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婚約者の騎士様に放置されたので異世界で日本酒を楽しみます~本当に好きなお相手とどうぞお幸せに~  作者: 千早 朔


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もう一度の誓い

 受け取ったそれはフレデリック様に教えられた通り、接着面を軽く引っ張ると簡単に開いた。

 "シール"と呼ばれるモノらしいけれど、ペタペタとしているのに指に何も移らないなんて不思議だわ。

 丁寧に折り畳まれていた用紙を開く。


『リアナちゃんの気持ちを最優先に。幸せにならないとダメだよ』


「香穂様……」


 なんとも簡潔な、だからこそ想いが胸に響く。


(あら? まだ何か入っているわ)


「これは……!」


 視界に飛びこんできたのは、随分と精密な絵……ではなく、たしか、"シャシン"というモノ。

 そしてその不思議な用紙の中に佇むのは――。


(フレデリック様が、エプロン……!)


 空想で過った姿とは異なるエプロンを身に着けたフレデリック様が、真剣な面持ちでフライパンと向き合っている。

 次の一枚は卵を割っている場面で、もう一枚は、食材を切っているようで。


(……どれも本当に真剣なお顔だわ)


 私の信頼を得るためにと、こんなにも頑張ってくださっていたのね。

 渦を巻き膨らむ歓喜が、迷いを覚悟で消し去る。


(――彼の誠意を信じたい)


「フレデリック様。私も、お渡ししたいものがあります」


 小ぶりな鞄に忍ばせていた、ハンカチを取り出す。


「お約束していた品です。受け取ってくださいますか?」


「! 勿論です!」


 大きく頷いたフレデリック様はハンカチを受け取ると、心底嬉し気に瞳を輝かせつつハンカチを凝視する。


「今この瞬間、世界で一番の幸福者だと自信を持って叫べます。ありがとうございます、リアナ嬢」


(……眩しい)


 不格好な刺繍でも、これほどまでに喜んでくれるのなら。


「……刺繍は、デルフィニウムの花を選ばせていただきました。私にとっては、フレデリック様とも縁の深いお花でしたので」


「デルフィニウムの花が、ですか?」


「私の領地でお会いしていた頃、侯爵邸の庭園の緑に私の瞳を重ね、思い出してくださっているとおっしゃってくださった時がありました。共に過ごした時間を思い起こすと心が休まり、あの地をいい場所だと。私、本当に嬉しくて。何か出来ないかと考えて、フレデリック様の瞳に似たデルフィニウムの花を、お祖母様と一緒に植えたのです。ですが結局、その後フレデリック様とお会いする機会がなくなり、私もすっかり忘れてしまっていたのですが。先日、お爺様に教えられて思い出しました」


「リアナ嬢が、俺のために花を……」


 フレデリック様はハンカチを胸前で抱きしめ、


「遅くなってしまいましたが、気にかけてくださりありがとうございました。あと一度の機会がなかったことが、悔やまれます。間違いなく……心の支えとなっていたはずですから」


「……フレデリック様」


 エスコートを待つ時のように右手を差し出すと、フレデリック様は迷うことなく掌で支えてくれる。

 しっかりとしたそれとは違い、探るような瞳ににこりと笑み、


「今度は、"私"自身と向き合ってくださいますか?」


「! もちろんです! リアナ嬢が俺を選んでくれるのなら、騎士の職を辞しても構いません」


「フレデリック様の好いているものを奪いたくはありません。何より私も、仕事も友人も手放す気はありませんし」


「構いません。俺も、リアナ嬢に制限をつけるつもりなど毛頭ありません。あなたには、あなたらしくあってほしい」


「……それを聞いて、安心しました」


 重なるフレデリック様の掌を包むようにしてもう片方の手を添えると、フレデリック様から小さな振動が伝わってきた。

 私は構わず彼を見つめ、


「一つだけ、お願いがあります。どうかこれからも、今夜のように言葉を交わしてください。互いに語らいながら理解を深め、それぞれの"好き"を尊重する……そんな夫婦となりたく思います」


「……!」


「フレデリック様?」


 どこか硬直するような気配を感じ顔を覗き込むと、フレデリック様は「あ、いえ、その」と少しだけ顔を伏せた。


「リアナ嬢の口から、"夫婦"と聞けたのがその、あまりに嬉しく……。本当に、あなたを妻に迎えることが出来るのだと、夢のような幸福を噛みしめているといいますか……」


 刹那、フレデリック様が顔を上げた。

 私の手を強く包み込み、その額に寄せる。


「誓います。あなたの唯一の婚約者として、そして夫として、共に寄り添える最大の理解者となってみせます。たくさん、話しましょう」


「はい! また新たによろしくお願いいたします、フレデリック様」


 私達は再び席に着き、お料理とお酒を堪能しつつ、これまでにないほど多くの話をした。

 幼少期のこと、婚約者となってからのこと、そしてお爺様のくれた"魔道具"と三樹様たちのこと――。


(――楽しい)


 心も軽やかに弾み、あれほど語り合ったというのに。

 "おやすみなさい"が寂しい、だなんて。


 ――認めるわ。


(私も、フレデリック様とお別れしたくはなかったのね)

ここまでお付き合いくださり、ありがとうございます!

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