24、難題?
余程冒険者らしくない言動ばかりだ。
本人の口から辞めたいと聞いてはいるが、冒険者としての資質は自分よりもあるだろう。
「私にももっと力があれば……」
冒険者協会での話し合いが終わった後、宵闇の梟亭でポピーと共に食事を摂っている。
「お疲れさんだね~!」
ポーラがエールやら肉やらを持って来て、テーブルに並べていた。
他人には何かと当たりの強いバイオレットだったが、姉の様に慕っているポーラに対する態度は穏やかだった。
「ポーラさん…。私、もう自信無くなってきちゃったよ…」
はぁ~っ!と大きなため息を一つ吐いて、テーブルに突っ伏したバイオレットの様子を見ていたポーラは腰に手を当てて「ホントにお疲れなんだね?あははは」と言いながら、バイオレットの背中をポンポンと叩いて笑っていた。
「命懸けで階層主を倒したのに、手に入れた鍵を簡単に全開放するなんて……馬鹿だと思わない?ポーラさん、どう思う?」
「鍵?はは~ん、バイオレット。アースと何かあったのかい?」
「…ポーラさん、あの変わった男の事知ってるの?!」
突っ伏していたバイオレットはバッと身を起こし、ポーラの顔をまじまじと見ている。
ポーラの顔は笑顔のままだが、その雰囲気が変わったのは鈍いバイオレットでも流石に理解出来た。
「なんだお前、知らなかったのか?アースって奴はポーラの恋人さあ!なあ、ポーラ?」
奥のテーブルに居た常連の男がバイオレット達に向かって声を掛けた。
バイオレットは苦々し気に声を掛けてきた男を睨みつけたが、すぐにポーラの方へ向き直り顔をジッと見つめた。
(あのポーラさんが、男の話しで恥じらっている?)
そう言えば最近のポーラは何となく艶やかになった気がするし、心なしか化粧もちゃんとしてお洒落にも気を遣っている感じがする。
「45階層はあたしが出したんだよ。討伐依頼をね…アースにさ!」
それだけ言ってパタパタと厨房の方へと行ってしまったポーラに目を向けていた。
バイオレットは信じられないモノを見た感じがした……でも、悪感情を持った訳では無い。
バイオレットがこの街で冒険者になった時には、まだポーラも現役で迷宮に潜っていた。
駆け出しの頃から跳ね返り者のバイオレットを何かと気に掛けてくれていたポーラだったが、弟が亡くなると早々に引退してこの店を始めた。
故にバイオレットは開店当初からの馴染み客であるが、あの様なポーラを見たのは初めてだった。
「お、噂をすれば…だな」
誰かが発したその声で入り口の開いた扉の方へ何気なく視線を向ける。
先刻、冒険者協会の会議室で見た顔が入って来た。
満面の笑みで駆け寄って行ったポーラに軽く手を上げ、アースはその手を引かれてカウンターの席へと誘われて行った。
その一部始終をバイオレットとポピーは見ていた。
「ポーラさん、ずっと笑顔でしたね?リーダー…」
「そうね。でも、弟さんの事で塞ぎ込んでいた時を思えば、それよりは良いわよ」
不思議なのは、その存在感故に冒険者たちのアイドル的なポーラに恋人が出来たのに、周りがそれ程騒ぎ立てる様子も無い。
「不思議ね?誰もあの男に文句の一つも言わないのね?」
「…何人か居たらしいですが、アースさんは普通に強いですから。難癖を付けて言い寄って来た人達は、ポーラさんにお店を出禁になったと聞いてます。それもあって、大分落ち着いたかと……」
「そう……とりあえず、食べましょうか?」
気にしていても仕方が無いので食事を再開したバイオレットだったが……。
(あの男、アースが強ければ強いほど冒険者協会の思い通りに成っていくわね。鍵を開放すると分かってしまえば、貴族やお金を持った商人なりが自分達の利益の為にあの男へ指名依頼を出す事は間違いないでしょうから。いいえ、大きなクランにとっても……)
「リーダー?」
食べよう!と言ってからも、全く食事の進んでいないバイオレットを心配してポピーが声を掛ける。
初めはモワッと湯気が出ていた料理が、既に冷えてしまっていた。
「あ、ごめんなさい!ほら食べましょう!」
二人は暫く無言で食事を口に運んでいた。
カチャカチャとナイフとフォークが当たる音がいつもより大きく聞こえる。
「…リーダー」
「どうしたの、ポピー?」
少しお腹が満たされてきた頃合いを測っていたのか、ポピーが呟くようにバイオレットに向き直る。
「アースさんをクランへ誘っても良いですか?」
「……どうして?」
「フラワーベッドにとって必要だと思ったからです…」
「フラワーベッドは女性オンリーのクランよ?その意味は貴女も十分に分かっている筈でしょう?他のメンバーに対しても、今更そんな話しは出来ないわよ?」
「はい。ですが……『仮り』とはいえ彼がビービーキューに入っているのは事実です。今日の話しだと、ユリシスとはパーティーを組んでいずれ迷宮へ潜るはずです。鍵はあくまでも鍵であって、クランや冒険者を強くしてくれる訳ではありません。今までは、鍵の存在がそのクランにとって一応のアドバンテージでした。しかし45階層の階層主が倒され、アースさんという人間が現れた今、あまり意味を為さなくなりましたから…」
そこまで言ってからポピーは、エールをグイっと一気に飲み干した。




