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婚約者の騎士様に放置されたので異世界で日本酒を楽しみます~本当に好きなお相手とどうぞお幸せに~  作者: 千早 朔


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私自身の幸せを得る選択

「いえ。ですが周囲では有名な"噂"でしたし、お相手の女性からは何度か直接お怒りを受けています。婚約者は、彼女への想いも噂も否定するばかりでしたが、いつだって彼女を優先しておりましたから。それが真意なのだと」


 今度は香穂様が挙手して、


「リアナちゃんは、その婚約者のことが嫌い? このままだと、その人と結婚することになっちゃうんだよね?」


「嫌いではありませんが、恋心はありません。ただただ本当に、感謝しているのです。この二年間、花嫁修業を名目に私を邸宅に住まわせてくださったばかりか、家庭教師も生活環境も、惜しみなく投資してくださいました。邸宅で働く皆さんも、田舎者の私にとてもよく尽くしてくださって……。一緒に時間を重ねた皆さんと離れるのは寂しいですが、やっぱり、婚約者には本当に好きなお相手と結ばれてほしいのです」


「うん、はっきりした! リアナちゃん、早いトコその人とお別れしよ。結婚するのなら、もっとリアナちゃんを大事にしてくれる人がいるって!」


「俺の立場からすると、胃が痛くなるんだが……。相手の肩を持つわけじゃないけど、一回、ちゃんと話し合ってみたらどうだ? 現状、リアナさんの憶測が多いようだし、リアナさんも、婚約者の幸せのためにってばかりで、リアナさん自身のための選択が定まってないっぽいし」


「たしかに。相手の人は正直好きじゃないけれど、生活環境が悪くないってのは魅力的だよね。事業にも寛大なみたいだし。愛はなくても条件がいいから結婚、って珍しくもなければ、それで幸せな人もいるわけで。婚約者の事情は気にせずに、リアナちゃん自身が幸せになるためにはって視点で考えてみてもいいのかも」


「私自身の、幸せ……」


 呟いた私に、お二人は励ますようにして頷いてくれる。

 一度離れた後も、再びお互いのための距離を探り合っているお二人。

 私とフレデリック様では、決してこうはなれない。


 終わりは終わり。婚約を破棄してしまえば、顔を合わせる機会もなくなる。

 いえ。偶然顔を合わせたとて、言葉を交わすことも許されないでしょうね。

 "新しい婚約者"に悪いもの。

 でももし、このまま結婚をしたら――。


(私は、私自身のために、この婚約をどうしたいのかしら)



***



 澄み渡る水色の空を彩るようにして、エグラーフ王国の国旗が至る所ではためく。

 ついに迎えた建国祭。

 多くの人々が浮足立つこの日を選んでやってくる行商人も多く、街は数日前から随分と活気づいている。


「リアナお嬢様。馬車の準備が整ったようです」


 部屋の扉を開いたメイドに礼を告げ立ち上がると、鏡の中で揺れたドレスが光った。


(本当、私ではないみたい)


 ふわりとしたシルエットのオパールグリーンのドレスは、一見、繊細なレースが目を引くけれど、さりげなく縫い付けられたビーズ刺繍が動くたびに光を反射してなんとも美しい。


 揃いのイヤリングとネックレスとの調和は言わずもがな。

 ドレスの印象に合わせて柔いアレンジを施してもらった髪も、いつもよりも念入りに整えてもらったお化粧も、ドレスの裾から覗く靴さえ、"田舎者"の私を一国のお姫様のように飾り立ててくれている。


(マルガレット様への恩返しのためにも、今日は頑張らなきゃ)


 気合を入れて部屋から踏み出した途端、階段横に立つフレデリック様と目が合った。

 私は面食らいつつ彼に近寄り、


「フレデリック様? 騎士団に向かわれたのではなかったのですか?」


 確かに今朝、朝食後に出立されたはず。

 すると、フレデリック様ははっとしたようにして、


「あ……闘技場へは直接向かえばいいので、先ほど戻ってきました。リアナ嬢と、一緒に行きたくて。構いませんか?」


「ええ、勿論です」


 毎朝のエスコートですっかり慣れてしまった私は、差し出された手に自然と自身のそれを重ねる。

 共に階段を下りるのも、日常化された動作の一つだというのに、どうにもフレデリック様の視線が突き刺さる。


「あの……どこか変でしょうか?」


「あ、いえ、すみません」


 フレデリック様は階段を下りつつ、しまったという顔で視線を外した。

 けれども降り立つと、私と向き合うようにして再び視線を合わせ、


「リアナ嬢はいつだって素敵ですが、今日のような雰囲気は初めてだったので……。その、新たな魅力に見惚れてしまいました。本当に、美しいです」


「あ……ありがとうございます」


 フレデリック様は私を馬車へと連れ立ちつつ、


「複雑な思いもありますが、マルガレット夫人には感謝しなければなりませんね。それと」


 馬車の前で立ち止まった彼が、私のドレスを飾るブローチにそっと触れる。


「ブローチ、つけてくださってありがとうございます。よくお似合いです」


 心底嬉し気にとろりと目尻を和らげる表情に、きゅっと胸が締め付けられる感覚。

 私は急ぎ"気のせい"だと打ち消して、


「フレデリック様も、制服にブローチをつけてくださったのですね」


「もちろんです。そのために用意したものですから。今日は何があっても外しません」


(本当にいいのかしら……)


ここまでお付き合いくださり、ありがとうございます!

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