立っていると、通りの向こうから馬車が現れた。見たことがある馬車だ。それは私の目の前で止まり、扉が開く。
「ユフィ、お待たせ。迎えに来たわ」
「ユフィちゃん、おはよう!」
「おはよう」
「皆さん、おはようございます!」
ロゼリア様の馬車にはすでにミレイ様とアルベルト様が乗っていた。私は恐る恐る馬車に乗った。扉を閉めると、すぐに馬車が動いた。
「馬車まで出してくれて、ありがとうございます」
「いいのよ。今日一日で何か所がいかないといけないから、この方が便利なのよ」
「まずはどこに行くんだ?」
「教材を買いに行きましょう。その後は制服を見に行って……」
「はいはいはーい! 途中でカフェも入れてー!」
……カフェ! あの素敵な場所に行ける!? 興奮気味に頷くと、それを見たロゼリア様が笑う。
「ふふっ、そんなに喜んじゃって。じゃあ、それが終わったらカフェね」
「い、いいんですか! 楽しみです!」
「学園の生徒になるんだから、教材を買いに行く方を楽しみにした方が良くないか?」
「それとはまた別の楽しみだよー」
カフェにいける。馬車の中が楽しい。素敵な時間を堪能出来て、笑顔が消えない。
――だけど、私の笑顔もそこまでだった。
◇
「王立グランセリア魔法学園、一年生の教材一式ですね。一人、百万コルになります」
その言葉に私の笑顔は凍り付いた。教材一式だけで……百万コル?
「ソルコック侯爵家に請求して」
「私はハートレット男爵家に!」
「僕はグランフォード伯爵家」
驚く私の隣で平気な顔をして、三人は言った。なぜ、そんなに驚いていないか……謎だ。
こ、これが貴族の余裕!? 百万コルなんて大金、平気な顔して出しちゃうんだ! し、信じられない!
「ほら、ユフィは自分で出すんでしょ? 貰った拡張財布からお金を出しなさい」
「ははは、はいっ!」
慌てて私はカバンから貰ったばかりの拡張財布を取り出した。これは魔法の力で財布の中身が拡張され、見た目以上に入るようになっている。
「百万コルは小金貨一枚だよ」
「えっと、これでしょうか?」
「うん、それそれ!」
この小さな金貨で百万コルの価値があるなんて信じられない。私は震える手でその小金貨を店員に渡した。
「お買い上げ、ありがとうございます。では、ユフィ様の教材は学園の寮にお届けいたします」
「は、はい……」
寮に入ったら百万コルもする教材と一緒に寝食を共にするって事!? し、心配しすぎて、絶対に寝れない!
◇
「王立グランセリア魔法学園の制服とローブですね。制服が一着三十五万コルで、ローブが十五万コルになります」
その値段を聞いて、私はすくみ上った。私の服なんて五千コルくらいなのに、その数十倍もするのっ!?
「私は五着、お願い」
「僕は三着だ」
「私も三着ー!」
……えっ? 一着でも高額なのに、それを数着も?
「ほら、ユフィも」
「えっ、えっ……い、一着で」
「君は馬鹿か。代えはあったほうがいい。最低でも二着は用意しろ」
「え、えー……」
「じゃあ、ユフィちゃんは二着ずつでお願いしまーす!」
「ちょっ!」
「はい、二着ですね」
そ、そんな……待って! 二着ずつってそれって――また百万コル、するんだけどっ! 一日で二百万コルが飛んだ!
「あ、あはは……」
顔から血の気がサーッと引いていく。わ、私……入学したら五十万もする服を着て過ごさなくちゃいけないの? こ、怖くて一歩も動けないっ!
◇
「はぁはぁ……」
「ユフィちゃん、どうして息切れしているの?」
「げ、現実が……現実が頭を強打してきたので……」
「……どういう意味だ?」
よろよろと歩き、席に座る。ようやく、息を付ける場所に来た。それにしても、あんなに大きな買い物をしたのに、三人はどうして平気なんだろうか。
流石、お貴族様。住む世界が違いすぎる。もう、王都での買い物が怖くていけない……。
でも、カフェは違う。とても居心地がよくて、私がいても大丈夫なんだと教えてくれる。はぁ、本当に心が和む。
「ユフィ、今度は自分でメニューを選んでみる?」
すると、ロゼリア様がメニュー表を渡してきた。始めてはいった時は訳も分からなかったので、ロゼリア様のおすすめをお願いしてみた。
だけど、今度は自分で選ぶのも良いかもしれない。
「はい、ぜひ!」
私がメニュー表を受け取り、その中身を確認すると――すべてのメニューが一万コルを越えていた。
ピシリ、と体が固まる。それから、全身の血の気が引いていく。
わ、私……一日の食費の十倍以上の物を食べていたって事!? こ、怖い! 王都が怖くなってきた!
私、本当にここで暮らしていけるのっ!?




