好きだけでは叶わない恋
「退屈だなんて、そんな。香穂様が楽しそうにされていると、私も幸せな気持ちを分けていただけているような心地になれますし、"好き"に夢中な香穂様はとても可愛らしいです」
「……そっか。ありがとな、リアナさん」
(やっぱり、気のせいではないわ)
辰彦様は、こと香穂様に関しては、随分と和らいだ表情をする。
彼女を大切に、愛おしく思っていることがよく分かる顔。
香穂様も、そんな辰彦様を信頼しているからこそ、自分の"好き"を隠すことなく楽しめるのね。
(なんて理想的な関係なのかしら)
「辰彦様と香穂様は、本当に素敵な恋人同士ですわね」
「あー……そう、見えるのか。リアナさんと会う時は、一緒にいることがほとんどだもんな」
気まずそうに視線を泳がせた辰彦様に、違和感。
「その、辰彦様が香穂様を心から想っているように感じていたのですが……。も、もしかして、恋人関係ではないのですか?」
「元、なんだ。リアナさんの推察通り、俺は今でも香穂が好きだし、もう一度恋人関係に戻りたいって思ってる。今は趣味になってる弁当作りも、最初はノアくんとやらのキャラ弁を作ってみようとしたのがきっかけだったし。だから今はいうなら、健気にアピール中ってやつだな」
「なになに!? なんでリアナちゃんが困ってるっぽいお顔してるの!?」
大丈夫!? と大急ぎで戻ってきた香穂様が、私を守るようにしてぎゅっと抱きしめてくれる。
辰彦様を睨む姿に、私は慌てて、
「違うんです! 私が、お二人は恋人関係にあるのだと思い込んでいたので、そうではないと教えていただいただけでして……!」
「別に隠しているわけでもないんだから、問題ないだろ?」
「あ、そういう。もー、リアナちゃん、ホントに優しいんだから。気にしないでいいのに」
私の背をポンポンと軽く叩き、香穂様が隣に座りなおす。
「幼馴染なんだ、アタシたち。学生時代に付き合い始めたんだけど、働くようになったらお互い忙しくなっちゃって。アタシから別れてほしいって切り出したんだ。よくあるすれ違いってヤツ」
香穂様はグラスに口をつけ、「アタシさ、結構面倒なんだよねえ」と苦笑を浮かべ、
「恋人とは連絡を取ってないと不安だし、会えないと寂しいしでさ。友達関係なら、ぜーんぜん大丈夫なんだけどね。そういうワケだから、辰彦にも早く次の恋を探しなって何回も言ってるんだ」
「連絡もとってるし、会ってるだろ。俺で良くないか?」
「ヤだよ。またいつ忙しくなるかもわからないじゃん。かといってアタシのためだとか言って、無理して身体壊されてもヤだし。早いトコ諦めて次を探してくださーい」
「無理。俺は香穂がいい。香穂がいない人生なんて考えられない」
「ね、頑固なうえに激重でしょ? んで、アタシにいいように利用されちゃって」
「香穂と一緒にいられるなら、利用でもなんでもいい。他のヤツを頼られるほうが嫌だしな」
私のほうが照れてしまうほどの情熱的な言葉にも、香穂様は「ホーント、損する性格だよね」と呆れ気味にしている。
(私からすれば、お二人とも、お互いを大切に想いあっているようにしか見えないのに)
「……魔法のようになんでも叶いそうなこの国でも、"好き"だけで一緒になるのは、難しいのですね」
「……あのさ、リアナちゃん。違ってたらゴメンなんだけど、もしかして、叶わない恋に悩んでたりする?」
「あ、いえ。私の話ではないのですが、無関係でもないといいますか」
(香穂様と辰彦様の事情を教えていただいたのだから、私だって打ち明けるべきよね)
「婚約者がいるんです。お互いに好意を抱いての婚約ではなく、互いに条件が一致したがゆえの、契約関係のようなものでして。婚約を結んだのは二年ほど前なのですが、当時から、彼には以前より想い合っている女性がいるとよく耳にしていました。それでも責任感が強い方なので、この婚約を破棄しては私の生家が不憫な状況に陥ってしまうだろうからと、その女性への想いを断ち切ろうとしてくださっているようで……。無理をされているせいなのか、近頃は妙な言動まで」
「妙って、その男に酷いことされているの!?」
「いえ、逆です。贈り物をくださったり、心から好いているのは私だとおっしゃられたり……。この二年、ほとんど顔を合わせることのない生活でしたのに、本当に突然と。だから私、ちゃんとお伝えしたんです。今の事業を成功させて経済的にも自立してみせますから、安心して私との婚約を破棄し、想い人と幸せになってくださいって。喜んでくださると思ったのですが、ますます意地になられているようで……」
意地になるにしたって、辰彦様のように好いた相手と一緒になるためだと言うのなら、理解できるのに。
すると、香穂様と辰彦様が「それって……」と視線を合わせた。
辰彦様が私の名を呼ぶ。
「婚約前から想い合っている相手がいるってこととか、想いを断ち切ろうと無理をしているって話とかって、婚約者本人から聞いたのか?」
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