19、階層の鍵
時間は少し遡り、アースがビービーキューのクランハウスへ向かい始めた頃。
「ユリシス、どうだアースから救援信号は来たか?」
「いえ…。でもリーダー、多分来ないと思いますよ?兄貴は強いですから」
確かに、とサローインも考えてはいるのだが、いかんせん単独討伐だ。
何があるかは最後まで分からない。
サローインにとっても45階層は因縁の階層だった。
通常、階層の数字は自分のジョブレベルと同等以下であれば探索は比較的容易になる。
階層主は概ね、その階層の1.5倍くらいのジョブレベルを要すると考えられている。
つまり、迷宮45階層のアダマンタイマイはグールナットに存在するほとんどの冒険者に、舐められていたと考えられる。
しかし異常なほどの硬さと耐久力、どんな魔法攻撃も無効化するスキル。
圧倒的な強さを持つ最上級冒険者ならまだしも、中途半端なジョブレベルしか持たない者が何人集まったとしても勝てるモノではなかったのだ。
もっと早くその思考に辿り着いていれば、何人もの冒険者が命を落とす事は無かったはずだ。
クランリーダーとしてのサローインは未だにそう思っている。
基本的にクランリーダーはそのクランで一番強い者が選別される。
稀に違うクランもあるが、必然的にそうなるからこそのリーダーなのだ。
(アースは俺より強い。しかしいくら強くても、単独では限界がある!)
サローインは拳を握りしめ、アースからの連絡を待った。
「あれ、皆揃ってどうしたの?」
クランハウスに現れたアースは、普段通りだった。
「おい、アース!今頃どうしたんだ?迷宮には潜らなかったのか?」
「いや?もう潜って来たけど?」
クランハウスの中は物音一つない静寂だった。
それほどアースの言葉は衝撃的だったのだ。
協会長のハンマーから聞かされていたという事もあるが、アースは冒険者らしくない人間だった。
「兄貴!こんな時に訳の分からない冗談止めてくれよ!」
「ユリシス…。なんで俺が冗談言う必要があるんだよ?」
ユリシスの言葉にアースは少し不機嫌になった。
「ちょっと待ってくれ。45階層の主は倒しちまったって事か?」
「ああそうだ。ビービーキューが今回は協力してくれてるって協会長に聞いたから、一応お礼を言っとこうと思ってね。ここまで来たんだよ」
「マジか……」
サローインはまだ信じられなかった。
本当か、と首を捻ってはブツブツ独り言を言っている。
「あの、アースさん?」
「なんですかハラミーさん」
「主を倒したとすると、46階層への鍵を持っておられるんですか?」
「いや、すぐには承認されないので今は持って無いですよ」
ハラミーも信じ切れていないのだろう。
困惑した表情で良い言葉を探せずにいた。
「ああそれから、承認が下りたら今回の鍵はビービーキューへあげるよ。と言うより、ビービーキューで管理して貰いたいと思っている。サローイン、どうだろう?」
「兄貴!俺を連れて行ってくれ!どちらにしてもパーティーを組まなければならないだろ?」
アースの言葉にいち早く反応したのはユリシスだった。
そう来るだろうな、とアースも思っていたので了承しようと口を開きかけた。
「いや、それは駄目だ!」
「……なんでだよ!リーダー!」
サローインがユリシスの言葉を無視してアースの元へ歩いてきた。
「アース、ユリシスは確かに新進気鋭の有望なヤツだ。しかしまだ若い。今回だけは経験を優先してパーティーを組むことにする」
「そうか…。俺は部外者だからな、クランリーダーがそう言うならそれが一番だろう」
「兄貴……?」
「ユリシス、これからいくらでも好きなだけ潜れるさ。冒険者にとって、『未知』というのが一番の魔物なんだよ。お前はこれからもっと経験して、未来に繋いでいく使命があるからな!」
アースはユリシスの頭を軽く撫でてやった。
目に浮かんだ涙を自分の袖でユリシスが拭いている。
「次は絶対同じパーティーを組んでくれよ?約束だよ!」
「そうだな、それも良いな」
しかし、と未だサローインはアースが単独で討伐した事に首を捻っていた。




