23、アースの規則
スパーナが頭を下げた状態でアースの傍にいる。
もういい加減にして欲しいと、本気でアースは考えていた。
ユリシスを助けに行った事を後悔してはいないが、思ったよりもこの街は迷宮に依存しているみたいだった。
「スパーナさん、もう頭を上げて下さい。協会のトップである人が、そんな簡単に頭を下げてはいけないと思いますよ。ましてや俺は冒険者を辞めようと思ってる人間ですよ?」
「それは関係ありません。私が貴方に対して敬意を払っているのは過去の実績に対するモノであって、これから迷宮に潜るかどうかはまた別の話しです」
バイオレットの言葉で場が少し色めきだっていたのだが?と、アースはスパーナの姿勢に態度を軟化させた。
「分かりました。ではどうすれば解決するのか、皆で話し合いましょう。それでいいですか?」
「ありがとうございます!!アースさん!」
パッと顔を上げ、満面の笑みで両手を握られたアースは突然の事に唖然とする。
「落ち着いて下さい!」と言いながらも、手を振りほどく事が出来なかった。
「改めてだが……鍵をどうするか?だな」
「ちょっと良いかしら?」
またもバイオレットだ。
彼女は初めからずっとアースを目の敵にしている感じだし、皆との協調性も見られない。
今の彼女を見れば、ビービーキューから離脱したのは必然ではないかとさえ思ってしまう。
「なんだバイオレット?」
ハンマーがそんなバイオレットに睨みを効かせる感じで返事をする。
バイオレットの横に座っているポピーの方が申し訳無さそうに縮こまっていた。
「アース、だったかしら?彼は鍵を持っているから、その権利を主張するのは理解出来るとしても……どうして初めからビービーキューだけがその権利をクランの為に利用できているのかしら?そこがそもそもおかしいんじゃないかと思うのだけど?」
確かにバイオレットの言ってる事は尤もだ。
あの時は俺も色々と焦っていたから、王都での冒険者登録が無くなっている事も隠していた。
今はこの街の冒険者協会で登録して貰ったから、それについては問題無いが…。
「ハンマーさん、一つ提案があるんですが?」
「ん、何だアース。言ってくれ」
「協会の規則を変えてしまった方が早いのでは?バイオレットさんの言う事も一理ありますが、今のままの規則では俺は何処かのクランに所属しないと鍵を放棄出来なくなります」
「ふむ…。では、どうする?」
皆がアースの答えを待っているのか、視線が集中する。
「『階層主を討伐した者が望めば、階層の鍵は全冒険者に開放する事が出来る』という一文を追加して貰いたいのですが?」
「待て!それは……」
「なるほど!良い考えかもしれません!」
ハンマーの言葉を遮ってスパーナの声が会議室に響き渡る。
「スパーナ…?」
「会長!これ以上アースさんに精神的負担を背負わせるおつもりですか?」
「う、いや…そう言われてもだな…。そう簡単には……」
「あくまでも『望めば』ですから、討伐した者が今まで通りを望めばクランとしては損失は少ないかと思われます。どうかしら、バイオレットさん?」
急に話しを振られたバイオレットだが、相変わらず胸の前で腕を組んでいた。
ポピーがバイオレットと、彼女を見つめるスパーナの顔を交互に見比べている。
「私は鍵が使えるなら、それで文句は無いわ。まあ、そんな酔狂な事をする人間がいるとは思わないけどね?貴方がその一文を入れる事で、鍵を全員に開放するという証拠も無いしね」
「そうですね。証拠…は無いですが、俺としてはこんなくだらない争いからは、早く抜け出したいから間違いなく鍵は出しますよ!」
「アースさん…」
今まで一言も声を出さなかったハラミーがアースの名を呼んだ。
「アースさん。ユリシスは貴方と迷宮に潜る事を凄く楽しみにしています。…すいません、私が言いたいのはそれだけです」
「ユリシスとはほぼ毎日その話しはしてますから、俺の方が落ち着けばいずれ一緒に潜りたいと思っていますよ」
「はい。出来れば、ツラミーも連れて行って頂けると、有難いのですが…」
「ええ考えておきます。サローイン、すまないな。45階層は鍵を渡すつもりだったんだが、こんな話しになってしまって…」
「良いさ。うちだけが入れないって訳じゃないからな!それがアースの考えなら、俺は支持するぜ?」
アースの言ったその一文を、どのようにして今の規則に入れるか?とハンマーは悩んでいた。
しかし、これを実際に出来るのはこのグールナットの迷宮では恐らくアースだけだろう。
それは想像ではなく、確信に近いものがある。
ともすれば……アースの全冒険者に対する『挑戦』とも取られ兼ねない。
(この街でアースに勝てる奴もそうそう居ねえから、それほど心配は要らねえかもしれねえが…)
最悪、自分が矢面に立って非難されれば良いか。
そう思いながらハンマーは一つため息を吐いた。




