26、整体院開店
「さあ!今日から開店だよ!」
建物の入り口でポーラの元気な声が響き渡っていた。
「すまないなポーラ。手伝って貰って」
「良いんだよ!あたしの店も朝から忙しい訳じゃないからさ!」
ポーラが今日から開店する整体院のチラシ配りを手伝ってくれていた。
流石にポーラが配っている効果は絶大で、ほとんどの道行く人が興味を示してくれる。
「お、噂のアースじゃねえか?」
「兄貴!遊びに来たぜ!」
「何言ってんのユリシス?あたし達は遊びに来たわけじゃ無いからね!」
色んな声が聞こえる中で、ユリシスの元気な声が聞こえてアースは振り向いた。
「よく来てくれた!これで他の皆にも宣伝しといてくれよ!」
ユリシスにチラシを数枚渡したアースは店の中へと戻り施術を再開した。
ベッドは三つ。
建物は二階建てで、一階は全て整体院になっている為アースの生活スペースは二階だ。
外での呼び込みをポーラが頑張ってくれたからか、朝から客がひっ限り無しでやって来る。
全身完全回復コースは銀貨1枚。
その他部位ごとの施術は銅貨2枚から応相談だ。
その日、アースは食事もまともに摂らずに施術に没頭していた。
気が付けば辺りは既に暗くなっていた。
「すいません、パインさん。こんなに遅くまで…」
「いいえ大丈夫ですよ。孤児院にはチェリーも居ますから」
「アースこそ碌に休憩も取らずに働いていたでしょう?大丈夫ですか?」
「はい、そこは元冒険者ですから!この程度は問題ありませんよ」
「そうですか、しかしくれぐれも無理はしない様に!良いですね?」
「ええ、分かりました!」
「ありがとうございます」とアースが頭を下げると、パインは孤児院へと帰って行った。
目新しい施術院の中を見渡し一息吐いたアースは急に空腹を覚える。
「ポーラの店に行くか」
ポーラの店は思ったより人が少なかった。
勿論、商売なので日によって人の多さが変化するのはおかしな話ではないのだが…。
「アース!来たんだね!」
いつもの席に座ると、当たり前のようにキンキンに冷えたエールが目の間に置かれた。
アースはそれを一口飲む。
「はぁーー!!生き返るね!!」
「お疲れ様、アース!」
「ポーラもありがとう!おかげで沢山のお客さんが来てくれたよ!」
「それは良かった。じゃあ明日からは、もっと忙しくなるね?」
「そうだとありがたいが……。まあ、焦らずにやっていくさ!」
ポーラがアースの好きな食べ物をいくつか運んできてくれる。
それらを食べながらポーラと他愛のない話しで盛り上がる。
「そういやお客さん少なくないか?いつもならこの時間はもっと混んでたと思うんだけどな?」
アースは少し酔いが廻った感じでポーラ尋ねた。
「ああそうだね。アースが開放した鍵の影響じゃないのかい?」
「鍵?‥‥‥ああ、協会の会長に任せるってそれっきりだったから。忘れてたよ!はははは」
「まったく…のんきだね?大手クランにとっちゃ、垂涎ものの鍵なんだよ?ホントに面白い男だね~アンタは……。まぁそれがアースの良いところなんだけどさ…」
言葉の後ろの方が聞きとり難かったので、んっ?とアースが聞き返したがポーラは「何でもないよ!」プイっと顔を逸らして厨房へと入って行った。
「どうしたんだポーラは?何か怒らせるような事言ったかな?」
アースは腕を組んで考えてみるが、何も思い浮かばないのでその内諦めた。
実際は鍵の所為ではなく、アース自身のせいなのであるが……。
それを知るのは、まだ数日あとの話しだった。
「アース、今日はどうする?」
いつの間にかアースの所へ戻って来ていたポーラが尋ねてくる。
「今日は、って……?」
「もう!!そんな事、女のあたしから言わせないでおくれ!」
「…ああそういう……。じゃあ、泊り…で」
「もう!困った酔っぱらいだね!うふふふ」
明日の事は明日考えよう。
アースは心地好い酔いの中で、ポーラの笑顔を肴に冷えたエールを堪能した。




