表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約者の騎士様に放置されたので異世界で日本酒を楽しみます~本当に好きなお相手とどうぞお幸せに~  作者: 千早 朔


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
92/95

アイシングクッキーを贈りましょう

(……やっぱり、婚約を破棄した後も王都に残る道を探すべきね)


 この人達は、たとえ私が"ベスティ侯爵家の婚約者"でなくなったとしても、変わらず接してくれるはず。

 こんなにもいい環境を手放すのは、あまりにも惜しい。


「そうでした。工房長にお渡ししたいものが」


 私は机の隅に置いていたバスケットを手にし、かけておいた布をずらす。


「よかったら作業の合間にでも、皆さんと食べてください」


 途端、二人が「食べる!?」と声を上げた。

 ルーベンス様はバスケットの中をじっと見つめ、


「この香り……もしかして、この白いレースのような模様が描かれたものは、焼き菓子ですか?」


 工房長もまた、確かめるように香りを吸い込み、


「ふうむ、白く艶々とした表面がなんとも美しいもんで、ご令嬢の好む飾りの類かと思いましたぞ」


(わかるわ。私も辰彦様から"アイシングクッキー"をいただいた時は、本当に驚いたもの)


 辰彦様に作り方を教えていただいた私は、料理人の皆の力を借りつつ、この"アイシングクッキー"を完成させた。

 色とりどりで美しかった辰彦様のクッキーとは異なり、白いアイシングだけになってしまったけれど、つやりとした表面は本当に美しい。

 特に皆が出来を競っていた緻密なレース模様なんて、それこそ陶磁器の小物のよう。


「"アイシングクッキー"という、異国の手法を施したクッキーです。この白い"アイシング"は、卵白とお砂糖を混ぜ込んだもので作っているので、安心して召し上がってください。私もお手伝いをさせていただいたので、お口に合うと嬉しいのですが」


「リアナ嬢も、お手伝いを……?」


 ルーベンス様の頬が引き締まる。


「工房長。交渉を望みます」


 彼は場違いなほどに真面目な様相で、


「僕にもこのクッキーを数枚恵んでください。今度、ワインを数本持ってきます。チーズ付きで」


「ふむ、悪くありませんな。交渉成立ですぞ」


「ありがとうございます!」


 料理長からクッキーを受け取ったルーベンス様が、鼻歌交じりに笑む。

 私は疑問に首を傾けつつ、


「ルーベンス様はクッキーがお好きなのですか? あ、アイシングが気になるようでしたら、また後日お届けしても」


「それもとても魅力的なのですが、すでに目の前にある馳走をみすみす逃すのは性に合わずでして。ちなみにクッキーへの愛情は人並みです。"アイシング"とやらを試してみたい気持ちもありますが、なによりも」


 ルーベンス様は一枚を私に示してみせ、片目を器用に閉じてみせる。


「リアナ嬢お手製とあっては、僕にはダイヤ以上の価値があるクッキーですから」


「……!? お、お手製といいますか、私は、本当に少しお手伝いをした程度で……!」


「例え僅かでも、リアナ嬢が調理に関わっていることに違いはありませんから。こちらは後ほど屋敷に戻ってからいただきますね。大切に味わいたいので」


 それこそ宝物を扱うかのように丁寧にハンカチに包み、キラキラとした爽やかな笑みを向けられる。


(な、なんと言えばいいのかしら)


 妙な恥ずかしさで頬が熱い。

 つい視線を下げると、工房長が「ふむ」と考えるようにして、


「前々から思っていたもんですが、お二人は非常に"お似合い"という言葉がしっくりと……そうですな。仕事だけではなく、本当の"パートナー"になられてはいかがかと。我々としても、頼りあるお二人の絆が更に強固になるというのは、喜ばしい限りですぞ」


「!」


 私が言葉に迷ったのは、一瞬。

 なぜなら即座にルーベンス様が反応されたから。

 彼はいつもの笑みのまま軽く肩を竦め、


「工房長、リアナ嬢には婚約者がいるんです」


「なんと……! これはこれは、大変な失礼を」


「いえ、失礼だなんて。お気になさらないでください」


 工房長が、安堵したように息をつく。

 それからしみじみといった風な声色で、明らかに肩を落としながら、


「考えてみれば当然とはいえ……そうでしたか。いやはや、なんとも口惜しい……いや、欲張ってはなりませんな。ちょいとこのクッキーを工房の連中に渡してきます。お茶を淹れてくるので、飲んで行ってくだされ」


 とぼとぼとした背中を見るに、工房長は本気で私とルーベンス様が寄り添うことを望んでくれていたのね。


(……"お似合い"のように見えるのだとしたら、ルーベンス様がお優しいからだわ)


 私を仕事のパートナーとして対等に扱ってくださるばかりか、困った時には、そっと助けてくれる人。

 そしてこんな私にも、誠実に好意を向けてくれる人。


(……私も、ちゃんと話をしておかなきゃ)

ここまでお付き合いくださり、ありがとうございます!

気に入りましたら、ブックマークや下部の☆→★にて応援頂けますと励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ