第3話 敵で仲間
第3話 敵で仲間
あれから数日たち、金曜日になった。桜の花も散り始めていた。桜が散りゆくのに反して、僕はまだ高校という場所に慣れていなかった。いや、まだ実感が湧いていないのかもしれない。
「おはよ~由来!。って言っても、もう夕方なんだけどね(笑)」
道場には、いつものごとく今福君が先に来ていた。まだ先輩も先生も来ていないようで、鍵が開かない。
ただ僕は、それをわかっていた。道場が開いてなく今福君が先にいることなど、いつものことだからだ。もう少ししたら、いつものように先輩が来て、道場の鍵を開けてくれるだろう。そう思っていた。
僕たちは、自分たちの中学校での話をこの数日間で終わらせてしまったので、今の射の悩みなんかを話した。
今福君は、離れる瞬間の緩みが悩みだと話していた。僕は、たまに髪を払うのを治したいと言った。お互いの悩みを聞いたところで、特に何も変わらないのだが、話すのが少し楽しく思えた。
それから、鍵を開けに来たのは、藤井先輩だった。ただいつもと違ったのは、もう一人の先輩もいたことだ。
今日初めて見た先輩は、藤井先輩と違って、あまり喋らなそうで静かな人だった。目に生気が感じられず、何を考えているのかわからない人だ。 「さてと、二人に紹介するね。この子は、『柏木あかり』、二年三組。私と同じクラスだよ」
今日初めて見た先輩、柏木先輩の紹介を藤井先輩がした。その間にも柏木先輩は、何を考えているのかわからないほどの無表情だった。僕は、まだこの人の声を聴いていなかった。柏木先輩は、道場に来てから一言も話していないのだ。もしかしたらこういう人なのかもしれない。
それからも柏木先輩が単語を口に出すのは聞きはしたが、何かを話すところを見なかった。今福君との相性は少し悪そうだと思った。
「柏木先輩は、いつから弓道をしてるんですか?」
相性が悪いとは言っても、今福君が話しかけないわけがなかった。今福君は、矢上げに行くときなど何かと時間を見つけては、柏木先輩に話しかけていた。そのときは、柏木先輩も言葉は少ないが何か返していた。僕としては、特に何も話すこともないので、ただ見ているだけだった。
柏木先輩の射を見たが、思っている以上に癖がある射形だった。弓手が緩み、会があるわけでもない。ある意味中て射と言えた。その射が高校からのものなのかはわからない。そもそも、中学校でやっていたのかも僕は聞いていない。
柏木先輩が来てからの部活は、特に何かがあったというわけでもなかった。普通の部活で、ただ弓を引くだけだった。
あれから週末になり、凪原高校弓道部が午前中の部活ということもあって、午後に弓具店へ連れて行ってもらった。久しぶりに来た弓具店は、少し狭い空間だが、多くの弓や矢、弦なんかの弓具が並んでいて、なぜか少し楽しい。
僕は、握り皮を見比べながら自分にあったのを探していた。
お父さんは、やっぱり車から降りてはこなかった。もう弓道をやる気は本当にないのだろうか。
そんな僕が考え込んでいる時、弓具店のドアが「ガラガラ」と開いた。僕は、お父さんが入ってきたのかと思い目を向けた。だがそこに立っていたのは、大柄で少し怖い顔をした同い年ぐらいの男だった。その人も僕の顔を見て、一瞬何かを考えた。
「あっ!。お前相原由来だろ!」
その人は、僕に近づいてくるなり僕にそう言い放った。戸惑った僕は、「えっと、誰?」としか言えなかった。僕の言葉を聞いたその人は、眉間にしわを寄せ「は?」と言った。僕としては、そんな反応をされても困るのだが。
「俺はな『奥大和』だ!。お・く・や・ま・と!。本当に覚えてないのかよ」
奥と名乗った彼は、僕のことを知っているようなので、やっぱり同い年なのだろう。
でも僕は、彼のことを全く覚えていないので少し気まずい。僕は、彼のことを少しでも思い出そうと頭の隅々の記憶を探した。だが、彼のことは全く思い出せない。
僕は、気まずさから何も言えなかった。彼もそれに気が付いたのかため息をついて呆れたような顔をした。そんな顔をされても、僕にはどうもできない。
「俺はなぁ、ずっとお前に負け続いてたんっだぞ!」
彼は、狭い店内で拳を強く握ってそう言った。僕は、彼にもお店側にも申し訳なかった。
でも彼の言葉で少し思い出したが、確かに彼は、中学での大会で毎回決勝戦にいた気がしなくもなかった。でも僕が本当に覚えていないということは、全ての戦いで僕に負けたのかもしれない。
彼は、怖めの顔そのままで僕に怒っている気がした。僕に悪いところはなかったとは思うが、なぜか申し訳なかった。
「お前、高校どこだよ」
「凪原高校…」
彼に高校を訊かれた僕は、高校名をしっかりと答えた。
彼は、自分で訊いたくせに「は?」と口を開けて信じれないと言いたげな顔をした。その顔にどんな意味があるのかなんて、気にもしなかった。僕は、何かを考えるのが無駄だと思っていた。
「なんで…。なんで、高校が一緒なんだよ!」
僕は、耳を疑った。彼は、そのまま話を続けたが、彼も凪原高校らしい。
奥大和、一年一組らしい。弓道部に入るつもりらしいが、今週末まで道具の修理があるらしく、まだ入部届を持って行ってなかったようだ。僕は、さっきの彼と同様に口を軽く開けてしまっていた。まさか週が明けたら、彼も同じ部活にいるのが想像できていなかったからだ。ある意味敵対視されているのに、同じ部活など気が気でない。
「月曜日、競射だ!。今度こそお前に勝つからな!」
彼は、そう言ってレジの方に行き修理に出していた道具を受け取って出て行ってしまった。
僕は、少し頭を整理してから握り皮を選び、会計をして弓具店を出た。そして、お父さんの待つ車に乗り込んで家に帰った。
帰り道でお父さんから聞いたのだが、さっきの彼は、自転車で弓具店に来ていたそうだ。
僕は、明後日が少し憂鬱になりつつも、明日に備えて道具を点検してその日を終えた。
こんばんは。今回の第3話は、新しい登場人物である奥大和の登場でした。同じ高校でありながらの敵対しされる主人公は、今後どんな部活をするのか、、、次回から奥大和を含めた部活動が始まってしまう。




