19.レイチェルの憤り
「説明は以上だ。二か月後、王立グランセリア魔法学園で会おう」
試験監督の声にハッと我に戻った。周りを見渡すと、説明を聞き終えた受験者が部屋を退出していくのが見える。
……あっ、ショックが強すぎて説明を聞きそびれてしまった。まぁ、でも……いいか。どうせ、私は入学出来なさそうだし。
学園に行けない……。せっかく合格したのに。みんなと一緒に魔法を学べると思っていたのに。
ロゼリア様の隣に座って、ミレイ様やアルベルト様とも話して……レイチェル様と魔法を見せあったりして。友達になれるかもしれないって、初めて思えたのに。
……それなのに、私にはそのためのお金がない。やっぱり、自分の世界を変えるのは、そう簡単ではないらしい。
「あら? ユフィ、どうしたの?」
「なんか、落ち込んでる? 何々、どうしたの?」
「……説明が難しかったとかか?」
「えっ、いえ……そういう訳じゃないんです」
「じゃあ、どういう意味なの?」
三人が声を掛けてくれるが、私はなんて言ったらいいか分からない。いや、本当は分かっている。だけど、それを口にしたくなくて、言葉が出ていかないだけだ。
「正直に言って。どうしたの?」
「……私、お金がありません。だから、王立グランセリア魔法学園に……入学できません」
勇気を振り絞り、本当の事を話した。すると、三人が息を呑んだのが分かった。
「えっ? 筆記も実技も百五十点を取ったのに、入学できないのっ!?」
「……それは本当か?」
「……はい。わ、私は一人で田舎で暮らしていて、一人で生きていけるだけしか稼いでいなかったんです。だから、余分なお金を持っていないんです」
田舎ではそれで十分だった。野菜を育て、動物を狩り、必要な物があれば物々交換でなんとかなっていた。その生活にお金は重要じゃなかった。
だけど、世界を変えようとすれば、お金が必要になった。正直言って、何百万ものお金を二か月の内に稼ぐのは無理だ。
「……すいません。私はみんなと一緒に学園には――」
「ちょっと、待って」
何とか笑顔を作ろうとすると、離れた席に座っていたレイチェル様が鬼気迫る様子で迫ってきた。そして、私の前に来ると、机を両手で叩く。
「学園に入学できないってどういうことよ。あなた、筆記も実技も一位だったじゃない。……私を超えて」
「えっと、お金がですね……」
「そう言うことを言っているんじゃないわよ。なんで、そこで諦めるのよ。もっと、もがきなさいよっ」
悔しそうな顔をして訴えかけてきた。どうして、レイチェル様がそんな顔をするのか分からなかった。
「だ、だって……」
「だってじゃないわよ! あなた、自分が何をしたのか分かっているの!? 筆記も実技も一位なのよ! しかも、私を抜いて!」
「……はい」
「なのに、お金がないから諦めますって……そんなの、おかしいでしょう!」
怒鳴られて、私は肩を震わせた。どうして、そこまでレイチェルが怒っているのか、理由が見当たらない。
「でも……私には無理なんです」
「無理って、何がよ!」
「お金を用意することです。何百万コルなんて、私にはとても……」
私は自分の手を見つめる。そこには、今まで魔法のことしか考えなかった自分がいた。
「私には、どうすることもできません。魔法なら、少しはできます。でも、お金を作る魔法なんて知りません」
「……あなた」
「だから……ごめんなさい」
俯きながら、私は小さな声で続けた。
「せっかく仲良くしてくれたのに……一緒に学園に行けなくて、ごめんなさい」
レイチェル様は、何も言わなかった。怒らせてしまった。でも、私にはどうしようもない。
だけど、レイチェル様は――。
「――許さない、そんなこと絶対に許さないから」
今にも泣きそうに顔を歪めて、肩を震わせた。大人しい人だと思っていた。だけど、こんなにも感情をむき出しにしてくれる。学園に通えば、もっと他の表情も見れたりするんだろうか?
そんな非現実的な事を考えていると、レイチェル様が睨んできた。
「だったら、どうにかするしかないわ。ちょっと、来て」
「えっ、ちょっ!」
レイチェル様は私の手を掴み、無理やり立たされた。そして、強引に手を引かれて、試験監督の所へ行く。
「ん? どうした?」
「この子がお金がなくて、入学できないと言っています」
「そ、それは本当か? それはとても惜しい……だが、お金がないとどうしようも……」
「この才能を手放すのは惜しいどころではありません。国の損失です」
その言葉に驚いた。私のことを才能があるって思ってくれている、国の損失なんて比喩も使っている……。自分をそう思ってくれていたのが、なんだか嬉しかった。
「この子をちゃんと学園に通えるようにしたいです。だから、学園長に会わせてください」
私を通えるように? 学園長に? レイチェル様は何を考えているのだろうか?




