12、ハイエナクラン
「誰だ、お前は?」
「アース!」
群衆の間から出てきたアースを、騒いでいたその男は警戒している。
サローインは驚いてはいるがどこか嬉しそうだ。
「剣さえ元に戻れば良いんだろう?」
アースは折れた方の剣先を拾い、その男の手に持っている手元に向ける。
「な、何をするつもりだ!」
「ジッとしてろ!」
折れた部分を重ねて手のひらで握る。
暫くしてアースが指を広げた時には、剣は元通りになっていた。
「なんだと!」
言いながらその男は、何度も何度も折れていた部分を穴が開くほど見つめている。
「もう良いだろ?」
アースはサローインとツラミーを連れてその場を立ち去ろうとした。
「ちょっと待て!これはどういう事だ?」
「どういう事?見た通りだが?」
「これは、本当に元通りになっているのか?」
「だから、見た通りだ」
アースがため息を吐きながら肩を竦める。
サローインは笑っている。
「次に買う時には、もう少しマシな剣を選ぶことだな」
アースが二人の後ろを手で押している。
体を震わせながら立ち竦んでいる男を放って、三人は歩き始めた。
「待てと言ってる!」
はぁ~、と周りに聞こえる様にわざと大きなため息を吐いたアースが振り向く。
サローインもさすがにしつこいと思ったのか、スッとアースの前へ出た。
「これ以上何かあるんなら、後でクランハウスへ来るがいい!」
それだけ言って今度は足早にそこから離れていった。
「おいアース!」
「ん、なんです?」
「あれはどうやったんだ?」
「あれ?」
「剣だよ、剣!」
ああ、あれね!とアースは辺りをキョロキョロ見渡して
「ここではあれですから、何処か人の少ない所へ行きませんか?」
「おお、じゃあ良い店があるぜ!」
そう言ったサローインに、ツラミーとアースは付いて行った。
「ここだ!」
5分も歩くと水路沿いの閑静な場所に建っている一軒の店の前にいた。
「邪魔するぜ!」
「あら珍しい!いらっしゃい!」
店に入ると明るい女性の声がした。
見た感じは妙齢の雰囲気だが?
「ああ、若く見えるがあいつは俺よりも年喰ってるぜ?」
「あらサローイン?来て早々、死にたいのかしら?」
いつの間に後ろに来ていたのか分からないが、サローインは頭を後ろからがっしりと掴まれており、心なしかギリギリと音がしている様な…?
「あ、いや……ほら、軽いジョークのつもりじゃねえか?な?」
「次は無いよ~…。って事で、あら?新顔さん?初めまして、あたしはポーラ。よろしくね!」
「俺の名前はアースです。よろしく、ポーラさん」
アースは軽く会釈しながら自分の事を伝えた。
「アースかい、良い名だね!まあ適当なところに座っておくれ!」
「はい」
三人は少し奥まったテーブル席に腰を下ろした。
「しかし、災難だったなツラミーよ?」
「はい。いいえ、特には…。でも、あの剣は盗品だと思います」
「まあ盗品……に近いだろうさ。あいつは最近噂のクランメンバーのはずだ。『ハイエナクラン』と呼ばれているクランのな」
「ハイエナクラン?」
「ああ。たまにいるんだよ。難易度を無視した階層にチャレンジする冒険者がな。あいつらはその冒険者に当たりを付けては、死んだ冒険者の装備や道具なんかを持ってちまうクソ野郎さ」
アースにも経験はあった。
階層が深くなれば魔物も強くなる。
ボスチャレンジの後はキチンと装備などを整えてから下へ降りるのが常道なのだが、勢いで行ってします冒険者も少なくない。
そういった冒険者が全滅、あるいはそれに近い状態になった時には自分たちの命を助けてくれた冒険者にはお礼と称して何を求められても拒めない、と言う『暗黙のルール』があった。
王都に居た時には助ける方(と言っても助けていたのはアース以外のメンバーだが)だったので、助けられた冒険者の怯えたあの目を未だに忘れる事は出来なかった。
クランリーダーだったブラックは一人当たり金貨一枚とポーション1つ、いつもそれが助けた冒険者たちへ求める対価だった。
命の対価としては破格のモノだったと思う。
それ故にブラックのクラン『カラーズ』は短い期間で人気が出たが、それを面白く思わないクランの方が多かったのも覚えている。
そんなハイエナクランは、王都にはたくさんあったのだ。
「おい、とりあえず乾杯でもしようぜ!」
アースがサローインの声で現実に戻って来た時には、目の前にエールのジョッキが置かれていた。
時間指定忘れてました。すいません。




