わたくしが手にするはずだったのに
(どうして……どうしてわたくしがこんな目に遭わなくてはならないのよ!!)
豪華絢爛な国一番のダンスホールで行われる建国祭のパーティーは、王家より招待状を得た家門と、その参加者が連れ立つパートナーしか入場できない決まりになっている。
そんな"選ばれし者"の中でも、その年の"剣姫"は一番の注目を集める存在だというのに。
(わたくしよりも、ルーベンス卿とリアナ嬢にばかり注目が集まっているだなんて……!)
老夫婦も、紳士も、令嬢たちでさえ。
わたくしには簡単な挨拶だけをして、ルーベンス卿とリアナ嬢を取り囲む人々の輪に加わっていく。
二人から離れた場所にても、耳に届くのはあの二人の話題ばかり!
("剣姫"はわたくしなのよ!? もっとわたくしに注目して、褒めたたえるべきでしょう……!)
ドレスも宝石も、今日のためにとびっきりの品を用意したのよ!
なのに羨んだ視線を向けて来る人なんて、ほんの僅かだけ……!
(フレデリック様も、私の配慮を無下にされるし。これでは騎士を誘惑してまで"剣姫"になった意味がないじゃない……!)
"剣姫選定の儀"に参加する騎士は秘匿とされ、儀式の直前に騎士団長より発表される掟になっている。
とはいえわたくしのお父様は、騎士団における有力者。
今年が最後の"未婚"である年となるかもしれないから、どうしても"剣姫"になりたいのだとねだったら、こっそりと選出者を教えてくれたわ。
幼い頃から自由に出入りしている騎士団の本部で、わたくしを知らない騎士などいない。
だからわたくしは選出された騎士のそれぞれに会っては、こう声をかけた。
「もしも"剣姫選定の儀"に選ばれたのなら、勝利の木剣はわたくしに捧げてくださらない? わたくしが"剣姫"に選ばれたなら、お父様は木剣を捧げてくれた騎士に感謝するはずよ。もちろん、わたくしもお父様に、よく"お礼"をしてほしいとお願いするわ」
騎士たちは皆、目を輝かせて頷いた。
当然よね。だってお父様の口添えがあれば、昇格だって可能だもの。
残るはセド卿とフレデリック様。
フレデリック様の信頼するセド卿の実力を考えれば、彼が勝利を得る可能性が高いのは明白。
だから彼にも声をかけるべきなのは理解していたけれど、どうにも気乗りせずにいた。
(昔から苦手なのよね、あの人)
飄々としているようで思慮深く、何より、権力に興味がない。
騎士団の誰もが野心と敬意を持って接するわたくしにも、上辺だけの賛辞ばかりなのだもの。
セド卿はきっと、わたくしの"取引"に乗ってこない。
どころか彼から、フレデリック様に話が伝わってしまうかもしれない。
(彼は捨てたほうがいいわね。たとえセド卿がわたくしに木剣を捧げずとも、目的は果たせるはずだもの)
そうして迎えた本日の選定の儀で、わたくしは計画通り、一戦目と二戦目の木剣を手にした。
あの女が注目されなかった悔しさ故か、負傷した騎士にハンカチを渡すなんて悪あがきをしていたけれど、惨めなものだったわ。
続いての三戦目では、わたくしの予想通りセド卿が勝利した。
彼が選んだのはわたくしではなく、アシェル様。
(やっぱりね。まあ、前回の"剣姫"の顔を立てる必要もあるでしょうし、むしろ都合がいいわ)
だってこれで、フレデリック様がアシェル様を気にかける必要がなくなったもの。
(さあ、フレデリック様。わたくし達の絆をあの女に知らしめる、最高の舞台が整いましたわよ)
近頃突然と冷たくなってしまわれたのは、あの女に何か吹き込まれたからでしょう?
加えてフレデリック様はお優しいから、わたくしへの気持ちを抑えて、無理やりあてがわれた"婚約者"への義理を果たそうとされているのよね。
だけど今日、この場なら。
すでにわたくしには、二名の騎士が木剣を渡している。だから自分もその流れに乗じたのだ、と。
そう、あの女には言い訳が出来るでしょう?
(フレデリック様はこれまで、必ずわたくしに木剣を捧げ続けてくださっていた。それが本当のお心なのだと、わたくしはちゃんと分かっておりますわ……!)
きっと聡明なフレデリック様は、わたくしの健気な努力に気がついてくださったのね。
はやる気持ちに急かされるようにして、あっという間に試合を終えてしまわれた。
(フレデリック様たら、こんなにもわたくしへの愛情を募らせていたのね)
彼が言葉に出来ない想いを込めた木剣を受け取るべく、立ち上がる。
心配ありませんわ、フレデリック様。
全ての答えはこの木剣にあると、ちゃんと理解しておりますわ。
わたくし達の悲劇的な運命は衆目を集め、"剣姫"に選ばれたわたくしの方があなた様に相応しいと誰もが噂するでしょう。
――そのはずだったのに。
「俺の剣はリアナ嬢、あなたに捧げます。受け取ってください」
どうして? どうしてなのよフレデリック様!!
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