第4話 なぜか生まれた新たな感情
第4話 なぜか生まれた新たな感情
週末が明けて、学校に行き授業の準備をしていると、先日見た顔が教室の前を歩いていくのを見かけた。何か移動をする授業でもあるのか、一組であるはずの奥大和が一人で歩いていた。
僕が言うのもどうかと思うが、友達がいないのだろうか。それとも、ただ単に一人なだけだろうか。まぁ僕には、関係のない話なのだが。
一時間目が終わりトイレに行こうとすると、階段から上がってくる奥大和を見かけた。手には、何冊かの教科書を持っていたので、やっぱり授業だったのだろう。でも他に上がってくる一年生を見なかったような気もした。
「おはよ~由来!」
部活に行くと、いつも通り今福君が外で待っていた。彼は、毎日「おはよう」とあいさつをしてくれるのだが、別に朝でもないので何と返すのが正解なのかいつも困ってしまう。
入学して、早くも一週間近くが過ぎていた。桜の花もほとんど散ってしまっていて、葉桜に代わってしまっている場所も少なくはない。歩くたびに踏む桜の花びらが物凄く尊く、申し訳なくなってしまう。
僕と今福君は、いつものごとく藤井先輩が来るまで外で話をしていた。僕は、忘れていたのだ。今日から部活に参加すると宣言していた人の存在を…。
「なんだよ!。まだ鍵を開いてねぇのかよ!」
軽く舌打ちをしながら歩いてきたのは、少し前の僕たちと同じく矢筒と、僕たちは持っていなかった弓を持った奥大和だった。
僕は、まさか自分の弓まで持ってくるとは思ってもいなく驚きだった。黒の矢筒と桜柄の弓袋は、彼の趣味なのだろう。黒色なのは想像がつくが、桜柄とは少し意外だ。でも桜柄は、かっこいい。
「君も弓道部に入ったんだ!!。僕は、今福日太!よろしく!」
今福君は、奥大和の見た目に臆することなく、いつものように話しかけた。僕は、無視でもされるのではないかと少し怖かった。
「お前のことぐらい知ってる!。特に強いわけでもねぇけど、射形が興味深かったからな」
意外なことに奥大和は、今福君のことを知っていたようだ。特に強いわけじゃないというのは、中学時代での大会での結果からの話なのだろう。ただそれでも印象に残るほどの射形を今福君はしていたのだ。
奥大和の言葉が嬉しかったのか、今福君が満面の笑みで話を続けていた。奥大和は、無視をすることもなく、平然と今福君と会話をし続けていた。
全部が全部意外だった。もしかすると奥大和は、僕が思っているような好戦的でとげとげしい感じではないのかもしれない。ただ大会で僕に負けていたのが悔しくて、僕に少し突っかかっていたのだろう。
数分ほど二人が話しているのを聞いていると、藤井先輩と柏木先輩が来て、射場の鍵が開いた。
藤井先輩は、僕たちの時と同様に、奥のことを物凄く歓迎していた。それほど人が増えるのが嬉しいのだろう。柏木先輩は、終始無言だった。
「てか何でお前、凪原に来たんだよ。お前は、強豪に行くと思ってたのに」
僕が安土から帰ってくると、奥にそう言われた。確かに彼からしたら、自分より強いやつが強豪でもない高校に来たのは、不思議なのかもしれない。でも僕には、彼が納得できるような理由はない。どう返すのが正解なのだろう。
そんな時今福君が話に入って来て「でも逆に何で大和君は、凪原に来たの?」と訊き返してくれたので、僕が答える必要がなくなった。僕は、今福君のおしゃべりな性格に救われることが多々あるような気がしていた。
今福君に逆質問をされてしまった奥は、少し黙ってからブツブツと何か小声で言っていた。
「 なんて?」
今福君にとってそんなことが関係あるわけもなく、淡々と質問をし続けていた。
「学力的にここしかなかったんだよ!!」
一瞬僕たちの中に気まずい空気が流れたのが僕にも分かった。凪原の偏差値は、県内で中の上らへんなのだが、確かに高校をほとんど調べなかった僕でも知っているほどの強豪校は、偏差値もなかなかに高いのだ。
僕は、悩むことなく凪原を選んでいたので、勉強も高レベルを狙っている人たちよりもしていなかった。推薦入試で入ってきたわけでもなく、一般入試での入学だったが入学してからも勉強で困ることもなかった。よくよく考えてみれば、今福君の学力がどれぐらいなのかを知らない。彼は、話している内容からまあまあ頭がいいのがわかるのだが、まだ定期テストがないのでそういう話になったことがないのだ。
「頭よさそうなのに、そこまでよくないんだ!」
今福君の何気ない一言は、なかなかに鋭い一言だった。でも確かにしっかりとしてそうが故に、頭がよさそうに見えるが、人を見た目で判断してはいけない。かという僕も頭がいいとは言えないのだから。
僕たちの話を聞いていた藤井先輩が、後ろで「アハハ!」と笑っていた。僕たちの話が面白かったのだろうか。だが藤井先輩は、頭がよさそうに見える。何かと無難に対応できる人だからだ。
「アハハ…。まぁとりあえず、三人で競射してみなよ(笑)。ここでは弓を高め合えばいいさ」
笑い過ぎで目から出た涙を拭き取る藤井先輩は、そう言いながら道場のシャッターを開け始めた。僕たちにとって今勝敗を決めるのは、弓しかないのだ。それを藤井先輩もわかっている。
僕たちは、お互いの目を見あった。今福君のニコニコとした大きな丸い目。奥のきっりとした絶対に勝つと言わんばかりの目。
この二人にだけは負けたくないと思った。
「絶対に負けねぇ」
「負ける気で勝負はしないよね!」
僕は、二人のその言葉を尻目に道具の準備をして巻藁を引いた。今日初めての一本目は、なぜかいつも以上に緊張をしてしまっていた。それは、あの二人の緊張感が伝わってきているのに他ならない。
巻藁で調整をした僕たちは、矢を四本持ち射位に入った。ここ数日見ていた光景のはずなのに、全く違う射場にいるような感じだった。
自分が緊張を感じているのかもしれないというのが驚きでもあったし、外れるかもしれないと思ってしまっている自分がいた。
大前に立っている奥が一本目を引き分けてきたのが見えた。そして今福君が打起しをするのを確認し、僕も取り懸けをした。
「パン!!」という音が響いたので、奥の一本目が的に的中したのが分かった。
僕は、打起しをして大三をする。引き分けてきて会に入っていた今福君の矢が、的に向かって飛んでいくのが見えた。
ただしその矢は、二時の方向に蹴ってしまった。一本目は、すごく重要だ。外せば後の三本が緊張して仕方がなくなってしまう。今福君が外した一本は、僕と奥にとってはチャンスでもあるが、プレッシャーでもある。
ここで油断してしまうと、自分もしくじってしまうかもしれないからだ。いや、今僕のプレッシャーは、奥よりも上かもしれない。
いつもと同じように引き分けてきたはずなのに、なぜか物凄く心配だった。いつもなら中たる狙いのはずなのに、ここで大丈夫なのだろうかと思ってしまっていた。いつもと同じ引き方で、いつもと同じ狙いで、いつもと同じように離れを出した。
僕の矢は、いつもとは少し違う軌道を描いて飛んだのが見えて、外れてしまうと直感した。いつもなら外れれば自分の射のどこが悪かったかを考えるのだが、今日はなぜかやばいという気持ちが勝ってしまっていた。
ただやばいと思ったその矢は、的枠ギリギリに中たり、「パン!」という音ではなく「カッ!」に近い音を鳴らした。
僕の鼓動は、バクバクと高まっていた。僕は、次の矢を番えながら「フーーー」と小さく息を吐いた。緊張の表れであることは確かなのだが、なぜ緊張をしているのかだけがわかっていなかった。
少し遠くから聞こえてくるほかの部活の声さえもが邪魔でしかなかった。
「キリキリ」といった奥の引き分けの音で、僕の意識はハッと的に向いた。中てなければいけないと再確認をした。
そこで僕の記憶は、真っ白な紙のようになっていた。二本目を打起したところから何も覚えていないのだ。「三」、「二」、「三」それが僕たちの結果だった。奥は四本目、今福君が二と四、僕が三本目を抜いたみたいだった。
「ちっ、同中かよ。勝てると思ったのに!」
奥は、僕に勝てそうだったのに勝てなかったからか少しイライラしているようだった。弓を引く前よりも眉間にしわが寄っていた。
「いやぁ、意外と二人に並べるかなって思ったんだけどなー(笑)」
今福君は、いつも通りといった感じでニコニコとしてそう言いながら弽を外していた。
二人が一つの感情しか見せていないのに対して僕は、焦りや安堵なんかの複数の気持ちが混ざり合っていた。負けなかったのはよかったというのもあるし、このままだと負けてしまう、いつものような弓を引けなかったとも思った。
僕は、ある意味奥に負けていたのかもしれない。
「三人ともいいじゃん!。まぁ、納得はいってないみたいだけど…。でも!だからこそ、今から実力を伸ばしていこうよ!」
藤井先輩は、僕たちにそう言った。言われたことに返す言葉なんかなかったが、素直に言葉が出なかった。今の自分でこれ以上実力を伸ばせるのだろうかと不安でしかなかった。
正直怖かった。弓をする意味自体が消えてしまうのではないかと、心がざわつくのを感じていた。
「おい!もう一回だ!!。俺は、お前に勝つまでやるからな!。矢を上げてくるから、弽を着けて待っとけ!」
奥は、自分の弽を外し矢上げに行った。待っとけと言ったということは、僕たちの矢まで上げてきてくれるのだろう。
僕は、ありがたいとも思ったのだが、心の中はそれどころじゃなかった。
お久しぶりです!。諸事情で長らく投稿をストップしてました。本当に申し訳ないです!。今回の話は、新しく入部した奥を含めた一年生3人での競射、その中で生まれた新しい今までに感じたことのない感情を書いた話でした!。次の話もストーリーにおいて重要だと自分の中で思っているので是非読んでいただけると嬉しいです!!




