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婚約者の騎士様に放置されたので異世界で日本酒を楽しみます~本当に好きなお相手とどうぞお幸せに~  作者: 千早 朔


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捧げられた勝者の木剣

 昨年まではもっと"決闘"になっていたのに。

 フレデリック様は平然と軽く服を整え、こちらへと踏み出した。


(……気のせいかしら? ずっと目が合っているような……?)


「さすがはフレデリック様ですわ。これで決まりですわね」


 当然のごとく立ち上がったゼシカ様が、フレデリック様を迎えようと進み出る。

 フレデリック様はまだ歩み寄っている最中だけれど、わざわざ指摘する必要なんてないわよね。

 選ばれるのは、ゼシカ様なのだから。


(贈ってくださった揃いのブローチを身に着けて、試合に挑んでくれたのだもの。私の"婚約者"としての体裁は、充分、保っていただいたわ)


 だからどうか、フレデリック様の心のままに。

 ブローチにそっと触れる。アシェル様が、ぼそりと呟いた。


「まったく、恥を重ねるのがお好きな方ね」


「え……?」


 階段前に辿り着いたフレデリック様が、一度立ち止まった。

 ゼシカ様が待っているというのに、その視線は私に向けられている。


 だから私は微笑んでみせた。

 気にしないから、その想いを貫いてほしいという意図を込めて。

 フレデリック様は一度視線を下げたものの、すぐにぐっと顔を上げ、階段を上り――。


「……そんな」


 激しい動揺に狼狽しているうちに、フレデリック様は私のすぐ前まで上ってきてしまった。

 変わらず私だけをまっすぐに見つめて、


「俺の剣はリアナ嬢、あなたに捧げます。受け取ってください」


「で、ですが……っ」


「どうしてですの!? フレデリック様!」


 叫んだゼシカ様が、フレデリック様の眼前に詰め寄る。


「フレデリック様の木剣は、ずっとわたくしに捧げてくださっていたではありませんか!」


「……それは、リアナ嬢がいなかった時の話です。今回は、ゼシカ嬢に捧げる理由がありません」


「な……っ!?」


 信じられない、とばかりに言葉を失うゼシカ様と同様に、私も唖然するばかり。

 と、「リアナ嬢」とアシェル様。跳ねるようにして顔を向けた私に小さく噴き出すようにして、


「このままでは、儀式が止まってしまうわ」


「あ……」


(そうよね。ひとまず、受け取らなきゃ)


 ふらりと立ち上がり、小走りで駆け寄った私に、フレデリック様が嬉し気に頬を緩める。

 ゼシカ様は、到底許容できないといった顔で睨んでいるというのに……。


「……ありがとうございます、フレデリック様」


「礼をすべきは俺のほうです。受け取ってくださりありがとうございます、リアナ嬢」


 フレデリック様が、自身につけたブローチをそっと撫でる。


「俺の剣はいつだってあなたのものです。では、また後ほど」


「……っ!」


 わななくゼシカ様を一瞥することなく、フレデリック様は踵を返して戻っていってしまった。

 私はといえば、早鐘を打つ心臓を宥めつつ席に戻ったものの……ゼシカ様からの鋭い視線が突き刺さって、当分落ち着けそうにない。


(フレデリック様は、いったい何をお考えなのかしら)


 "ベスティ侯爵家の婚約者"が木剣を一本も受け取れないとあっては家名に傷がつくと、体裁を保つための行動だった?

 だとしたら、そうだとゼシカ様に事前に伝えておけば済む話だし、あんなに冷たい態度をとる理由がないわ。

 それに……私に向けられた表情は、まるで本当に心を寄せた"婚約者"への態度のようで……。


 悶々としているうちに、"剣姫"に選ばれたゼシカ様が前方に立ち、王家の観覧席に向かって恭しく礼をしていた。

 儀式は無事に閉幕。

 王家の方々が会場を去ったのを見届けて、私もアシェル様と共に立ちあがり、一礼をして観覧席を後にする。


 観衆の目から隠れた刹那、ドンッと腕に衝撃が走った。

 見れば私を追い越したゼシカ様が、ギッと目じりを吊り上げ、


「恩情をかけていただいたからといって、調子に乗らないほうがよろしくてよ」


 ツンと顎先を上げ、去っていく背。

 アシェル様が私に寄り、そっと腕を撫でてくれる。


「"剣姫"には選ばれたというのに、強欲な人ね。気にすることないわ」


「……とても、驚かれたんだと思います。私も、いまだに不思議でなりませんし」


「……ねえ、リアナ嬢。フレデリック様が本気で婚約の継続を望んでいたら、どうするの?」


「そ、れは……」


 視線を落とした私の手を取り、アシェル様はまるでエスコートをするように歩を進めていく。


「思っていたよりも誠実で純真な方だったわ。それを二年前から発揮していればよかったものの……自業自得ね。リアナ嬢がフレデリック様との婚約破棄を本気で考えているのならば、多少強引にでも事を進めないと、このままではあっという間に"ベスティ侯爵夫人"よ」


「――リアナ嬢!」


 アシェル様と共に外へ踏み出した刹那、待っていたかのように名を呼ばれた。

 声の主が駆けてくる。


「フレデリック様!? 終了後はそのまま見守りの任務に就かれるご予定では……?」


「はい。なのですぐに戻らなくてはならないのですが、どうしてももう一度話をしておきたくて」

ここまでお付き合いくださり、ありがとうございます!

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