剣姫選定の儀
「騎士の試合中は、座っていればいいの。勝者が木剣を捧げにくるから、その時は立ち上がって受け取る。それだけよ。……あら?」
アシェル様が歩を止め、扇子を開いた。
前方に見える席に座していた令嬢が立ちあがり、振り返る。
「ご機嫌よう、アシェル様、リアナ嬢。本日はご一緒できて光栄ですわ」
(ゼシカ様……! 先にいらしていたのね)
もしかしたら、フレデリック様はゼシカ様が先に会場に入られていることをご存じだったのかも。
だからああして、私のエスコートを堂々と出来て――。
「随分と余裕がおありのようですわね、リアナ嬢」
ずいと私に顔を寄せたゼシカ様が、勝ち誇ったようにして微笑む。
「どなたの木剣を受け取ろうと、恨みっこなしでお願いいたしますわね」
(これって、フレデリック様のこと……よね)
確か、これまでフレデリック様とゼシカ様の選出が重なった年では、ゼシカ様がフレデリック様の木剣を受け取り続けている。
今回は"婚約者"の私がいるけれど……。
所詮、名目上なのは周知の事実となっているし、他にも婚約者のいる騎士なんて大勢いるのだから、フレデリック様が心のままにゼシカ様への愛を貫いたっておかしくはない。
だから私は「もちろんです」と笑みを返した。
ちゃんと分かっていると。
なのにゼシカ様が顔を顰めたのは、どうしてなのかしら。
座席は前年の"剣姫"であるアシェル様を中央に、私とゼシカ様が左右に分かれて座る。
おかげでとっても心強い。
程なくして、王家の皆様が入場された。
興奮に包まれた会場もその時ばかりは静まり、王の宣言をもって、儀式に選出された騎士たちが入場する。
騎士は全部で八名。儀式の直前に騎士団長から発表されるのだけれど……。
(やっぱり、フレデリック様も選出されているわ)
歩く位置は後ろから二番目。最終試合を務められるのね。
整列し、足を止めた騎士たちが、王へ忠誠の礼を捧げる。
会場の熱が一気に上がり、一組ずつ、儀式用の木剣を用いた決闘が始まる。
「気分が悪くなったら我慢せずに言うのよ、リアナ嬢。通常の観覧席で見るよりも、刺激が強いでしょうから。過去にも多くのご令嬢が耐えきれず、気を失っているわ」
「ありがとうございます、アシェル様。気を付けます」
アシェル様の気遣いにほっこりしつつ、ふと過る。
(アシェル様がご結婚されたら、こうして気軽に言葉を交わすことも難しくなってしまうわよね)
観覧されている王族は、王と王妃様、そして皇太子殿下の三名。
本来ならば皇太子妃殿下も出席されるのだけれど、ご懐妊中のために欠席されている。
アシェル様の婚約者は、皇太子殿下の護衛騎士。それも、多大なる信頼を寄せられている。
ゆえに皇太子殿下は、彼に妃殿下の護衛を命じる機会が増えたそう。
少なくとも妃殿下の出産が無事に終わり、新しい体制が整うまでは結婚を待ってほしいと頼まれているのだとか。
アシェル様は彼を待つと言っていた。
つまり、いずれ王家に近しい人になってしまう。
(どちらにせよ、フレデリック様との婚約を解消して実家に戻ったなら、アシェル様やエステラ様とは顔を合わせるのも難しくなるわね)
事業もあるし、マルガレット様に下宿先の紹介をお願いして、首都に留まろうかしら。
当然、"ベスティ侯爵家"の名を利用したほうが、あらゆる不安を解消できるとは分かっているけれど……。
(……アシェル様とご婚約者様は、どうやって今のように信頼し合える関係を築いていったのかしら)
アシェル様も、当初は"貴族らしい"婚約だったと聞いている。それでも今では。
(アシェル様がご婚約者様と一緒にいる姿はほとんど見ないけれど、それでも、お二人が互いを想い合っているのはよく分かるもの)
どうやら私は"貴族の娘"だというのに、誠実な愛と信頼のある結婚への憧れを捨てきれていないらしい。
そうなると、やっぱりフレデリック様との婚約は解消したほうがお互いのためで――。
「申し訳ありませんわ、アシェル様、リアナ嬢」
どこか嬉々としたゼシカ様の声に、はっと思考が浮上する。
気づけば二戦目が終了したよう。勝者とおもしき騎士が、ゼシカ様の席に向かって歩を進めてきている。
「一戦目もわたくしが木剣を受け取りましたが……どうやらまた、選ばれてしまったようですわね」
(そんな。アシェル様は前回の"剣姫"なのに)
私が観覧した過去二年では、いずれも一戦目では前回の"剣姫"が木剣を受け取っていた。
だから先ほど、一戦目の勝者がゼシカ様に木剣を受け渡していたことには違和感を覚えたけれど、アシェル様が何もおっしゃらないからそういう時もあるのだろうと。
きっと、こうした場合は二戦目に前回の"剣姫"が受けとるのね、なんて思っていたのに。
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