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婚約者の騎士様に放置されたので異世界で日本酒を楽しみます~本当に好きなお相手とどうぞお幸せに~  作者: 千早 朔


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私をエスコートしてもいいのですか

 フレデリック様の手を借りて馬車に乗り込み、ノイマンに見送られて出発する。

 準備で疲れていないかとか、絶対に一人で行動してはいけないだとか。

 心配気に話してくれるフレデリック様は、演技のようには見えない。

 そもそも、"演技"が出来るほど器用な人ではないのだと、最近になって気が付いた。


(だからこそ、余計に目的が分からないわ)


 フレデリック様は今日まで、私との朝食をたったの一度も欠席しなかった。

 どころかある時は日中、またある時は夕食後にふらりと屋敷に戻って来ては、庭園の散歩や簡単なお茶の時間を共に過ごした。

 もちろん、その度にあの歌劇めいた言い回しで、私への好意を伝えてくれて……。

 真意はわからずとも、少なくとも、私と向き合おうとしてくれているのは理解できる。


(今のフレデリック様となら、いい関係を築けそうなものだけれど)


 きっとこれも、フレデリック様の目的が果たされるまでの、一時的なものだろうと。

 二年という長期に及ぶ経験が、期待をしてはいけないと戒めてくる。


「――着いたようですね」


 止まった馬車から降り立ったフレデリック様が、「お気をつけて」と手を差し出してくれる。

 きっと既に注目の的だろう。けれど怯んではいけないわ。

 今日の私の"役目"からすれば、好機だもの。


(ただの"ベスティ侯爵家の婚約者"じゃない。マルガレット様のように、"リアナ・クレコ"という一人の事業家になるのよ)


 小さく深呼吸をして、フレデリック様の手を取り馬車から降り立つ。


「ありがとうございました、フレデリック様。では、ここで――」


「俺の目的地も闘技場です。別れる必要はありません」


 にこりと笑んだフレデリック様が、私の手を自身の腕に誘導する。

 どうやらこのエスコートは闘技場まで続けてくれるらしい。


(ゼシカ嬢に見られても大丈夫なのかしら)


 気になるけれど、フレデリック様が歩きだしてしまったのだから、断る理由もないわ。

 建国祭の重要儀式でもある"剣姫選定の儀"の開始が近づいてきた競技場の周辺は、多くの人々が集まってきている。

 なのにずいぶん歩きやすいと思ったら、私達に道を譲るようにして人々が避けているよう。

 もちろん、付きまとう視線と、ひそひそよりは大きな噂声と引き換えに、だけれど。


(以前の私ならば即座に日陰へ逃げ込んで、早々に帰る算段をたてていたわ)


 けれども今は。背筋を伸ばし、視線はしっかりと前へ。

 口元は微笑みを携え、自信ある淑女らしく歩を進めていく。

 と、フレデリック様は私に合わせた速度で進みつつ、


「……今日ほど自分が騎士であることを恨んだ日はありません」


「え?」


 深くも鮮やかな青い瞳が私に向く。


「あなたの側を離れたくない」


「そ……れほどまでに、私は危なげでしょうか」


「いえ、そうではなく……。もしかして、気付いていないのですか?」


 フレデリック様は立ち止まると、その腕に添えていた私の指先をそっと掴みあげ、唇を落とす。


「皆、あなたを見ているのです、リアナ嬢。見惚れるだけでは飽き足らず、あなたの優しさにつけこむ隙を伺っている者が多くいます」


「お、大袈裟で――」


「大袈裟などではないわ。まったく、うんざりするほどに無礼で不埒な視線が多いわね、ここは」


「同意いたしますわ、アシェル様。ご機嫌よう、リアナ嬢。お一人になる前にお会いできて安心いたしました」


「アシェル様! エステラ様!」


 近頃は手紙ばかりで、直接顔を合わせるのは本当に久しぶりだわ。

 あまりの嬉しさにお二人の手を一つずつ掴みあげ、


「お二人とも、とってもお綺麗です……! お会いできて嬉しいですわ」


 すると、アシェル様は扇子を閉じながら満足げに笑み、


「緊張はしていないようね。やつれた顔で来たらどうしたものかと考えてたけれど、無用な心配だったわ」


「本当に、うっとりとしてしまうほどに美しくていらっしゃいますわね、リアナ嬢。よくお似合いですわ」


「アシェル様とエステラ様こそ、眩いばかりの美しさです! こうしてお二人を独占していては、他の方々に恨まれてしまいそうですね」


「そっくり同じ言葉を返すわ、リアナ嬢。もっとも、私達を相手に恨めるものなら、だけれど」


 私の頬にかかる髪をそっと退けてくれたアシェル様は、「私の忠告通りになりましたでしょう?」とフレデリック様を見遣り、


「今更、装飾品一つでどうにかできるような状況ではないと」


 次いで、エステラ様が私ににこりと笑み、


「フレデリック様に贈られたこのブローチは、リアナ嬢の意志でお付けに?」


「は、はい。お二人は、どうしてこのブローチのことを……?」


「私達が、そのブローチを選ぶ"お手伝い"をしたのよ」


「ええ!? そ、そうだったのですか!?」

ここまでお付き合いくださり、ありがとうございます!

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