目的はランダムコースターのようです
(向こうでも冷たい紅茶が作れたなら、"キリコグラス"をもっと広めれそうなのだけれど……)
ああ、本当に、こうして悩む時間もとってもワクワクする……!
「香穂様、辰彦様。今夜は連れて来てくださり、本当にありがとうございます。お二人と過ごしたこの特別な夜は、私の大切な宝物です。絶対に、忘れません」
刹那、香穂様が瞬時に"ペンラ"を手にして、
「う、愛い~~~~っ! こんな奇跡的な純度百パーセントの天使ちゃんに出会えた幸運に全身全霊の感謝っ! というかそもそもリアナちゃん自身が宝物だよ!!」
「ん? これってフラグじゃないよな? リアナさん、今夜でこっちに来るの最後にしようとしてんじゃ」
「い、いえ! 今後とも不定期にはなりますが、通わせていただくつもりでいます! ですのでどうか、変わらず仲良くしてくださいますと嬉しいです」
香穂様は「よかったあ」と息をついて、振っていたペンラを置く。
「アタシもまだまだ沢山会いたいし、こうやってお出かけだってしたいし。もちろん、美味しいモノいーっぱい一緒に食べようね!」
と、辰彦様が「あ」と声を上げた。
「もうすぐ食い終わるけど、追加はいいのか? ソレ、まだ中身見てないだろ。大本命だってのに」
「早っ!? まってまって今すぐチェックするから!」
急ぎ香穂様が手にしたのは、机上に置かれていた銀色の小袋。
掌ほどの大きさをしたそれは全部で六個あって、香穂様は先ほどまでとは打って変わり、真剣な表情で机上に並べていく。
「香穂様、そちらはいったい……?」
「ランダムコースターだよ、リアナちゃん」
「ランダムコースター……?」
「コラボドリンクか対象のお料理を一品注文すると一枚貰える、"スター★エンジェル"のメンバーが描かれた限定コースターなんだけど……見ての通り、中身が見えなくって。何が当たるかは開けるまで分からないってやつでね。ぜったいぜったい、ノアくんをゲットしたいんです……!」
「あ、もしかして、人手が必要というのは……」
「心配しないで、リアナちゃん! 胃袋要員は確保済だから!」
辰彦様が「胃袋要員です」とマーボードウフを完食して、
「コラボ系の飯って案外重いの多いよな。特にこのジャンルは、女性がほとんどなのに」
「アイドルしている成人男性の選ぶ料理だから、納得でしょ。よーし、集中!」
香穂様は両手を合わせて「ノアくん、ノアくん!」と呟くと、慎重な指先で一袋、一袋の中身を少し開いて覗いては、目を閉じて頷く。
(私も緊張してきたわ)
息を潜めて見守り続け――。
「きた!」
「!?」
香穂様が袋から引き出した丸いコースターには、ノア様のお姿が。
「ノアくん自引き……っ! 可愛いすぎカッコ良すぎありがとうございますっ!!」
「やりましたね、香穂様!」
「ありがと~~っ! ホント、追加注文三回は覚悟してた……!」
「俺もまだまだ余裕あんだけどな。からあげ貰っていいか?」
「どーぞどーぞ! アタシは今胸がいっぱいなので! あ、湊さんのコースターは亀さんに渡そっと。奥さんの推しなんだよね」
香穂様の前からからあげの皿を寄せた辰彦様が、「リアナさんももっと食べるか?」と尋ねてくれる。
私はいえ、と首を振り、
「"ミズヨウカン"が残っていますので」
緊張が解けたからか、ちょうど甘い物を口にしたい気分だわ。
艶のある赤茶色のそれは色のついた氷のようにも見えるけれど、お皿を持ちあげると柔く振動する。
スプーンですくうと、柔らくもしっかりとした弾力があるよう。
口に含んだ刹那、ひんやりと心地よい冷たさと共に、ほろほろと優しい甘味が広がっていく。
確かに、これは。一種の確信を持って、緑茶と合わせた日本酒をくっと煽る。
(わあ、この緑茶の渋みと茶葉の香りがぴったりだわ。日本酒の甘みも、不思議と馴染むものね)
この"ミズヨウカン"がオススメになっていたのも、納得の美味しさだわ。
香穂様、と呼びかけようとした刹那、私に気が付く前に香穂様がすっくと立ちあがった。
「ねね、大画面ノアくんとコースターの撮影させてもらってもいい!? こんなチャンス二度とないから……!」
香穂様が真剣な面持ちで機械を操作すると、軽快で煌びやかな音楽が始まり、画面では"スター★エンジェルの男性たちが動き始めた。
「ええと、この曲で……今っ!」
ピッと軽やかな電子音と共に、動いていた映像が絵画のように制止する。
ソファと机の間の細い空間を進みモニターに近づいた香穂様は、ノア様のコースターを掲げながらスマホでカシャカシャとなんとも楽し気で。
「悪い、リアナさん。退屈だろうけど、しばらく好きにやらせておいてもらえるか? このコラボ、本当にずっと来たがってて」
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