12.上位五人
「あ、ありがとうございました! お陰で助かりました!」
私はアルベルト様とミレイ様に深々とお辞儀をした。二人が割って入ってくれたおかげで、集まってきた子たちは引いてくれたのだ。
「いや、いいんだよ。ちょっと、君と話してみたかったしね」
明るい茶髪が少し肩にかかっていて、少し目つきの鋭いのがアルベルト様。
「出来れば昨日話したかったんだけど、どこにいるか分からなかったんだよねー。だから、今日会えるかと思っていたら、当たってたよ! 良かったー!」
緩いウェーブがかかったピンクブロンドを腰まで伸ばし、元気そうな雰囲気の人がミレイ様。
「ふふっ、流石三位と四位ね。その一声でみんなを退けるだなんて」
「大したことじゃないよ。きっと、みんなが気を使ってくれたのさ」
「本当に話したかったら、そんな事じゃ離れていかないと思うんだよねー。あっ、私も話したいからここに残ったクチね」
……凄い。ここに筆記試験の三位から五位が集まっている。しかも、三人ともお貴族様だし……。わ、私って場違いじゃない? だ、大丈夫?
戸惑っていると、ミレイ様がいきなり距離を縮めてきた。
「凄いね! 百五十点なんて前代未聞だよ! そんな子がいて、本当にビックリした! とりあえず、珍しいから触っておこう!」
「わっ、わっ! く、くすぐったいです!」
ミレイ様が興奮したように私の頭や肩や腕をペタペタ触りだした。こ、こんなに距離が近い人は今までいなかった。ど、どういう対応が一番いいのっ!?
「わー、これが百五十点を取る子の感触かー! 普通で笑える! でも、普通じゃない! このギャップ、いいねぇ!」
「こらこら、そんなに触ったらユフィが困るでしょう? そこまでにしてもらえるかしら?」
「えー! 私は仲良くなりたいだけなのに! 仲良くなるにはスキンシップが大事だよ!」
「スキンシップは大事かもしれないけれど、無理やりは違うでしょう? ほら、離れなさい」
「ブーッ!」
ロゼリア様がミレイ様を手で押して、私の体から放してくれた。ミレイ様はご立腹だけど、私はホッとした。田舎ではこんなに距離の近い人はいないから、どうしたらいいか分からなかったから。
「確かに、普通の子に見える。というか、田舎臭い」
「えっ!? わ、私……匂いますか!?」
「いや、そうじゃない。雰囲気が田舎臭いってことだよ」
アルベルト様の言葉に一瞬焦ったけれど、どうやら匂いの事じゃないらしい。臭かったらどうしようかと思ったけれど、そうじゃないみたい。
「わ、私……本当に田舎から出てきたので、都会には合ってないと思います」
「田舎で何をしていたんだ?」
「畑を耕したり、家畜を育てたり……です。その合間に本を読んだりして暮らしてました」
「ふむ……特別なことはしてないみたいだね。なんだったら、僕たちに比べて魔法に携わる時間が少ないとみた。そんな生活でどうしたらあんな点数が取れるんだ?」
アルベルト様はそう言って、顎に手を当てて考え始めた。
「君の快挙は生活習慣ではないと見た。ということは、考えられるのは一つ。天賦の才がなせる業じゃないか?」
「わ、私は特別な人じゃないですよ! ただの田舎者で、ただ魔法が好きなだけです!」
「野暮ったい君は特別には見えない。だけど、結果は飛びぬけている。この差、とても興味深い」
な、なんかおかしな人に目をつけられた? さっきから探りを入れられて、とても居心地が悪い。こんなにぐいぐい来られると、どんな対応をしていいか分からなくなる。
「私たちじゃ分からないってことだよ! じゃあ、次に頭の良い人に聞いてみようよ!」
すると、ミレイ様は私たちから離れた。そして、一番後方の窓際に座っている人に近づいていった。
その人は昨日、私の目の前で座り込んだ女の子だった。
「ねぇねぇ! レイちゃんが二番目に頭いいんでしょ? どうして、ユフィちゃんが百五十点取れたか分かるー?」
二番目? レイちゃん? そこで、ようやく気がついた。
レイチェル・ヴァルディア様。昨日の試験で、私の次に高い点数を取った人が、あの子だったんだ。
本人は何も答えないで本に視線を落としたまま、ページをめくりながら、ただ静かにそこに座っている。普通なら、周囲の声が聞こえていないのかと思うところだけど……。
違う。聞こえていないんじゃない。正確には、聞かないようにしている。
気配を擦ると、魔法が発動しているようだった。レイチェル様の身体の表面を、ごく薄い魔力の膜が覆っている。
魔力の流れは極端に小さい。だから、普通なら気づかないと思う。でも、よく見ると膜は身体から一定の距離を保つように展開されていて、周囲から届く音や気配、魔力の揺らぎが膜に触れた瞬間、ほんの少しだけ減衰している。
つまり、外からの刺激そのものを遮断しているんだ。防御魔法……みたいなもの?
でも、少し違う。防御魔法なら、普通は外からの攻撃を防ぐために強固な壁を作る。けれど、この魔法にはそんな力強さがない。
必要なものだけを残して、不要な刺激だけを取り除いている。しかも、魔力をほとんど消費していない。たぶん、常に周囲の状況を認識しながら、必要な部分だけ遮断しているんだ。
……凄い! こんな魔法初めて見た! どんな風に発動しているんだろう? すっごい、気になる! お話、してみたいな……。
「……ダメだ、全然反応がない」
ミレイ様は肩を落として戻ってきた。声を掛けようとすると、扉が開いた。
「これより、実技試験を行う!」




