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婚約者の騎士様に放置されたので異世界で日本酒を楽しみます~本当に好きなお相手とどうぞお幸せに~  作者: 千早 朔


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婚約破棄へのカウントダウン

 二年ぶりの帰省は、心から楽しかった。

 お爺様と過ごした時間はもちろんのこと、お父様を始めとする家族や屋敷の皆、そして集まってくれた領民たちと過ごしたひと時は、温かな懐かしさに溢れていた。


 こっそり涙してしまうほど、愛おしい場所。

 それでも、侯爵邸へ"帰らなければ"と。

 帰って、フレデリック様と話をしたいという想いが薄まらなかったのは、自分でも少々驚いた。


 小さな期待を自覚する。

 時間は私の決断を待ってはくれないという、当然のことを忘れて。

 侯爵邸に戻ると、待ち構えていたかのように出迎えてくれたフレデリック様が、緊張を帯びた面持ちでこう告げてきた。


「リアナ嬢、五日後のディナーはご一緒していただけますか。大事な話があります」


("邪魔者"のいない間に、婚約破棄を言い渡す準備が整ったのね)


 私一人の感情でどうこう出来る問題ではないと、分かっていたはずなのに。

 覚悟をしていたつもりでも、実際に宣告を受けると、胸がざわついた。

 それでも、彼の意図など気付いていないかのように微笑んでみせた。


「ええ。楽しみにしております」


 その直後から、フレデリック様のお姿をあまり姿を見なくなった。

 ノイマンを通じて、しばらく忙しいために食事を一緒に出来ないことへの謝罪と、顔を見れなくなってしまって残念だと綴られた手紙を受け取った。


(以前のフレデリック様からは、考えられないほどの配慮ね)


 そう、以前に戻っただけ。

 なのに……"寂しい"だなんて。


(いつの間にかフレデリック様と過ごす時間が、日常の一部になってしまっていたのね)


 それに、事あるごとに、二年以上の時を重ねたこの邸宅や使用人の皆と離れなければならないという事実に、胸が締め付けられてしまう。


(ただの田舎の貧乏令嬢が、本当に良くしてもらったわ)


 残された時間は短くても、せめて出来る仕事は一区切りつけておきたい。

 そう励む私が、ノイマンの目にどう映ったのか。

 彼はこっそりと、


「お嬢様が出立なされたその日に、坊ちゃまはお嬢様を追いかけロイド様の元へ向かわれました。お嬢様にはお会いできないままお戻りになられましたが、その地で、心に定めたものがあるようです」


(やっぱり。お爺様に、私との婚約を破棄するつもりだと話に行ったのだわ)


 元々この婚約は、お爺様同士の縁で繋がったものだものね。

 礼儀を重んじるフレデリック様なら、事前に謝罪に行くのも頷ける。

 それでもお爺様から手紙が来てないのは、きっと自身の口から告げるまではと口止めもしてきたのだわ。

 私への、義理を通すために。


(大丈夫。私の心は決まっているわ)


 フレデリック様から婚約の破棄を言い渡されたなら、受け入れる。

 これだけは、ずっと変わっていない。


(……ディナーの時に、私との婚約を受けた理由だけは訊いておこう)


 それだけを教えてもらえれば、この胸中で漂い続ける靄も晴れるはず。

 ――後悔はないように。

 私自身の選択は、やり遂げなきゃ。


(あとは、邸宅を出た後に住む場所をどうするかよね)


 久しぶりに訪れたガラス工房で、机の上に並べられた納品予定のグラス達を確認していく。

 一つを手に取り明かりにかざすと、キラキラと眩く反射する。


「今回も、本当に美しい仕上がりだわ」


 ありがたいことに、"キリコグラス"は多くの予約者でリストが何枚も連なっている。

 大成功、と言っても過言ではない盛況ぶり。

 にも関わらず手放しで喜べないのは、大量生産が可能な品ではないから。


 フレデリック様との婚約破棄によって、クレコ家への支援は打ち切りになる。

 お爺様は婚約を受ける前から一貫して、支援金などなくともやっていけるとおっしゃっているけれど、お父様の話では支援金のおかげで出来たことも多い。


(何か、もう少し即時性のある収入源が作れれば――)


「そのグラスに問題がありましたか? リアナ嬢。難しい顔をされているようですが」


「これはこれは、大変な失礼を。すぐに予備の品と入れ替えましょうぞ」


 揃って現れたルーベンス様と工房長に、「いえ! グラスは見惚れるほどに完璧です!」と急ぎ首を振り、


「こんなにも素晴らしい品を次々と制作してくださっているのですから、私ももっと気を引き締めないとと思いまして」


 途端、二人は顔を見合わせた。

 ルーベンス様が肩を竦める。


「むしろ、リアナ嬢はもっと驕ってもいいと思いますよ」


「はっは! 我が工房のお嬢様は頼もしくてなにより! それでこそ、手を組んだかいがあったというもの!」

ここまでお付き合いくださり、ありがとうございます!

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