25、全部護る
バイオレットも同じように、グイっと一気にエールを煽った。
「はあぁ~……。もう、限界なのかしら…?」
背もたれに背中を預けたバイオレットは虚空を見つめながら、そう呟いた。
ビービーキューから飛び出したのも半ばヤケクソだったし、男子禁制クランの理想を掲げているのも親友を見殺しにした冒険者への当てつけだ。
ポピーや妹のリリーにしても、ほとんどお情けでついて来てくれているんだろう。
ポーラを目標にしてひたすらに迷宮へ潜っていた時は良かったが、今はクランを運営していかねばならない。
正直、もうそんな雑事からは逃れたかった。
「ちょっといいかい?」
「ポ、ポーラさん…」
いつもの笑顔で両手にエールを持ったポーラが現れた。
横にはアースを伴っている。
「アースさん、こんにちは。この間はすいませんでした」
「ポピー、さん?いや、俺は何も……」
「ほら、ここに座って座って!」
自分が先に座った隣りの椅子をバンバン叩きながら、ポーラがアースを座らせる。
「そう慌てるなよ…ってポーラ!そっちの方が空いてるだろ?」
「細かい事は気にしない!」
何故かアースの横へピッタリと椅子を並べて、体を寄せて座っているポーラに一言突っ込むが、本人はどこ吹く風である。
「はい、じゃあ『第一回フラワーベッド、アース争奪会議!』始め~!!」
「おいっ!!!」
さすがにアースは大きく突っ込んだ。
「なんだ、その会議は?」
「別に良いだろ~?ほら、男が小さい事気にしないの!」
同じテーブルに居る筈のバイオレットとポピーは最早空気になってしまっている。
ポーラのペースで話しは進んでいく。
「で、バイオレット!結局、どうするんだい?アースを獲るのか、獲るのか?」
「おいっ!!どっちにしろ『獲る』になってるだろう!」
「…獲ります!!」
その言葉はポピーの口から聞こえた。
バイオレットも虚を突かれたように動きを止めて、ポピーのその続きを待っている。
「今、私達のクランに必要なのはアースさんです!お願いします、アースさん!私達と一緒に迷宮の深層へ潜って下さい!!」
「いや、潜るのは構わないんだが……俺にも自分の生活というものがだな……」
「はい!私の生活をみて下さい!」
微妙に噛み合っていない会話をしているポピーだが、頬はすでに紅色に染まり誰が見ても酔っぱらっている。
ただ顔は真剣そのものであり、熱意というか気迫というか……つまりアースに対する『圧』が凄いのである。
「アースはさぁ…どうしたいんだい?どちらにしてもさ、このままだと上の奴らが何か悪だくみしてくるのは目に見えてるからね~。何処かのクランを隠れ蓑にするって言うのも悪い判断では無いと思うよ?」
「上の奴ら?」
「貴族とか……まあ、そうだね~金と権力を持った奴ら、だよ」
そうか、とアースは王都で冒険者をやってた時の記憶を探っていた。
階層主を倒せる力のある者をある程度の段階で引き抜き、貴族御用達の冒険者として召し抱える制度?みたいなものがあるにはあったが、余程の実力が伴わないと貴族としても召し抱えるメリットは少ない。
実力も然る事ながら、その人間の人格も影響するので悪い噂が立てば一巻の終わりだ。
う~ん…とアースは自分がそんな立場の者達に狙われる程の価値があるのかどうか。
「何か勘違いをしているみたいだから、教えてあげるわ。ポーラさんの言う『上の奴ら』にとって重要なのは、どれくらい迷宮の深層へ行けるか?深層へ行くほどに価値のある物が出てくる可能性が高くなるわ。貴方が階層主を倒した場合、その鍵は全員に開放される。そうでしょ?」
「まあそうだな。しかし、もう無理に倒しに行く気は無いけどな?」
アースとしては約束があるから、ユリシスとは適当に迷宮へは潜るつもりでいた。
その際パーティーをどうするか?という問題は出てくるが、それ程混乱する事は無いと思っている。
専属護衛や指名依頼は受けないし、迷宮へ潜るのはあくまでもユリシスの為だ。
「そこが甘いのよ!どういう形であれ、貴方が冒険者として登録されているという事実は変わらない。であれば、システムの抜け道を使って貴方を働かせようとするでしょうね?無理矢理スタンピードを起こして、参加せざるを得ない状況に追い込む…とか」
「アース?これは気の廻し過ぎかもしれないけどさ……孤児院の方も一応気を付けといた方がいいよ。あたしの店なら何時でも来れる様にしてあるし、パインさんには色々と世話になってる事も多いしさ?」
バイオレットやポーラの言葉がアースには痛いほどに染みた。
世の中には『善い奴』と『悪い奴』が必ず存在するんだ。
王都でも散々痛い目を見てきたアースだったが、その事を忘れて故郷の大事な人々に迷惑を掛けてしまうかもしれない状況を作ってしまった自分に腹が立っていた。
アースはキンキンに冷えたエールを一気に煽り、空のジョッキをゆっくりとテーブルの上に置いた。
まっすぐ前を見つめるその目には爛々と闘志の炎が燃えてる様だった。
「大事な人は必ず護る!どんなことがあっても!」
ペースは少し落ちますが、ぼちぼち復活したいと思います。




