27、そんな日常
今日は少しだけ開店時間を早くしてみようと思ったアースは、日が昇ると同時に起きて店に行って準備に取り掛かった。
「これほど自分の店を持つことで嬉しくなるとは…」
アースは浮かれていた。
今までの人生で味わった事の無い感覚だった。
施術を行ったほとんどの人が「ありがとう!」とお礼を言ってくれる。
自分がお金を払う方なのに、それでもお礼を言ってくれる。
冒険者時代にもお礼を言われる事は多々あった。
勿論、依頼を完遂させた時には感謝されるのは当たり前だと思っていたが……。
アースにとって整体の施術は、特に変わった事をやっている訳では無い。
なのにお礼を言われる。
「本当に気持ち良いんだろうか?」
自分では分からない。
仕方ない事だが、残念に思う自分もいる。
でも施術を終えた人々からの感謝の言葉で、そんな事はどうでも良くなってくる。
昨日よりも早めに開店準備を進めていたにも関わらず、お客さんが集まりだしてしまった。
「こんな事だろうと思ったよ!アース!」
「ポーラ!それにチェリーまで?」
「アース兄ちゃんのやる事はすぐ分かるんだよね~!今日はパインさんの代わりに私が働くから、心配要らないよ?」
「チェリー……。こんな朝早くから、すまないな」
「何を言ってるんだか!今更だよ、アース!さ、早く準備しようか」
「「「おー!」」」
開店前から大勢の人が列を成して待ってくれている。
アースは今日も全力で頑張ろうと思っていた。
「さあ開店だ!!」
冒険者になりたかった男の店は、今日も盛況だ。
ペンが紙の上を軽快に走る音しか聞こえない部屋。
屈強な容姿の男がため息と共に言葉を発する。
「それで?結局、アイツの話はどうなっているんだ?」
「…どう、とは?」
「アイツの…『アースの特例』についての話しを王都の本部に打診しただろ?あれの返事はまだきてないのか?」
「まだですね。と言うより、信じられていないと思いますけど?」
「はぁ~…。やっぱりソコからか~…」
「まあ、まだ日もそれ程経っていませんから、もう少し待ってみるつもりですが。会長、それよりクランの特例を会長の名前で出してしまった方が早い気がしますが?」
「そうだなぁ……」
会長と呼ばれた男は深くソファへ身を沈めた。
「正直言えば本部の承認なんか要らねえんだがな……、だからと言ってレベルの足りねえ奴らが我先に功を急いで逝っちまうのを見るのは、もうウンザリなんだよ!スパーナ、何か良い案はねえもんかな~?」
「アースさんに嫌われても良いなら一つあります。聞きますか?」
「……いや、止めとこう。アイツに嫌われるのは、色んな意味で悪手でしかねえな。はあ…もう誰か会長代わってくれねえかな…?」
「グダグダ言ってばかりいないで、少しは仕事してください!」
「ダラダラしてても怒らない秘書ってのも……ぐはっっー!!?!?」
ソファに座っていたはずの会長、ハンマーは気が付けば部屋の隅へと飛ばされていた。
言った後でいつもハンマーは自分の失言を悔いるが、全く後悔先に立たずであった。
「ところで、アースさんのクラン加入は予定通りで通達して良いんですね?」
「ああ、それは構わねえ!最善ではねえが仕方ねえさ。アースには飯でも奢るさ!」
「了解しました」
相変わらず本人の居ないところで話しが進んでいる、冒険者協会であった。
「ぷはぁ~!!キンキンに冷えたエールはやっぱり最高だな!」
「今日もお疲れ様、アース!」
整体院は連日の大盛況で、休む暇も無くアースは働いていた。
仕事が終わると決まってポーラの店へ来て、キンキンに冷えたエールを飲むのがアースの楽しみになっていた。
「たまには休んだらどうだい?働き過ぎると、体が壊れちゃうよ?」
「気を遣ってくれるのは有難いけど、体は至って快調さ!寧ろ、働いてる時の方が力が漲って来るんだよ。不思議なものだな?」
実際アースのスキルは、施術を熟していく程にランクアップしていた。
魔物を倒しているのと同じ効果が表れているのには、アース自身も驚いている。
「でもそろそろ店で働いてくれる人を探さないといけないんだよね。いつまでもポーラやチェリー達に迷惑を掛ける訳にはいかないからな!」
「あたしは良いんだよ!あたしは別に…その方がアースと……」
何だか最後の方は聞き取れなかった。
しかし、やはり彼女達の好意に甘え過ぎてもいけない気がしていた。
「それに一日で施術できる人数が限られているから、そこも何とかして上手く捌かないと……。わざわざ来てくれるのは有難いけど、待ち続けるのは辛いよな…」
「じゃあ、迷宮の入口みたいに『番号表』を渡して、日毎に人数を区切れば良いんじゃないかい?」
「番号表か…?良いかも知れないな…」
偽造されても困るから、番号表を真似るなら冒険者協会に詳細を訪ねてみよう。
(あ、そう言えば何か通達が来てたっけ?忘れてたな……)




