14、冒険者として
「60階層についての階層主の討伐が改めて確認されました。これにより60階層の優先捜索権利はアースさんとなりますので、当協会の冒険者カードに登録をさせて頂きます。宜しいですか?」
3日ほど経ったある日、アースの元に冒険者協会から呼び出しがあった。
前に通された執務室でスパーナがそう言ってアースの冒険者カードの提示を促した。
特に断る理由も無いので、促されるままに以前貰った協会の冒険者カードをテーブルに置いた。
「…はい結構です。これで現状60階層へと入れる『鍵』を持っているのは、アースさんのみとなります」
「えっ?俺だけ、ってどういう事なんですか?」
あの時にはユリシスもハーツも一緒にいた筈だ。
「お前さんの疑問も尤もだがよ。あの二人はパーティーじゃねえんだよ、分かるかい?」
「こればかりは冒険者協会…と言うより、迷宮へ入る冒険者としての『鉄則』になりますので、一度例外を作ってしまうと後々面倒になりますので、そこはご承知おき下さい」
(分かっている)
アースはもちろんその鉄則は知っていた。
何年も冒険者として迷宮に潜っていたのだ。
知らないはずが無い。
「やはりそうなりますか……まあ仕方ないですよね。そこらへんはサローインにでも相談してみる事にしますよ」
「アース、お前はクランを作る気はないのか?」
「無いですね、今は。メリットも無いですし、マッサージ屋をもう建てているので」
アースは興味無さそうに言いながら、冒険者カードを鞄に仕舞う。
「なんだ、もう建てているのか?素早いな」
「それで?階層チェンジの件はどうなりましたか?」
自分の話しをされるのはあまり好まないので、アースは話題を変える。
「はい、アースさんの話し通りの内容がほぼ確認されています。ビービーキューのクランメンバーとの個別面談や他の冒険者からの聞き取りを併せても、階層チェンジが起きた事実は間違いないと判断しています」
「まあ今回は突発的な発生だとは思うが、それを踏まえても死人が一人も確認されていない。実際に居ないと思っているから、それは幸運だった」
スパーナの報告を聞きアースは「なるほど」と独り言ちる。
「噂が噂を呼んでる状態だ。すでに多くのクランや高レベルパーティーから、協会の方へ60階層の鍵を持つ奴の情報を開示しろ、と毎日毎日五月蠅い!困ったもんだ」
「私達としても安易に公開するつもりもありませんが、冒険者協会本部からの要請があれば応える義務がありますので……その際はアースさんへ一応お伝えしますが」
それも仕方ないだろうと、アースは心の中でため息を吐いた。
迷宮の資源はもちろん冒険者たちの糧であり探求心とその命を懸けた産物なので、おいそれと他の者に侵されて良いモノでは無い。
一方、一般の民や商人たちにとっても生活の必要品となるので、広く情報は回して効率よく探索が出来る様にする事も大切である。
「籍だけでもビービーキューのクランにお世話になると思います。クラン探索で一度潜っておけば、俺が居なくても後はサローインが何とかしてくれるでしょう?」
「まあそれはそうだが……。アースはそれで良いのか?」
アースは首を横に振る。
「良いも何も、冒険者やるために戻って来たわけではないので。それは変わりませんよ」
「そうか…。それも仕方ねえか……」
アースは何となくだが、ハンマーとスパーナが考えている事は分かっていた。
分かっていたが、あえて藪を突く必要はないと思っている。
「話しは変わりますが、アースさん?そのお店はいつ頃開店される予定ですか?」
「さあ?建物が完成してみないと、何とも言えないですね」
「もし良ければそれまででも、冒険者をやってみられては如何ですか?」
スパーナの言葉にアースは何とも言えない気持ちになった。
「45階層ですか?」
「ええ、ご理解が早くて助かります。階層主だけが討伐されていないのです」
「そんなに強い魔物なんですか?」
45階層と言えど、数十とクランがあれば討伐出来る人間が一人くらいは存在するだろう。
実際にビービーキューのサローインでも60階層は普通に行けそうだったし。
「特殊能力なんです」
アースの考えを見透かしたようにスパーナが主について話し始めた。
「アダマンタイマイ。体がアダマンタイトで覆われた非常に硬い魔物です。魔法耐性が異常に高く、凍らせても石や土魔法で固めても殺せず、動きを止める事しか出来ません。これまでに3パーティーが挑戦して、12名の冒険者が命を落としています…」
「現存する武器でも、聖武具か竜装武具程度で無いと太刀打ち出来ねえな。わざわざその討伐の為に他所から冒険者を要請するとなると、べらぼうな金銭を要求されるだろうが…そんな金はこの協会にはないんでな」
(世の中とは儘ならないものだな…)
冒険者を諦めた途端にこんな事になるとは、アースは予想だにしなかった。




