23.最後の試験(2)
「ロゼリア様を見て、閃きました。物を浮かせる魔法で塔を解体します!」
そう宣言すると、みんなが目を見開いて驚いた。その中でレイチェル様はすぐに怪訝な表情を示す。
「浮遊の魔法で塔を解体出来るわけじゃないじゃない。あの塔はしっかり固定されていて、浮遊の力では建材は外れない」
「物を浮かせられるからと言って、固定された建材をやすやすと壊せるわけがない。もっと、他の魔法を使えばいい」
その言葉にアルベルト様も同意した。二人の懸念は固定された建材が浮遊の力では外れないということ。だけど、それも考えてある。
「いえ、壊すのは別の魔法を使います」
「えっ? 浮遊魔法を発動させながら、破壊の魔法を発動させるの? それは、無理なんじゃ……」
「ということは、ユフィちゃんは二つの魔法を同時に発動できるってわけ!?」
ロゼリア様が言葉を濁すと、隣でミレイ様が信じられないように声を上げた。えっと、私……何か驚かれるようなことを言った?
「……あなた、本気で言っているの?」
戸惑っていると、レイチェル様が信じられないものを見るような目で私を睨んでいる。
「えっと……はい」
「二つの魔法を同時に発動する。それがどれだけ難しいことなのか、分かっているの?」
「……難しいんですか?」
私が首を傾げると、レイチェル様は頭を抱えるように額へ手を当てた。
「難しいなんてものじゃないわ。魔法というのは、ただ魔力を流せば発動するものではないのよ。術式を維持しながら、魔力の量や流れを細かく調整しなければならない。それを二つ同時に行えば、当然ながら意識も魔力も二つに分ける必要がある」
レイチェル様の説明を聞いて、私は自分の中にある魔力を思い浮かべる。
「でも……浮かせる魔法と、壊す魔法なら、別々に考えればいいんですよね?」
「それが出来ないから難しいのよ!」
レイチェル様が思わず声を荒らげた。
「二つの魔法を同時に使えば、それぞれの術式が互いに干渉する可能性がある。片方に意識を集中させれば、もう片方の制御が甘くなる。魔力を均等に分ければ、今度は一つ一つの魔法が弱くなる」
「なるほど?」
「しかも今回は、ただ二つの魔法を発動させればいいわけじゃない。破壊魔法で建材を剥がし、絶妙なタイミングで浮遊魔法をかけて落ちないようにしないといけない」
「はい」
「なら、破壊する場所に合わせて浮遊の力も調整しなければならない。少しでもタイミングを間違えれば、塔が傾く。支え方を間違えれば、周囲の建物に力が伝わる。破壊魔法の威力を間違えれば、瓦礫が飛び散る」
次々と問題点を挙げられて、私は塔を見上げた。確かに、そう言われると大変そうだ。
「普通の魔法使いなら、一つの魔法を維持するだけでも相当な集中力が必要になる。それを二つ同時に扱うなんて、熟練した魔法使いでも簡単にはできないわ」
そこまで言ってから、レイチェル様は私をじっと見つめた。
「ましてや、あなたはまだ子供でしょう?」
「……そうですね」
「なのに、どうしてそんなことを当然のように言えるのよ……」
レイチェル様の表情には、呆れと驚きが混ざっていた。私は少し考えてから答える。
「えっと……それくらいなら田舎で使っていたので」
「そんな高度な魔法を使わないと生きていけない田舎って、何よそれ!」
素直に話すと、レイチェル様から激しい突っ込みを受けた。周りを見て見ると他の四人も、何とも言えない表情で私を見ている。
……やっぱり、何か変なことを言ったのだろうか?
「あー、ごほん。とりあえず、やってみせてくれ。それから判断する」
「分かりました。では、解体を始めます」
アーヴェル様の言葉で私は塔と向き合った。崩すなら一番上から慎重に崩していくのがいいだろう。
「力を入れて崩したら、衝撃が塔全体に伝わっちゃいますよね。だから、塔が崩れないように固定する魔法も使っておきます」
「はぁっ!?」
「それと、崩した建材は種類ごとに分けた方がいいと思います。手作業で分けるより、魔法で分けた方が早いですし。その方が後の処理も簡単になると思います」
「はぁぁぁあああっ!?」
「じゃあ、やります」
「ちょっ!」
レイチェル様の声が聞こえるが、私はこっちに集中しよう。塔のてっぺんにある三角屋根、まずはそこを解体する。
まずは屋根全体を捕捉。どこに衝撃を加えて、建材を崩すか考える。そこまで考えたら、塔を固定する。これで、準備は整った。
そして、頭で考えた魔法を発動させると――一瞬で三角屋根がバラバラになって宙に浮いた。
「なんで、一瞬で屋根がバラバラになるのよ!」
その瞬間、レイチェル様の大声が響き渡った。




