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婚約者の騎士様に放置されたので異世界で日本酒を楽しみます~本当に好きなお相手とどうぞお幸せに~  作者: 千早 朔


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所詮、いかさまばかりのハリボテ令嬢でしょう?

 聞けばあの揃いのブローチも、フレデリック様が自ら選ばれてあの女に贈ったですって……!?

 わたくしには、何も届いていないのに!


(あの女が"婚約者"の立場を強固にしようと唆した? それとも、現侯爵夫妻が家門の品位のためにと口を出してきたのかしら? そうに違いないわ)


 大衆の面前でフレデリック様を苦しめたというのに、当の本人は見目が良い別の男を侍らせて楽し気にしているだなんて、なんて酷い悪女なのかしら……!


(どうして誰も、あの女の性根の悪さに気が付かないの!?)


 苛立ち交じりにワインを受け取りに行くと、そこでも耳に届くのは、あの女の話題。


「リアナ嬢はフレデリック様との婚約を破棄されると聞いていたが、噂だったのか? 木剣を受け取っていたばかりか揃いのブローチまで着けられて、随分と仲睦まじい様子だが」


「でもほら、エスコートをしているのはルーベンス様だぞ」


「騎士団には任務があるからだろう? どちらにせよ、ルーベンス様が出て来てしまっては他の男は手を出せないな。二年ぶりに姿を見たが、なんともご立派になられて」


「オリオル公爵夫人もさぞかし鼻が高いだろう。はてさて、リアナ嬢はどちらを選ばれるのか」


(あの女が選ぶ!? 田舎者の地味女が、身の程をわきまえなさいよ!)


 噛んだ奥歯がギリリと音を立てた刹那、それまで流れていた音楽の演奏が止まった。


「皆さま! ご注目くださいませ!」


 先ほどまでダンスが繰り広げられていたホールの中央に立つのは、マルガレット夫人。

 建国祭で行われるこのパーティーを取り仕切っているのが夫人であることは、誰もが知っている。


 だから夫人がこうしてパーティーを中断し、注目を集めるのはなにも不自然ではないのだけれど……問題は、その隣。

 ルーベンス卿と共に、あの女……リアナ嬢が控えている。


(もしかして、フレデリック様との婚約を解消して、あの男と新たな婚約を結ぶことが決まったのかしら)


 やっぱりフレデリック様は、あの女に見切りをつけてわたくしと――。


「王妃様よりご厚情を賜り、これより特別なグラスに注いだワインをお配りいたします。製作したのは私のガラス工房ですが、発案者はこちらのリアナ・クレコ伯爵令嬢にございます」


「……は?」


「彼女は他国にて発展した技術に独自の改良を加え、この国のグラスに新たな革命を起こしました。繊細かつ複雑な製造方法を有するそれらは、一度に多くを用意できる代物ではありません。故に幸運にもその手に出来た紳士淑女の皆様におかれましては、どうぞ周囲の方にもお披露目くださいまし!」


 扉が開かれ、使用人たちがぞろぞろと列を成して入場してくる。

 その手には夫人の言うグラスがあるのだろうけれど、この位置からでは人が多すぎてよく見えないわ。


(ま、まあでもどうせあの女が考えたモノなのだから、また人を騙すような奇妙な仕掛けがある程度の――)


「なんと! こんな輝かしいグラスは見たことがない!」


「みて、宝石でワインを飲んでいるようだわ! なんて素晴らしいの……!」


「私にも寄こしてくれ!」


(な……いったいどんな品を用意したというのよ!?)


 その時、餌をついばむ鶏のごとく集まる人々の塊から、見知った顔の令嬢が二人ほど出て来た。

 どうやら彼女たちはグラスを受け取ったよう。

 そそくさと人の少ない壁際に移動し、互いに嬉し気な笑みを浮かべて言葉を交わしている。


(ふうん……使えるじゃない)


 わたくしは彼女たちに近づき、


「そのグラス、わたくしにも見せていただけるかしら?」


「! ゼシカ様……っ!」


 了承を得る前にその手から奪ってやったけど、仕方ないわよね。

 わたくし相手にぐずぐずしている方が悪いのだもの。

 それよりも、このグラス――。


「配られていたグラスは、本当にコレで違いないの?」


「は、はい……!」


(嘘でしょう!? このグラスをあの女が考えたですって!?)


 透明なグラスには複雑な模様が幾重も刻まれ、光を反射する様はまさに宝石のよう。

 更には部分的に色が付けられ……。

 ――違う。色を塗っているのではないわ。

 それに、この色はどこかで……。


(あの女のドレスの色……!)


 勢い良く振り返った先では相も変わらず人々に囲まれた、グラスの色味とよく似たオパールグリーンのドレスを纏い微笑むあの女。

 "剣姫選定の儀"で彼女の姿を目にした者ならば、このグラスを見ればその顔が浮かぶに違いないわ。


(こんなの……こんなの、許せないわ……!)


 わたくしはグラスを手に注目の中心へと歩を進め、


「――リアナ嬢……っ!」


 わたくしに気が付いた彼女が、「ゼシカ様」と微かに頬をこわばらせる。


(観念なさい。わたくしは欺けないわよ)


 すでに漂う勝利の気配に笑い出したくなるのを耐え、にこりと穏やかに笑んでみせる。


「なんとも美しいグラスで、驚いておりますわ。こちら、リアナ嬢が他国の技術を元に考案されたのだとか。よろしければ、このグラスについて詳しく説明してくださらないかしら? いったい何が革命的なのか……簡単ですわよね?」


(どうせろくに説明など出来やしないでしょう? 考案されたのだって、マルガレット夫人かルーベンス卿に違いないわ)


 わたくしの言葉を受けて、周囲の視線がリアナ嬢を突き刺す。

 彼女は唇を小さく引き結ぶと、己の愚行を恥じて――。


「ゼシカ様がこのグラスに興味を持ってくださるなんて、嬉しいです! 恐縮ながら、ご説明させていただきますわね」


「……は?」

ここまでお付き合いくださり、ありがとうございます!

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