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婚約者の騎士様に放置されたので異世界で日本酒を楽しみます~本当に好きなお相手とどうぞお幸せに~  作者: 千早 朔


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すれ違い続けていた私達

 俺は、と。

 強い懇願を写した瞳が、私を捕らえる。


「クレコ伯爵家の領地で相手をしてもらっていた時から、あなたにずっと、恋焦がれていました」


「……!」


 フレデリック様が、私を? 

 子供だった頃から?


(今よりも貴族令嬢らしくなかった私を? そう頻繁に会っていたわけでもないのに?)


 バクバクと激しく胸を叩く心臓が喉から飛び出てきてしまいそうで、奥歯に力を込める。


(私はまた、期待しているの? それとも、怖れているの?)


 わからない。

 でも、ここで黙ってしまっては、何も分からないままだわ。


「……私を、想ってくださっていたというのなら。どうして二年も、歩み寄ってくださらなかったのですか?」


「本当に、申し訳ありませんでした。奇跡的な好機に恵まれたと浮かれる俺とは違い、リアナ嬢にとっては家門のための、本意ではない婚約なのは理解していました。だからあなたに少しでも、俺との結婚を"良かった"と感じてもらいたいと……そして出来ることなら、俺自身を好いてほしいと欲が出たのです。その手段として、騎士団での地位を確立させようと考えました。リアナ嬢との結婚までに、部隊長になるつもりでした」


「部隊長に!? いえ、フレデリック様ならば決して不可能ではないのでしょうが……」


 いくら周辺諸国との和平が進み、騎士団でも大戦の経験者が減る一方だとはいえ、フレデリック様のご年齢で"部隊長"の肩書を手にした騎士はいなかったと記憶している。

 当然、そんな事実は、私よりもフレデリック様の方がご存じなはずで。


(なかなか屋敷に戻ってこれなかったのも納得だわ)


 フレデリック様の真面目な性格を知った今ならば、言葉通り、私のためになると信じて一心不乱に努力されていたのだと分かる。

 だと、しても。


「ゼシカ嬢との"噂"を否定するのは、それほどまでに難しいことだったのでしょうか。私のためにと行動してくださったというのなら、尚のこと」


「俺が浅はかでした。これまでの経験上、"噂"を否定したところで余計に過激化したり、また新たな"噂"がたつのだから、周囲が飽きるまで放っておくのが最適だと考えていたのです。実際、長らくそうしてきましたから。本当に愚かでした。俺にとっての"最適解"が、あなたにとっても同様だとは限らないのに。それに……」


 バツが悪そうに視線を逸らしたフレデリック様は、


「俺が、自覚していた以上に愚鈍だったのです。あれほど"噂"など気に留めるものではないと考えていたのに、リアナ嬢が俺との婚約解消の"噂"を否定せずにいると知ってからは、毎日気が気ではなく……。今更、あなたの気持ちを理解したのです。ただ明確な言葉がないというだけなのに、これほど不安になるのだと初めて知りました」


(私も……今となっては、フレデリック様の考えも理解できるわ)


 社交界で"目立つ"存在となって初めて、"噂"を聞き流す必要性を学んだ。

 同時に、男女の"噂"は絶好の社交材料なのだとも。


(フレデリック様にとって、女性との関係を"噂"されるのは、ゼシカ様が初めてでもないのでしょうね)


 フレデリック様は視線を落としたまま、


「婚約の事実がある以上、結婚するのは確実なのだから、時間はいくらでもあると思い込んでいたのです。様々な失態に気が付いた時には、リアナ嬢の信頼を完全に失っていました。きっとあなたは、不甲斐ない愚かな"婚約者"からの解放を望んでいるのでしょう。理解はしています。それでも」


 突如と立ち上がったフレデリック様の椅子が、ガタリと揺れる。

 らしくない音に気を取られる暇もなく、私の眼前で、彼が片膝をついた。

 必死な瞳が私を映す。


「どうか、考え直していただけませんか……! 俺の心は嘘偽りなく、リアナ嬢ただ一人だけのものです。あなたになら、全てを捧げられる」


「……!」


(フレデリック様は、本当に心から私を望んでくれていたのね)


 灯りの揺らめく常よりも黒に近い瞳の瞬きに、胸の奥がジワリと熱を帯びて、鼓動と共に全身を駆け巡っていく。

 嬉しい、のだわ。この感覚は。


(もう一度。もう一度だけ、彼を信じてもいいのかしら)


 たとえ私がどれだけフレデリック様の事情を理解しようと、たとえどれだけ、これからのフレデリック様が歩み寄ってくださっても。

 苦しかったあの二年間は、なかったことには出来ない。

 それでも彼を受け入れるのなら、あの苦悩も一緒に消化していかなくては。


(その覚悟を、持てるの?)


 と、フレデリック様が何か思い当たったようにして「しまった」と呟いた。

 慌てた様子で懐から取り出されたのは、


(封書……?)


「香穂嬢から、リアナ嬢に渡すよう頼まれていたのを忘れていました。"告白"の返事を聞く前に渡すようにと、あれほど言われていたのに、危ないところでした」


「香穂様から?」

ここまでお付き合いくださり、ありがとうございます!

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