1.田舎で暮らしてきた少女
六歳の頃、両親が魔物に襲われて死んだ。一人になった私の面倒を見てくれたのが、村はずれに住む年老いた魔法使いだった。
ここでは、魔法を使えることは珍しがるよりも、未知の力だと嫌がる人のほうが多かった。だから、引き取られるとなった時、私は怖かった。
でも、その魔法使いは優しく教えてくれた。
「魔法はね、生活を豊かにしてくれる素敵な力なんだよ。この力があれば、親無しのユフィでも生きていけるんだよ」
村人が私を引き取るのに渋っていた中、私のことを考えて引き取ってくれた魔法使い。優しさが心に響き、怖くなくなった。
「安心していいよ。私が責任を持って、ユフィが一人でも生きていけるようにするから」
そう言って、魔法使いは私の頭を撫でてくれた。それは両親が撫でてくれた手と同じくらい優しくて、思わず泣いてしまった。
それから、魔法使いの下での生活が始まった。魔法使いは文字を教えてくれて、本の読み方を教えてくれた。
本を読んだ時の感動は忘れられない。そこには私の知らない知識がたくさん詰まっていて、それを知ることに嬉しさを覚えたからだ。
本を読めるようになると、今度は魔法を教えてくれた。魔法を使うには魔力が必要で、魔力がたくさんあると魔法がたくさん使えると教えてくれた。
だから、私は本に書いてあった魔力の増やし方を実践した。魔力を限界まで搾り出して、回復を待つだけ。たった、それだけで魔力が増えるんだから、毎日毎時間毎分やっていた。
「おぉ、凄いね。魔力がどんどん増えていくよ。とても努力をしたんだね、偉いよ」
そう言って、魔法使いは褒めてくれた。それが嬉しくて、私はさらに努力を重ねた。
そうして、魔力が増えていくと今度は実際に魔法を教わった。私の中でどんどん何かが増えていくような気がして、毎日が楽しかった。
「そうかい、楽しいかい。だったら、思う存分楽しめばいいよ。そうして、便利な魔法を増やすと良い。ユフィのためになるから」
魔法使いはたくさんの魔法を教えてくれた。魔法使いが知らないことは本で学んだ。それでも足りない時は自分で魔法を生み出したりもした。
魔法使いは生きるために魔法を教えてくれたけれど、私にとっては遊びも同然だった。もっと遊べ、魔法使いはそう言った。
しばらくすると、魔法使いは教えることがなくなったと言ってきた。それからは一人で遊ぶ日々。でも、それでも良かった。楽しかったから。
だけど、その日は突然来た。魔法使いがベッドから起き上がれなくなった。
「どうやら死期が近いらしい。だけど、間に合った。ユフィはもう、一人でいける力をつけたよ。だから、もう大丈夫」
力のない微笑みを浮かべて、私の頭を撫でた。その温もりを感じながら、魔法使いは亡くなった。
親代わりの人がいなくなって、泣いた。でも、私に残してくれたものがあったから、大丈夫だった。
魔法使いが私に教えてくれた、一人でも生きていける力。そのお陰で私は一人でも生きていけることができる。
だけど、魔法使いが亡くなってから二年後――十二歳の時に転機が訪れた。
◇
「よしっ、今日もたくさん収穫できたね」
野菜がいっぱい入った籠を持ち上げ、私は畑から離れた。家に近づいていくと、扉の所に村長が立っていた。
「あれ? 村長、どうしたんですか?」
「おぉ、外にいたか。十二歳、おめでとう」
「ありがとうございます。まさか、それだけを言いに?」
「いや、今日はちょっと話があってきたんじゃ」
村長が私に話? 一体、何の話だろうか? 不思議に思いながらも、村長を家の中に案内した。
「それで、話ってなんですか?」
「実はな、お前の仮親から十二歳になったら伝えて欲しいことがあると、お願いされていたんじゃ」
その話を聞いて、鼓動が高鳴った。私は何も聞かされていない。
「王都にある、王立グランセリア魔法学園を知っているか?」
「いえ、知りません……」
「昔から多くの優秀な魔法使いを輩出していてな。貴族の子供たちはもちろん、平民でも魔法の才能を認められた者だけが入学を許されるんじゃ。誰でも通えるような学校ではない」
「平民でも、入れるんですか?」
「もちろんじゃ。ただし、簡単なことではないぞ。王都で行われる試験を受けて、優れた成績を収める必要がある。貴族だからといって無条件で入れるわけでもないそうじゃ」
「へえ……」
そんな凄い場所があるなんて知らなかった。全くの別の世界だ、私には関係ないか……。すると村長は、私の顔をじっと見つめた。
「そしてな……お前の仮親は、そこへユフィを行かせてほしいと言っておった」
「……私を? そ、そんな凄いところ、無理ですよ。私、一人で生きていくのが精いっぱいで……」
「じゃが、仮親は十二歳になったら、王立グランセリア魔法学園を目指してほしい、と言っておった」
思いもよらない言葉に、私は手にしていた籠を落としそうになった。
「どうして、そんなことを言っていたんですか?」
「そこまでは聞いておらん。ただ、最後までお前のことを気にかけておったからな。きっと、お前ならそこへ行けると思っていたんじゃろう」
私には一言もなかったのに、どうしてそんなことを今になって……。
「どうする、ユフィ。仮親の願いを果たしてみるか?」
村長の真剣な顔に心が揺れる。
「えっと、入れるか分かりませんが、あの人がそう言っていたのなら試験を受けようと思います」
きっと、私は受からない。だって、一人で生きていくので精いっぱいなのだから。
でも、受験しないのも、あの人に申し訳ない。私はそんな気持ちで話を受け取った。




