15、嫌な予感
執務室を出て受付けのある所まで降りてくると、人溜まりが出来ていた。
アースは特に興味も引かれなかったので、そのまま外へ出ようと出口へ向かって歩く。
「あのう……。ひょっとして、ユリシスの知り合いの人ですか?」
「いえ、知らない名前ですね」
何か面倒事の匂いがしたので、アースは咄嗟にそう答えた。
一瞬驚いた顔をしたが、その女性はふっ!と笑った。
「大丈夫ですよ、ここで騒ぎ立てる様な事はしませんから。私はビービーキューとは仲が良いので……。もし良ければ別の所へ行きませんか?」
「…知っていて近付いたのか。用件は何だ?」
さっきの話しが影響しているのか、少しイラついていた。
初対面の人間には敬語を使う様にしていたアースだが、少し荒い言葉で返事をする。
「気分を害したのなら謝ります。ここは人が多いので…。とりあえず私に付いて来て下さい。決して悪い様にはしませんから」
「はぁ…」
やれやれという様にアースは肩を窄めてお手上げポーズをした。
軽く会釈をしてその女性は扉を開けて外へ出て行く。
アースはその後を素直に付いて行った。
「あそこへ座りましょうか」
「分かった」
二人は冒険者協会から暫く歩き、程なくして一軒の店に入った。
「いらっしゃい!あれ、こないだの?また来てくれたんだね!」
見た事がある女性、ポーラが注文を取りに来ていた。
先日、サローインと来た店だった。
「ああ色々と美味かったからな。…エールと適当に食える物を」
「私にもエールを。あとホロホロ鳥の煮込みを」
「あいよ!ちょっと待ってな!」
ポーラの声が遠ざかって行く。
アースは外套を脱いで横の椅子へ置いた。
「無理やり連れて来てしまいましたが、話しを聞いて貰えてありがとうございます!改めて私の名前はポピーです。クラン名『フラワーベッド』に所属しています」
「知ってるとは思うが…アースだ」
アースは不機嫌を隠すことも無くそう答えた。
「本当に申し訳なく思っています。でも、私達もかなり焦っていて……。このままだとクランの存続も危うくて…。どうか話しだけでも聞いて下さい!」
ポピーはテーブルに顔を付けて頭を下げた。
「目立つから止めてくれ。食事をするついでだよ」
「はい、ありがとうございます!」
話しを聞いて貰えるのがそんなに嬉しいのか、ポピーは満面の笑みだ。
「先に言っておくが、俺は迷宮冒険者をやりたい訳ではないから」
テーブルに注文したエールと料理が並んだのを見て、アースが切り出した。
「はい…ユリシスからそう聞いています」
「ちなみにユリシスとはどういった関係なんだ?」
「昔、パーティーを組んでいました」
「パーティー?クランが違うのに?」
単純に考えれば違うクランでパーティーを組むメリットも無くはない。
ただしそれ以上にデメリットの方が大きいので、皆クランを跨いでパーティーを組まない。
アースの疑問はごく自然なモノだった。
「私たちのクランメンバーはリーダー含めて数名は元ビービーキューです。ユリシスとはその時の仲間なので知っているんです」
「なるほど」
「とある迷宮探索の時に連絡漏れがあったんですが、その事が原因で今私が居るクランリーダーの妹が死にかけました。その時サローインさんは漏れ落ちがあった事は認め、情報伝達を怠ったメンバーをちゃんと処断したんですが…。そのやり方が気に入らなかったリーダーが、数名のメンバーと共にビービーキューのクランから離脱したんです」
「へぇ~…」
話しをまとめると、ビービーキューと仲が悪いのはリーダーだけのようだ。
まあ良くある話だなと思いながら、アースは食べ物を口に運んでいた。
「私達のクランは理由があって女性しか居ないクランなんです。お判りかも知れませんが、そのビービーキューの時の事件が尾を引いている感じです。リーダーはジョブレベル80のそれなりに名の知れた冒険者なのですが……他のメンバーは決して強いとは言えません」
アースはいっその事この街を出てしまおうか?とも思ったが、すでに建物は発注してしまっているので逃げる事は出来なかった。
パインさんにも迷惑が掛かるし、チェリーが悲しむのは流石に胸が痛む。
「はぁ……ポピーさん、俺は男だけど?」
「それは……もちろん分かっています」
「クランリーダーの了解は得ているのかい?」
「リーダーは……いえ。私の独断です!」
「だろうね」
アースの予感は嫌な方に当たってしまった。
彼女の欲しいモノは『鍵』だ。
アースが所有している60階層直通の鍵だけが欲しくて、ポピーは独断で声を掛けてきたのだ。
「アースさんの事をユリシスから聞いたのは偶然でした。自分の兄がこの街へ帰って来たってはしゃいでいたので、詳細を聞いたんです。その内容がアースさんの事とほぼ一致したので……自分の判断で貴方に接触しました」
どれだけ統制していても、人の口に戸は建てられない。
必ず何処かからか情報は漏れ出てしまうものだ。
その事をアースはよく知っている。




