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20、繁盛店

2日後には45階層の討伐承認も無事に下りた。

掲示板に張り出された情報を見たほとんどのクランが我先に45階層へと向かう。

46階層以深の階層は未知であるが、それ故にどの冒険者にもチャンスがある。

鍵を持たないクランは上から潜らなければならず、それだけ早く準備する必要があった。


 「アースさんはビービーキューへ45階層の鍵を譲るらしいです」

 「そうか。やっぱりアイツは変わったヤツだな~」


冒険者協会の執務室では会長のハンマーとスパーナがそんな会話をしていた。


 「結局フラワーベッドの話しはどうなった?あれからアースへの接触はないのか?」

 「無いみたいです。ただ今回の階層主討伐については、フラワーベッドにもそれなりに恩恵はあると思います。彼女達は20階層の鍵を持っていますから、既に動いているはずです」

 「後はアース自身の動きだけが問題だな…」

 「そう言えば、『宵闇の梟(ふくろう)亭』のポーラさんがアースさんにお熱らしいです。弟さんの形見を取って戻って来たのが、ポーラさんの琴線に触れたみたいですね」

 「ポーラが?それは違う意味で大変だなぁ」


ハンマーが読んでいた書類をテーブルに置き、何処ともなく遠い目をしていた。

ポーラが冒険者たちの間で人気があるのは公然の事実だった。

この街で迷宮が見付かってから一年くらいは、ポーラも冒険者として活動していた。


 「その辺は考えても仕方がねえな」

 「はい」


そもそもの話し、アース自身にその自覚が無ければ協会で色々画策したところで、何の意味も無いのだから。


 「フラワーベッドもそうですが、ビービーキューのメンバーでもアースさんを狙っている女性は居るみたいですので、彼はモテモテですね」

 「この世界は強者がモテる世界だからな。特に珍しくもねえよ!」

 「私でもイケるでしょうか?」

 「はっ?やめとけ?ポーラが年上とは言っても、たった二歳だが…お前は…ぐはっ!!!」


激しい音をたてながらハンマーが部屋の隅へと転がっていく。


 「冗談を真面目に返さないで下さい!…というより、年齢ではなく見た目の話しですよ?会長!」

 「……ああ、お前は…美人だ、よ……」


それだけ言うとハンマーは白目をむいて意識を失った。


 「もう会長ったら。そんなに強く打(ぶ)ってないでしょうに…大袈裟です!」




スパーナがエルボー一発で冒険者協会会長を打ちのめしている時、ポーラの店では…。


 「ポーラ、お前あのアースって奴と付き合っているってのは本当なのか?」


ポーラのファンが店に来ては噂の真実を問いただしていた。


 「付き合っている、ってのとは違うかもね?アースがあたしの事をどう思っているかは分からないからねぇ」

  

曖昧な感じでのらりくらりと躱しながらエールや料理を運んでいる。

そんなポーラの姿に余計冒険者たちはモヤモヤし、嫉妬に似た感情を爆発させるのだった。


 「いや、おめぇさんそれはあれか?奴隷みたいなもんか?そいつはちょっと聞き捨てならねえぞ!アースって野郎、ぶっ飛ばしてやる!!」

 「止めときなって!アンタなんか、一発でノされて終わりさ!アースはさ、あたしの願いを聞いてくれたたった一人の冒険者なのさ!」


右手にエールを持ったまま目をキラキラさせてポーラが語る。

女の冒険者たちはそんなポーラを羨ましく思っていた。

その一頭のおかげで遅々として迷宮の探索は進まず、名のある冒険者が次々と命を散らす。そんな鬱屈とした日々の中で、自分の願いの為に階層主を倒してくれた一人の冒険者、アース。


 「そりゃ、ポーラさんにしたら神だと言っても過言じゃないだろうね」


一人の女冒険者がエールを飲みながら呟いた。

その言葉に周りの仲間らしき者も小さく頷いていた。


 「え、そんなに強いのか?アースって奴は…」

 「あれだけ誰も倒せなかった45階の階層主をワンパンだよ?強いに決まってるじゃないか!」

 「ま、まあそう言われれば……そうだな」


飲んで気が大きくなっていたのだろう、その冒険者の男は肩を落として椅子にへたり込む。

『階層主を倒した!』と言うところは承認されているし、早いクランは既に奥の階層へと探索の深度を深めているはずだった。

その恩恵は計り知れない、それは冒険者だけの話しだけに留まらない。


階層主は一度しか倒すチャンスは訪れないが、階層毎の魔物は二日ほどで復活するからだ。

魔物は色々な素材を我々に与えてくれるので強い冒険者は称えられる。


 「まあいいじゃねえか。ポーラに好きな奴が出来たんだ。皆で祝ってやろうぜ!」

 「そうだな、おいもう一杯くれ!!」


ポーラは忙しなく給仕をしているが、ずっと笑顔だった。

 

 「で、アースとはもうヤったのか?」

 「!!???」


誰かのその言葉に周りは急に静かになる。


 「ヤった?何を言ってるんだい。あたしは、もうア(・)ー(・)ス(・)の(・)モ(・)ノ(・)なのさ!あたしの全ては、アースの気分ひとつでどうにでもなっちまうのさ!……でもね、アースはすごく優しいんだよ?」


 「そうかい。そりゃ、ご馳走さま!!」


今日もポーラの店は大繁盛だ。



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