13.実技試験(1)
「実技試験は野外で行う。内容については、その場で説明することになっている」
試験監督の言葉に部屋中がざわついた。まさか、試験内容を直前まで秘密にしておくとは思わなかったのだろう。
誰もが不安そうな顔をして戸惑い、空気が張り詰めていく。その空気にさらされて、私まで緊張してきた。
「呼ばれた者は別室にて待機。では、番号をいう。呼ばれた者はついてくるように」
えっ、もう始めるの? 心の準備もまだだったから、凄く戸惑ってしまう。
試験監督が番号を言うと、受験者は返事をして前に出ていく。その人たちは不安そうな顔をして、とても緊張しているようだ。
「341番」
「はい」
その番号を呼ばれた時、レイチェル様が立ち上がった。あの魔法を展開して、必要な情報だけがレイチェル様に届くようになっている。やっぱり、凄い魔法だ。
レイチェル様は引き締めた表情のまま試験監督の所まで歩いた。他のことは見向きもしない。試験に集中しているように見えた。
「では、残りは待機。呼ばれた者はついてきなさい」
そう言って、試験監督は呼んだ受験者を引き連れて部屋を出ていった。扉が閉まる音がすると、部屋はシンと静まり返った。
だけど――。
「ま、マジか……。試験内容を直前まで教えてくれないなんて……」
「お、終わった……終わったわ。完璧に」
「どうしよう、どうしよう、どうしよう!」
部屋に残った受験者が騒ぎ始めた。みんな、そわそわして落ち着かない様子だ。歩き回ったり、机に突っ伏したり、天に祈ったり。様々な人がいる。
「これは驚いたわね。まさか、直前まで試験内容を知らせないなんて」
「ちょっとのヒントもないよ! ちょーヤバい!」
「焦っても仕方ない。その少ない時間で、どれだけの理解力を示せるか……それにかかっている」
周りが慌てているのに、この三人は比較的落ち着いていた。少しは困ったような様子だけど、まったく慌ててない。凄い……流石上位だ。
「できることと言えば、杖の感触を確かめることね」
「私のキャンディちゃん、機嫌はどうだい? 今日はいけそう? 今日はいつもより、頑張って欲しいな」
「僕はずっと手に持っていたからね。コンディションは良好だ」
三人は三十センチくらいの棒を取り出した。どれも、綺麗に磨かれていて、まるで宝物みたいだ。
「へぇー、皆様は杖を持っているんですね」
そういえば、魔法使いも杖を持っていたな。魔法を使う人って、みんな杖を持っているのかな?
ニコニコとしていると、三人の視線がこちらに集中した。まるで、何かを待っているかのように。
「……ねぇ、ユフィの杖は?」
「あっ、私ですか? 私は杖は使っていませんよ」
「えっ……。そ、そんなの魔法を操作できるのか!?」
「問題ありませんでしたけど……。まぁ、田舎の魔法なので……」
「じゃ、じゃあ! ユフィちゃんは杖無しで実技試験を受けるの!? それって大丈夫!?」
みんなが驚いた様子で詰め寄ってきた。えっと、これは……杖を持ってないとダメって事?
「魔法は、ただ魔力を放出すればいいというものではないんだ。魔力をどの程度使うのか、どこへ向けるのか、どんな形にするのか。細かく制御しなければ、望んだ結果にはならない」
アルベルト様が自分の杖を握りながら説明してくれる。杖のことを良く知らなかったので、その話には興味が湧いた。
「杖は、その制御を助けてくれる道具なんだよ。魔力を流すことで、杖が術者の意思を読み取ってくれる。そして、魔法を適切な形へ導いてくれるんだ」
「そうね。特に威力の調整には欠かせないわ」
すると、ロゼリア様が続ける。
「例えば、同じ火の魔法でも、火を灯すだけなのか、木材を燃やすのか、それとも敵を攻撃するのかで必要な魔力は全然違うでしょう? 杖があれば、その微妙な調整がずっと簡単になるの」
「杖がなければ、魔力の込めすぎで魔法が強くなりすぎることもある。逆に、魔力が足りずに途中で消えてしまうこともあるわ」
「それだけじゃないよ。魔法を使う時って、頭の中で『こうしたい!』って思うだけじゃないんだよ。自分の意思を、ちゃんと魔力に伝えないといけないの」
ミレイ様は杖のキャンディを両手で持ち上げた。
「私が『ここに火を出して!』って思ったら、キャンディちゃんがその意思を受け取って、魔力を火の形に整えてくれる。だから、複雑な魔法でも狙った場所に正確に出せるんだよ」
「魔法の規模が大きくなるほど、その差は顕著になる。小さな魔法なら杖なしでも誤魔化せるかもしれない。だが、威力を上げたり、複数の魔法を同時に操ったり、細かい制御が必要になったりすれば、杖の有無で難易度は大きく変わる」
「だから、魔法使いなら杖を持つのが普通なの」
ロゼリア様が、私の目を見ながら言った。杖ってそんなに大事なものだって知らなかった。いや、知っていた。本に載っていたから。
「杖は魔法を強くするためだけの道具じゃないわ。自分の魔力を安全に扱って、自分の意思を正確に魔法へ伝えるための、大切な補助具なのよ」
「うんうん。だから私もキャンディちゃんを大切にしてるんだよ。毎日ちゃんと手入れしてるし、魔力の馴染み具合も確認してるんだよ。長く一緒にいると、どんどん息が合ってくるからね!」
「僕も杖はかなり気を使っている。自分の魔力に馴染んだ杖ほど、意思の伝達が正確になるからね」
「私も同じよ。魔法を使う時には、杖があることを前提にしているわ」
三人とも、当たり前のことを話しているようだった。その話を聞いて不安になった。
今までは杖無しでやってこれた。だけど、それは田舎だからであって、都会では通用しないかもしれない。
この実技試験……本当に真剣にやらないと、落ちそうだ。




