表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約者の騎士様に放置されたので異世界で日本酒を楽しみます~本当に好きなお相手とどうぞお幸せに~  作者: 千早 朔


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

78/80

約束を繋ぐヒマワリ

 お祖母様は花が大好きで、この庭園に季節ごとの花を植え、自ら手入れをしていた。

 お茶会では、私が選んだ花を机の真ん中に飾るのが恒例だった。


 二年ぶりに目にした庭園を懐かしんでいると、思った通りの人物が。

 ゆったりと椅子に座し、花々を眺めているよう。


「お爺様」


 私の声に顔を上げたお爺様が、嬉し気に目元を緩める。


「おかえり、リアナ。ちっとも戻ってこんから、このまま二度と顔を見れずに死ぬことになるのかと思ったぞ」


「私もお会い出来て嬉しいです。ですがお爺様、先日、また"行ってくる"の伝言ひとつで他国に渡ってらしたと、お父様からお手紙をいただきました。本当はそろそろゆっくりとして頂きたいものの、せめて直接伝えに来てほしいと、私からもお願いしてほしいと」


「ワシが"魔道具"と聞いてじっとしていられるような性分ではないと、リアナだってわかっているだろう? こればっかりは諦めてもらうしかない。それこそ、死ぬまでな。まあ……挨拶については、頭に置いておくかの」


(本当、お爺様ったらお父様に対しては素直になれないのだから)


 ありがとうございます、と笑んだ私に、お爺様は取り繕うようにして手を叩くと、


「さあさあ、座ってくれ。ここまで疲れただろう。すぐにお茶を用意させよう」


 お爺様の引いてくれた椅子に腰かけた刹那、使用人の男性がワゴンを押して現れた。

 記憶よりも白髪の増えた彼は、私の姿を見るなり「お久しぶりにございます、リアナ様」と深々と頭を下げる。


 私が生まれる前からお爺様に仕えている、古株の一人。

 彼は眼前の机に、緩慢な仕草でティーセットを並べていきながら、


「お紅茶と焼き菓子をお持ち致しました。表にいらしたお連れの方と馬にも、お休みいただいております」


(先回りをしたかのような手際の良さは、健在ね)


 カップに紅茶を注ぐ彼に「ありがとう。助かるわ」と告げると、彼は慈しむような眼差しで微笑み、


「どうぞ、ごゆっくりとお寛ぎくださいませ」


 再びワゴンを押して彼が去ると、お爺様は「さて」と紅茶に口を付ける。


「婚約の破棄はいつ頃が希望だ? 今すぐにというのなら、急ぎサインをしよう。侯爵家に戻る必要もないぞ。馬車と御者だけ帰して、荷物は届けさせれば良い。ワシが手紙を書こう」


「お待ちください、お爺様。私が婚約破棄を望んでいるというお話は、いったいどなたから」


「この地を離れた当初から数々の"噂"に耐えていた孫娘が、突然戻ってきたのだ。見切りをつけたと考えるのが自然だろう」


(こんな田舎にも届くほどの"噂"になっていたのね)


 私は苦笑を零して、「お爺様」と切り出す。


「とても、悩んでいるのです。この婚約を、そしてこれからをどうすべきか。私自身で選択をするためにも、お爺様と話がしたくて参りました」


 お爺様に贈り物があります。

 そう告げて、バスケットから取り出した包みを慎重に解き、机上に乗せる。


「私が考案し、販売を始めた"キリコグラス"です」


「おお、これが……!」


 グラスを手に取ったお爺様が、目を輝かせて様々な角度から観察する。

 と、私を見遣ってニヤリと口角を上げ、


「どうやらうまいこと、あの魔道具が作動したようだな。かつてあの居酒屋で見たものと、良く似ている。」


 頷いた私は首元からペンダントを引き上げ、


「ご報告が今になってしまい、申し訳ありませんでした。"サカズキ"の件も、入手先を誤魔化そうと咄嗟にお爺様の名前をお借りしてしまって……」


「いい、いい。ワシのことは都合よく使えばいいのだ。これからもな」


「ありがとうございます。それと、もう一つ。お爺様にお渡ししてほしいと、三樹様から預かってきました」


「なっ! 店主が、ワシに?」


 明らかな動揺を浮かべながらも、お爺様は差し出した小箱を受け取った。

 じっと見つめるその心情は、私には推し量れない。

 ほどなくして、意を決した指先が小箱の蓋を開いた。

 途端、お爺様が感極まったように笑みを咲かせる。


「そうか。約束を覚えていてくれたのだな」


 小瓶を取り出し、机上に乗せる。


「これは……"ニホンシュ"ですね。三樹様の国でもヒマワリが咲くのですね」


 ラベルに描かれた見事なヒマワリは、この日本酒の名前になっているのかしら。

 この庭園のヒマワリはまだ成長中で、花開くにはもう少し時間が必要なよう。


「リアナ、このカードを読んでくれるかの。ペンダントの所持者なら、可能なはずだ」


 受けとったそれには、たしかにあの国の言葉と思しき文字が並んでいる。

 三樹様が書かれたのかしら。


(本当だわ。不思議と読める)


「武の井酒造の四季シリーズ、春夏秋冬の夏にあたる一本で、ヒマワリ酵母を使った純米吟醸酒です。ぜひ庭園で、瑞々しくも優しい味わいと、爽やかな香りを楽しんでください。――ヒマワリの花を使った"ニホンシュ"ということですか……!?」

ここまでお付き合いくださり、ありがとうございます!

気に入りましたら、ブックマークや下部の☆→★にて応援頂けますと励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ