秘め続けた想いを告白する手毬寿司
(それでも……フレデリック様は召し上がられたのね)
と、バチリと視線の合った彼は、
「リアナ嬢なら、こうした風変わりな食材こそ挑戦してみたいと考えるのではないかと思い選びました。それに、あなたに食べていただくための料理ですから、事前に俺が確認するのは当然です」
(う……否定できないわ)
もしもあの店で"ギンナン"の料理を薦められたなら、間違いなく"食べる"という選択をとるもの。
それにしたって、フレデリック様が味見をしてくださるなんて、考えもしないでしょうけれど。
("最後の餞別"となる食事だからと、気を遣ってくださったのね)
なんだか胸の奥が、くすぐったい。
火照った顔を隠すようにして少し俯きつつ、フォークでひとすくいして口内へ。
「これが"ギンナン"……!? もちっとしていて、独特な苦みがむしろアクセントになっていて……なによりあの香りがまったくしません! "ノリ"の爽やかな風味が勝っています……!」
「リアナ嬢、ぜひお酒も」
促され、香りの乗った舌の上を滑らせるようにして、お酒を嚥下する。
「ああ……このお料理を薦めてくださった理由がよくわかりました。"ギンナン"の苦味とよく合って……この時期の香りもたっぷりと楽しめて……最高の組み合わせですね」
幸福感にほう、と息をつくと、フレデリック様もまた「気に入っていただけて、安心しました」と肩を上下させた。
「残りの二種も秋を楽しめるお料理ですので、ぜひ」
「はい! いただきます」
すっかりいい気分になってきた私は、残りのお料理もお酒と合わせながら口にしていく。
シャクシャクと噛むほどに旨味を感じる"山芋の糠漬け"も、濃厚でしっとりとした甘さととろっと食感の塩味がたまらない干し柿ブルーチーズも、お酒とよく合って本当に美味しい!
「どれも新鮮な味わいなのに、本当に美味しいです。素敵なお料理をありがとうございます、フレデリック様」
心からの感謝の気持ちを込めて笑んだ私に、フレデリック様がぱっと俯いた。
一瞬だけ見えたお顔が、なんだか泣きそうにも見えたような……?
あれ? と思った寸秒のうちに、フレデリック様が顔を上げる。
「……もう一品、とっておきの料理があります」
そう言って、四品が入っていた器を持ちあげた。
途端、現れたのは美しい花々――ではなく、
「"手毬寿司"です。これも、俺が作らせていただきました」
「この可愛らしい"スシ"もですか!?」
「特にこの卵は力作です。薄く焼くのが難しくて」
(フレデリック様が、卵を薄く焼くために奮闘を……)
なんとか想像を膨らませてみるも、そもそも彼が調理場に立つ姿すら見たことのない私には、想像すらどうにも難しい。
私は美しく並ぶ多種多様な見目の"テマリズシ"をしげしげと眺め、
「フレデリック様が多才なのは存じていましたが、お料理もお上手となると、ますます非の打ち所がありませんね」
「……そうなれたら、良かったのですか」
「え?」
「いえ。これらの素晴らしい料理を完成させられたのは、辰彦たちの指導のおかげです。この"手毬寿司"は、リアナ嬢が気になるモノを好きなだけお取りください」
(ど、どうしよう……)
フレデリック様渾身の卵はもちろん、艶っとしたマグロとサーモンは外せないし。
きゅうりと色付き大根のスシは、サラダのような食感になるのかしら。
生ハムとコメの相性も味わってみたいし……。
「出来るだけ多くの種類を味わっていただけたらと思って、小さな一口で作ってありますので。リアナ嬢さえよければ、全て試してみてください」
「! お気遣いいただきありがとうございます。では、お言葉に甘えて……」
(これがフレデリック様との最後の食事となるのだろうし、"淑女"らしく遠慮する必要もないわよね)
弾む心地のまま全ての種類を一つずつ皿に取り、その可愛らしさを堪能しながら口にする。
(ん~~~~~どれも美味しいーーーっ!!!!)
トロっとした身が"コメ"と合う生魚は言わずもがな、みずみずしい野菜と"コメ"がこんなにも相性がいいだなんて!
卵はくるりと巻かれたものとはまた違った、ふわふわとした優しい食感が面白いし。
生ハムも、食べ慣れているはずなのに、甘酸っぱい"コメ"と混ざり合う塩味が双方の旨味を引き立てているわ!
(そして何よりも、これほど味わいの異なるお料理と一緒に飲んでいるというのに、"ニホンシュ"がちゃんとそれぞれの良さを受け止めてくれているのよね)
「この"フドウ"は深みのある濃さがありつつも、なんだか安心する味わいですね。三樹様が、この素敵な"ベントウ"と楽しむ一本に選んでくださった理由がわかる気がします」
「……味わいだけではない、もう一つの理由があって、この一本を選びました」
「別の理由ですか? それは一体どのような――」
言葉を飲み込んでしまったのは、視線を合わせた途端に、それまで和らいでいたフレデリック様の表情が引き締まったから。
彼はじっと私を見据え、
「"不動"は、揺るがないという意味を持ちます。俺の、リアナ嬢への想いと同じです」
「そ、れは、いったい……」
「俺が特別な愛情を感じるのは、今も昔もリアナ嬢ただ一人です。愚かにも、その事実を自覚したのは、あなたと再会してからでした。……周囲にどれだけ急かされようと、他の女性と特別な関係になりたいだなど、たったの一度も考えられなかったのです。俺はきっと、剣にしか興味が向かない性質なのだと思っていました。……婚約者候補のリストの中にあなたの名を見つけた瞬間、理解しました。俺はずっと、遠く懐かしい過去にしたはずのあなたが、忘れられなかったのです」
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