彼女の素晴らしさを語れる同士
「……それは、間違いなく、判断を違えた俺が悪い。だが断じて、リアナ嬢以外の女性に惹かれたことなど一度もない。……だからと、リアナ嬢の傷が癒えるわけでもないのは、理解している」
「だったら潔く身を引いたら? 結婚するにしたって、リアナちゃんを一番に大切にしてくれる人がお相手になるべきでしょ」
「リアナ嬢を愛しているんだ……っ! 身勝手だとわかっていても、諦められないほどに。俺が、誰よりも近い存在として、彼女を幸せにしたいんだ……っ!」
「えーと……トイレから戻ってきたら、どんな修羅場中だ?」
戸惑う声がして、その男に顔を跳ね向けた。
この国の男は随分と気の抜けた服装を好むらしい。顔つきは、女性と同じような歳に見える。
女性は彼を一瞥もせずに、威嚇する獣のごとく俺を睨みつけたまま、
「この人、リアナちゃんの婚約者」
「ガチか。なんか……リアナさんから聞いてたイメージと違うな」
(この男も、リアナ嬢と話を?)
「リアナ嬢と親しい関係なのか」
チリリとした胸のざわつきを自覚しつつ、男を睨む。
彼は両手を上げると、
「いい友人関係ってやつだから、そんな怖い顔で睨まないでほしいんですが。俺が好きなのはそちらの女性です」
「! 知らなかったとはいえ、恋人の目の前で失礼な誤解をして、すまなかった」
「頭、下げなくていいですよ。残念ながら恋人ではないんで」
「恋人ではない?」
どういうことだ、と眼前の女性に目を向けると、
「恋人だったけど、別れたってやつ」
「別れ……っ!? だが、あの彼は好きだと」
「俺はまだ好きで、もう一度恋人になってもらえるよう、絶賛努力中」
「んで、アタシは絶賛断り続けている真っ最中」
「……っ!?」
つまり、この男は想い人である元恋人の女性ともう一度やり直したくて、共に食事に来ていたということか。
だが女性の気持ちは変わらずのまま。
絶望的。そんな苦境に立たされているというのに、どうしてこんなにも軽々しい空気なんだ……!?
(なぜだ? なぜこの二人はこうも平然と話が出来るんだ……!?)
わからない。だが一つだけ、わかったことがある。
この男の置かれた状況は、なんとも今の俺に近い。
「……詳しく話を聞かせてもらえないだろうか。リアナ嬢のことはもちろん、その、なぜ決別し、なぜ復縁できないのかについても」
二人は示し合わせたかのように、顔を見合わせた。
と、女性が俺へと視線を投げ、
「いいけど、交換条件」
無遠慮に俺の隣席へと腰かけ、
「まずはアタシが満足するまで、そっちでのリアナちゃんの活躍を教えて。あ、リアナちゃんの幼少期エピソードも!」
(……俺達が幼少期に会っていたことも知っているのか)
あちらの社交界でも、ほとんど知られていない過去。
リアナ嬢が話したのだろう。それほどまでに、この者達に心を開いているという証拠だ。
(……この"条件"で、俺が手助けするに値する人物かどうかを見極めるつもりなのか)
「……わかった」
気を引き締め、再び椅子に腰かける。
男は「んじゃ俺も」と、女性の隣席に収まった。
女性は香穂、男は辰彦だと名乗ったので、俺も名を告げる。
二人は「侯爵家の跡取りで、騎士……!」「メインヒーロースペックすぎない? でもまだ当て馬の可能性もワンチャン……!」と何やら理解しがたい用語で興奮していた。
この世界では、侯爵の出自で騎士をする者は珍しいようだ。
先ほどから静観している店主も、俺の話を聞くつもりらしく、にこにことしながら聞く体勢をとっている。
三者三様の視線が注がれ、正直なところ、話しにくい。
……はずだったのに。
「あ~~どうしてアタシはそっちに行けないのか……っ! アタシだって、小さいリアナちゃんと遊びたかった! この目で最高最強ドレスで踊るリアナちゃんを見たかった! 絶対に妖精……ううん、女神。光り輝くシャンデリアの下、優雅で淑やかな微笑みで周囲の目を奪い魅了する女神だったに違いないのにーっ!!」
「その場にいなかったというのに、よく分かるな香穂嬢……! リアナ嬢の優し気な雰囲気はもちろん、凛とした印象も引き立たせるその姿は女神といっても過言ではないほどに可憐で……見惚れる者共の眼前に切先を向けてやりたいと、何度思ったことか……っ」
「あ、こっちにヤンデレ搭載な感じ?」
「やんでれ? すまない、それはどういった武器で……?」
香穂嬢は「大丈夫、こっちの話」と片手を上げ、
「にしても、社交界の有力令嬢様方がお友達で、権力持ちのマダムにまで気に入られているだなんて。チート的立場だっていうのに、あんなにも謙虚でい続けられるなんて、人格者すぎでしょリアナちゃん……! 好き要素しかないんですけど!」
「本当に、リアナ嬢は素晴らしい女性だ。権力者と繋がり、いかに都合よく利用できるかばかりを目論んでいる社交界で、まったく染まらないどころか自らの力でどんどん上り詰めていって……。俺は、何も力になれていないばかりか、君たちのように楽しい時間を過ごすことすら出来ていない。……最高の結婚を用意するつもりで、努力の方向を違えた。婚約者だというのに、彼女が真に望むことすら理解できていなかったんだ」
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