22、鍵の行方
アースは冒険者協会に向かっていた。
ユリシスとの約束通りビービーキューのクランハウスへと行ったのだがサローインは居らず、冒険者協会へと来てくれとだけユリシスに言付けていた。
「まったく…。俺をそれ程冒険者にしたいのか?」
アースとしても全ての未練を立ち切れた訳では無いが、王都で世話になったカラーズの仲間たちの顔を思い出すと、中途半端で冒険者をやる事への申し訳なさが先立ってしまう。
自分のスキルでたまたま魔物を倒せはしたが、相性が悪くて倒せない魔物も絶対存在するはずだ。
アースは自分が死ぬ事よりも仲間が目の前で死ぬ事の方が恐ろしかった。
独り取り残される、あの感情を思い出すのさえも怖かった。
「俺の様な臆病者は冒険者には向いてない…」
アースは自分に言い聞かせる様に拳を握る。
「すまんな、アース!」
「おう!よく来たな!」
冒険者協会に着いた途端、暑苦しいオッサン二人に出迎えられた。
「揃ったようですので、こちらの会議室へどうぞ!」
スパーナの声で皆がぞろぞろと案内された部屋へと入っていった。
見慣れない女性が二人視界の端に入ったが、アースは特に気にせず席に着いた。
「あー、それじゃあ揃ったみたいだから、始めるか!」
「忙しい中、ご足労頂きありがとうございます。では、軽く自己紹介をお願いします」
自己紹介?アースは何だか、自分が場違いな所へ来てしまった様な感覚に襲われた。
「知ってるとは思うが、俺はこの協会の会長をしているハンマーだ!」
「私は副会長のスパーナです」
流れからサローインが自己紹介をする。
「クラン名ビービーキューのリーダー、サローインだ。こいつは副リーダーのハラミーだ。宜しく頼むぜ!」
にぃっ!と笑顔をアースの方へ向けてサムズアップするオッサン。
「私はクラン名フラワーベッド。そのリーダーのバイオレット」
「同じくフラワーベッドの副リーダーをしているポピーです」
ポピーはアースと目が合うとペコリと頭を下げた。
バイオレットは胸の前で腕を組んでしかめっ面だ。
そうしていると全員の視線が自分の方に向いているのを感じ、アースは口を開いた。
「アースです。整体院をやって……明日からやります」
どうにも変な自己紹介だな、とアースは自分でも可笑しくなった。
「がはは、何だアース!明日からもう開店か?おめでとうよ!」
「それはおめでとうございます。私も仕事が終わってから行かせて貰いますね!」
サローインとスパーナから祝いの言葉を貰う。
アースは嬉しかったが、そう言えば営業時間は決めて無かったな?と違う事を考えていた。
「その話しは今関係あるのかしら?」
バイオレットの言葉で場が鎮まる。
その口調もあるのだが、ずっと彼女は機嫌が悪いみたいだった。
「リ、リーダー!その言い方はどうかと……。アースさんは何も悪くないので」
「そうだぜバイオレット?お前さんの望みで、皆ここに集まっているんだからよ!」
「悪かったわよ。早く話しを進めてちょうだい」
何とも言えない雰囲気だった。
アースにはおおよその内容は予想が付いていたが、黙って聞いていた。
ハンマーがとりあえず取り仕切る形で話した内容は要約すると以下の三点。
一つ、アースが持つ45及び60階層の鍵をビービーキューが独占するのはルール違反じゃないか?
二つ、50及び55階層の階層主の情報を共有して、アースに討伐協力して欲しい。
三つ、そもそも60階層の階層主を倒した時アースは冒険者では無いから、アース個人で鍵を保有するのは間違っているんじゃないか?
「はぁ…」
アースは落胆を隠す事も無いまま鞄から、二つの鍵を取り出した。
「はい、これが45階層でこっちが60階層の鍵です。もう俺は保有権利を放棄しますので、冒険者協会で好きな様にして下さい」
「いや待てアース!それは駄目だ!」
腰を浮かせたハンマーが慌ててその鍵をアースへと押し返すが、四人の冒険者の目は興味の色で染まっていた。
「もう好きにすれば良いですよ。俺は冒険者をやるためにこの街へ戻って来た訳じゃないんですよ。そもそも俺が鍵を預かっていたのは、簡単に深層へ行ってしまえばレベルの足りない冒険者は簡単に死んでしまうんです。それが嫌だったから…それだけなんですよ。だから、そんなに死にたいならこんな鍵はあげますよ」
アースは一気にそう言い切ると椅子に深く座り直した。
「アースさん、冒険者協会としてはそれは出来兼ねます。前にも言いましたが、規則を一度でも違えてしまうと規則を作った意味が無くなってしまうのです。それをどうか考慮下さい…」
スパーナが椅子から立ち上がり、アースの傍まで来て深く深く頭を下げた。
「良いじゃない?くれるって言ってるんだから、貰えば!」
バイオレットのその言葉を聞いたが、アースはどうでも良いと思っていた。




