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婚約者の騎士様に放置されたので異世界で日本酒を楽しみます~本当に好きなお相手とどうぞお幸せに~  作者: 千早 朔


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選ばれるべきはわたくしなのよ

 嬉し気に瞳を輝かせたリアナ嬢が、自身の持つグラスを周囲にも見えるよう少し掲げ、


「このグラスは外側に色のついたガラス、内側に透明なガラスと二色を被せた二重構造になっております。そのためにこうして細やかな箇所でも、はっきりとした色分けが可能となっているのです。更には直線的なカットを多用することで、光を反射する箇所が増え、こうして宝石に似た輝きを放つのです」


 リアナ嬢がグラスを左右に回転させると、シャンデリアの明かりを受けてキラキラと輝く。

 その様子に周囲が「おおー!」と感動の声をあげると、リアナ嬢はにこりと微笑み、


「ご覧の通り、製作工程が複雑なのはもちろん、この細やかなカットは熟練のガラス職人でないと難しいのです。私はあくまで考案をしただけにすぎません。マルガレット様のお力添えと、ガラス職人たちの不屈の努力のおかげで、このように皆様に素晴らしい品をお披露目することが出来ました。こちらにおりますルーベンス様にも、たくさん支えていただいております。本当に、ありがとうございました」


「僕のほうこそ、リアナ嬢の素晴らしい発案を実現化するパートナーに選んでもらえて、光栄です。時に、リアナ嬢。このグラスの名も発表されてはいかがですか」


 ルーベンス卿に促され、リアナ嬢が首肯する。


「皆様、このグラスは是非とも"キリコグラス"とお呼びください。そして今後、少量ずつではございますが、マルガレット様の商店にて販売をさせていただきます。お色はしばらくこのグリーンにて制作を続けていきますが、冬にはラズベリーカラーのご用意も計画中です。ぜひ、お立ち寄りくださいませ」


 リアナ嬢が口を閉じるや否や、周囲の貴族たちがわめきだす。

 いったいいつ頃の発売を予定しているのか、大量に購入することは出来るのか……ともかく、どれも好意的なものばかり。

 それも、本来なら"主役"であるはずのわたくしには一切目もくれずに……!


 刹那、音楽が切り替わった。

 会場に花を添える目的の演奏ではなく、ダンスを促す音だわ。


「リアナ嬢、ルーベンス」


 不思議と通る声がして、マルガレット夫人が現れた。

 先を譲るようにして、周囲の人々が一歩を引き道を作る。


「無事にグラスのお披露目も済んだことだ。二人で一曲、踊ってくるといい」


「そうですね。では……お相手いただけますか? リアナ嬢」


 胸に片手をあて軽く腰を折りながら、ルーベンス卿がリアナ嬢へと手を差し出す。

 ぐっと気合いを入れるようにして胸を張ったリアナ嬢は、マルガレット夫人へとグラスを受け渡し、


「はい、よろしくお願いします」


 周囲の目を受けながら手を取った二人がダンスのエリアへ向かうと、集まっていた貴族たちも彼らのダンスを見ようと移動を始めた。

 皆、"社交界らしい"好奇に満ちた顔をしている。


 二人が歩を止めた後、少し遅れて数組の男女が進み出てきた。

 と、同じくダンスのポディションをとった令嬢たちが、リアナ嬢に顔を向け力強く頷く。

 あの女が、ほっと緊張を緩めたのがわかる。


(また取り巻きが……そういえば、リアナ嬢はダンスが下手だったわね)


 突然に発表されたフレデリック様の婚約が社交界を賑わせた直後、一度だけ、二人が夜会で踊っているのを見たことがあるわ。

 厳選された招待客だけの、小さな規模の夜会だったから、この場にいる大半は彼女のダンスを知らないでしょうね。

 いくら田舎者とはいえ、フレデリック様に選ばれた"伯爵令嬢"なのだから、ダンスくらいはさぞ完璧なのだろうと思っていたのに……。


 優美さの欠片もない、ぎこちない身のこなし。

 フレデリック様と踊っているというのにその表情は腹が立つほど陰鬱で、さりげなく補助をしながら踊る彼が心底不憫だったわ。

 まあ、フレデリック様も呆れてしまったようで、それ以降に二人が夜会に参加することはなかったけれど。


(付け焼き刃の練習で、"本物の貴族"たちの目を欺けるはずがないじゃない)


 丁度いいわ。一番の注目が集まる中、無様なダンスを披露してちょうだい。

 そうすれば、きっとこの場の全員が目を覚ますはずよ。

 自分達が熱心に追いかけている相手は、ダンスもろくに踊れない程度の女なのだと。


 音楽が切り替わる。

 互いに礼をして手を取り合った男女が、一斉に踊り出す。


(マルガレット夫人の指示でしょうけれど、ルーベンス卿も哀れなものね。帰国してさっそく笑い者にされるなんて――)


「……うそ」


 目の前の光景は、現実なの?

 淑女らしい可憐さを漂わせながらも、優雅に動く身体。

 余裕さえ感じられる微笑みの下で、ドレスがふわりと軽やかに舞う。


(そんな、こんなことが……っ!)


「なんと美しい……いやはや、どうしてリアナ嬢はこれまで夜会に出席されなかったんだ?」


「ダンスが苦手だとの噂でしたけれど……それが事実なら、さぞかし努力されたに違いないわね。うっとりしてしまうほど素敵だわ」


「なあ、申し込んだら次は俺とも踊ってくれると思うか?」


「素晴らしいですわリアナ様……っ! お優しく知的なだけではなくダンスまで完璧だなんて……憧れますわ!」


(なんなの……なんなのよ、あの女!!)


 "剣姫"に選ばれたのも、フレデリック様に相応しいのもわたくしなのよ!?

 それなのに……っ!


(くやしい、くやしい、くやしい!!!!)


 力を込めた手の内で、元凶と同じ色をしたグラスがギリリと音をたてる。

 叩き割らないでいたわたくしの"優しさ"を、褒めていただきたいわ……!

ここまでお付き合いくださり、ありがとうございます!

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