2.貴族の少女
私は王立グランセリア魔法学園に向けて出発した。魔法使いはまるでこの時を予知していたように、村長に必要なお金を預けていた。お陰で私は試験にかかるもろもろのお金を捻出しなくても済んだ。
だけど、そんなにお金に余裕があるわけじゃない。だから、徒歩で王都ギゼッセルへと向かうことにした。
道中は魔法を使って移動ができたため、そんなに苦じゃなかった。それどころか、初めての旅路にドキドキしっぱなしだった。
「ふふっ、これはいい思い出になりそう」
初めての王都、初めての旅路。村に戻った時に土産話が出来そうだ。そうだ、お土産もちゃんと買っていかないとね。
上機嫌で進んでいくと、道の端で立ち往生している馬車を見かけた。素通りするのも申し訳ないから、私は声をかけてみた。
「どうしたんですか?」
「えっ? あぁ……馬車の車輪が溝に挟まってしまったんだよ。引っ張っているんだが、どうしても抜け出せなくてね」
それは、大変だ。何か力になれることがあればいいのだけれど……。すると、御者さんがハッと顔を上げた。
「馬車だ。よし、手伝ってもらおう」
後ろを見ると、一台の馬車が通りがかっているのが見えた。御者さんが馬車に向かって手を振ると、後ろから来た馬車は隣で止まった。
すると、馬車の窓が開く。そこから顔を覗かせたのは、私と同じ年に見える、セミロングの青髪の女の子だった。
「どうしたの?」
「えっと、馬車が溝に嵌ってしまって……抜け出すのに手伝ってもらえないでしょうか?」
「そう、それは困ったわね。じゃあ、手伝ってあげましょう」
そうすると、女の子は馬車から下りて、溝に嵌った馬車の前に来た。
「えっと、馬車の馬で引っ張ってもらいたいのですが……」
「その必要はないわ。私の魔法で引き上げてあげる」
すると、その女の子は小さな棒を取り出した。それを馬車へ向けると――馬車が浮かび上がった。そして、車輪は溝から抜け出て、道に降りた。
「わぁ、凄い!」
本当に私と魔法使い以外にも魔法を使える人がいた! 村の外って凄い人がいるんだ!
「あ、ありがとうございます! 大変助かりました! 何か謝礼を……」
「謝礼なんていいわ。これでも貴族だから、お金には困っていないの」
「お、お貴族様でございましたか! 誠に、誠にありがとうございます!」
お、お貴族様っ!? 私が戸惑っていると。御者さんがひれ伏す勢いで頭を下げた。それを見て、私も慌ててひれ伏してみた。
「ちょっ、ひれ伏さなくてもいいから!」
「で、ですが……お貴族様でございますから」
「そ、そうだぞ。君は何も関係ないじゃないか」
「えっ? この子、何も関係ないのにひれ伏したの?」
なぜか御者さんもお貴族様も驚いた顔をした。あっ、もしかして、間違っていた? やだ、恥ずかしい。世間のやり取りなんて分からないよー!
すると、御者さんはなんども頭を下げて、馬車を走らせていった。馬車の問題は解決したし、私も進もうとした――その時だった。
「ねぇ、あなたも王都ギゼッセルに行くの?」
「は、はい!」
「……もしかして、王立グランセリア魔法学園の試験を受けにいくの?」
「ど、どうして、そんなことが分かったんですか!?」
「私と同じ年の子が王都に行くってなると、それしかないって思ったの。王都までまだ距離があるから、馬車に乗せてあげましょうか?」
わ、私がお貴族様と一緒の馬車!? そ、そんなの失礼すぎて無理だよー!
「……長旅で疲れて、ちょっと話し相手が欲しかったの。だから、付き合ってくれると嬉しいんだけど」
女の子はちょっとした上目遣いをしてお願いをしてきた。そ、そんなお願いをされたら、断れないよー!
私は何度も頷くと、その女の子は満足したように私を馬車の中へと誘った。私は緊張しながら馬車に乗り込むと、馬車がゆっくりと走り出す。
「見たところ、田舎から出てきたようだけど……。ちゃんと、出願届とか出した?」
「えっ? な、なんですか……それ」
「やっぱり、そうなのね。ちゃんと、書類を申請しないと、試験が受けられないわよ。それを知らなくて、試験が受けられない人がいるくらいだし」
書類って何!? 申請って何!? 私はただ、王立グランセリア魔法学園の試験に受けなさいって言われただけだから、よく分からない!
「これも何かの縁だし、申請まで手伝ってあげるわ」
「ほ、本当ですか? あ、ありがとうございます!」
「いいの。困っている人は見捨てておけないたちだから。そうそう、私の名前はロゼリア・ソルコックよ」
「あっ、私はユフィっていいます! ……とても立派で、尊敬します!」
村の外には、こんなに他人思いで魔法が使える人がいるんだ! 怖い人ばかりだったらどうしようかと思ったけれど、どうにかなりそうだ。
私は馬車に揺られながら、その女の子と会話を楽しんだ。




