24.最後の試験(3)
屋根を取り外すと、次に塔の外壁に取り掛かる。
塔を固定したまま、流れるような衝撃を与えて建材を引き剥がす。と、同時に浮遊の力で引き剥がした建材を持ち上げる。
その建材を素材ごとに仕分けすると、地面に自動で積み重なっていく。全てが流れるような動きで魔法が発動している。
「こ、これって……四つの魔法を同時に発動しているってことなの?」
「ど、どういう原理なんだ。いや、どういう頭をしているんだ、ユフィは!」
「ちょっ……訳分かんないっ。分かんないよー!」
三人の声が聞こえてきて、魔法を止めずに振り向いた。
「えっと、私の場合は、魔法を四つ同時に発動しているというより、一つの術式の中にいくつもの魔法を組み込んで、それぞれに別の役割を持たせているんです。魔法を一つずつ発動しているわけじゃなくて、最初に全部の流れを作っておいて、条件を満たした魔法から順番に動かしているんです。こうすると、いちいち魔法を止めたり発動し直したりしなくていいので、同時にいくつでも動かせますよ」
「ちょっ、魔法に集中しなさいよ!」
「えっ? 集中してますよ?」
「どうして、それで普通に喋れるのよ!」
どうしてって言われても、魔法はすでに流れに乗っているだけだから、意識はそれほど必要ないし。感覚でも感じ取れているから、それでも確認しているし……。
そうこうしている内に、塔が半分になり、三分の一になり――とうとう、全ての塔を解体し終えた。
「はい。建物を傷つけることなく、塔を解体出来ました」
久しぶりにたくさんの魔法を発動出来て、楽しかった。始めは難しい試験だと身構えていたけれど、やってみると思ったよりも大丈夫だったみたいだ。
「アーヴェル様、どうでしょうか?」
「……こんなことが、信じられない」
試験の結果が気になってアーヴェル様に尋ねると、片手で顔を覆い隠して俯いていた。こ、これは……もしや不合格?
「えっと、もしかして……どこか悪かったでしょうか?」
「いや、悪かったどころか……何一つとして悪いところがない。むしろ、私の想定を完全に超えている」
アーヴェル様は顔を上げ、困惑したような、それでいて感心しているような複雑な表情で私を見る。
「今回の試験で私たちが求めていたのは、単純な破壊力ではない。周囲に被害を出さず、対象だけを正確に解体する技術。そして、そのために必要な魔力制御と判断力だ。君はそれらをすべて満たした」
「……えっ」
「正直に言えば、私は途中から採点することを忘れていた。あまりにも自然に魔法を組み合わせていくものだから、いったい次に何をするつもりなのか、それを見ているだけで精一杯だったよ」
「そ、そうなんですか?」
「ああ。だから安心していい。少なくとも、試験の出来が悪くて不合格になるなどという心配は必要ない。君の実技については――文句のつけようがないほど、見事だった」
そ、それって……合格ってこと? 不安になっていた時、ミレイ様が飛び込んできた。
「ユフィちゃん、合格だよ、合格! 良かったね!」
「あっ、そ、そうなんですね」
「あんなに凄い魔法を見せて、不合格にしていたら頭おかしい人だよ!」
私を抱きしめてピョンピョンと飛び跳ねる。その反応を見て、じわじわと合格した喜びが湧き上がってきた。
「とんでもない魔法を見せてくれたわね。正直、ユフィの魔法を見て信じられない気持ちだったわ」
「君は、なんて言うことをしてくれたんだ。あんなことが可能だなんて……! 僕は考えを改めないといけない!」
笑顔だけど複雑そうなロゼリア様。怒っているんだか、褒めているんだか分からないアルベルト様。
それは喜んでいいのか、分からない。二人からははっきりと、私の見方が変わっているような気がする。
「もう、訳が分からない!」
その声に振り向くと、レイチェル様が複雑そうな顔をして頭をかきむしっていた。
「魔法を見れば分かると思ったけれど、余計に分かんなくなっちゃったわ! どうして、田舎暮らしでそんな魔法が使えるようになるのよ!」
「えっと、それは……便利に暮らしたかったから、色々と……」
「……たった、それだけ? 私は必死で頑張ったのに、あなたはそれだけの理由であそこまでのことが出来たの?」
ショックを受けた顔をして、呆けた。何か、嫌な事でも言ってしまっただろうか。なんと声を掛けていいか戸惑っていると――。
「――そんなあなたには負けたくない。あなたを越えてみせる」
真っすぐに見つめられ、宣言された。それは誰も追従を許さない怪物と言われた私にとって、ずっと対等に競える相手が生まれた瞬間だった。




