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私と翠玉とガーネットが念話で話している間にも、国王陛下とアメシスト公爵の話は続いている。
「…私は確かに、ガーネット殿下が王太子と決定されることには反対の立場です。ですが、宝石竜様のことは敬っております。宝石竜様を他国へ、しかもパイルト共和国へ渡すようなことはしません」
と、アメシスト公爵が言った。
「そなたは以前、黄玉様と翠玉様、ガーネット、セラフィーヌ・サファイア公爵令嬢、ホフミール・トパーズ公爵令息、ニールス・エメラルド公爵令息を招いたお茶会の最中に、アスター様が最も敬うべき宝石竜様であり、アスター様には唯一赤い色の鱗が無かったため、赤い色を持つ黄玉様は敬うべきではない、と発言したと聞いておる。それはつまり、黄玉様のことは宝石竜様つまり我が国の聖獣であるとは認めていない、ということか?」
と、陛下が尋ねられた。
「当時はそう考えておりまして、その発言も事実です。ですが、最近の魔石に関して成果を出し、国へ貢献して下さっている、という話を聞き、考えは変わり、あのときは何と不敬な発言をしてしまったのか、と悔いております。この場で黄玉様には謝罪致します。今は、黄玉様も翠玉様も敬うべき宝石竜様であり、この国の聖獣だと考えております」
と、アメシスト公爵は言った。
その後もいくつか陛下が質問し、それらにアメシスト公爵が答えた後、陛下は一度頷かれて、
「わかった。いくつもの質問に答えてくれたこと、感謝する。下がって良い」
と仰った。
アメシスト公爵は、立ち上がって一礼し、退室した。
アメシスト公爵が退室すると、すぐに給仕によりテーブルの上に新しいお茶が用意された。
給仕が全員退室し、私達だけになってから、陛下は一息ついて、
「黄玉様、翠玉様、ガーネット。長時間、お時間をとらせてしまって申し訳ございません」
と仰った。
「別に良いよ。僕達も聞いたほうが良いって考えたんでしょ」
と、翠玉が言った。
「はい。特に、アメシスト公爵領とパイルト共和国とで人の行き来が増えている、という話は聞いて頂きたかったのです。アメシスト公爵領とパイルト共和国は比較的距離が近いので、行き来が他の地域より多いのは不自然ではないのですが、近年、特に増えていることが気になっております。留学生が来たことにより、交流が活発になっているだけなのかもしれませんが、注意が必要と考えております」
と、陛下は仰った。
「アメシスト公爵がパイルト共和国と協力して何かしようと企んでいるのでしょうか?ですが、我がアステシラー王国とパイルト共和国は異なる国です。アメシスト公爵とパイルト共和国が組んで我が国の政治や、王族に何かすれば2国間で大きな問題になります」
と、ガーネットが言った。
「そうだな。アメシスト公爵とパイルト共和国が我が国の政治や王族に対して何か企んでいるのであれば、そうなる。だが、宝石竜様は、政治とは関わりが無い。我が国では一番高い地位におられるが、政治と深く関わっているわけではない。とはいえ、我が国の聖獣である宝石竜様を害する者からお守りする、という決まりがある。もし、アメシスト公爵とパイルト共和国が組んで宝石竜様に何かしようと企んでいるなら、この決まりに反することになり、やはり大きな問題となる」
と、陛下は仰ってから、私達の方に向き直って、
「明日から学校が始まる予定ですが、黄玉様、翠玉様、ガーネットには明日は学校を休んで頂きたく存じます。夏の長期休暇中は学校も寮も大掃除がおこなわれるので、皆、家具などを家に持ち帰り、学校が始まる明日は家具を運ぶ者や御者など、多くの者が出入りします。そのため、安全のために、学校には行かず、城内でお過ごし頂きたく存じます」
と仰った。
「わかりました」
「わかったよ。城の中で過ごす」
「わかりました」
と、私達はそれぞれ答えた。
「2日後からは空間魔法で通って下さい。学校にも念の為、見えないところに護衛を配置しておりますが、どうかお気をつけてお過ごし下さい」
と、陛下が仰ったので、私達は頷いた。
話し合いが済んだので、私達は陛下に挨拶して退室し、護衛と共にガーネットの部屋に戻った。
帰りはアメシスト公爵に会うこともなく、無事に戻ってこられた。
「疲れた」
と、部屋に戻ってきた途端、翠玉がソファに倒れ込んだ。
私も椅子に座ってから、
「確かに疲れた。ガーネットはああいう話に参加したことがもう何度もあるんだよね。尊敬するよ」
と言うと、
「尊敬されるほどのことではないが…。まあ、疲れるのは確かだ」
と、ガーネットは苦笑しながら椅子に座った。
ソファに寝転がったままの翠玉が、
「アメシスト公爵とパイルト共和国が何か企んでいる可能性か…。面倒だし嫌だけど、警戒しないといけないね」
と言った。
「ああ。だが、アメシスト公爵とパイルト共和国が協力して何かしたとして、アメシスト公爵が得られる物は何かあるのか?我が国では貴族も含め、皆が宝石竜を敬い、大切にしている。そんな存在へ何かすれば国内から批判されるだけでなく、我が国と同じように宝石竜を信仰している国からも批判されることになるだろう」
と、ガーネットが言った。
「そういう貴族を出してしまったアステシラー王国が他の国から批判されるようにするためとか?」
と、翠玉が言った。
「アメシスト公爵自身が所属する国の評価を下げてどうするんだ」
と、ガーネットが言った。
「う〜ん。他には、何かしらの手段で宝石竜に対する企みの責任をガーネットになすりつけて、その企みの証拠をアメシスト公爵が示して自分の地位を上げようとしているとか?」
と、私は言った。
「だが…。そのような方法、俺は思い付かないな」
「私も方法まではわからないけど、アメシスト公爵は常々ガーネットを批判しているし、さっきも“ガーネット殿下が王太子と決定されることには反対の立場です”、って言っていたし。赤い色を嫌っているし、魔石の成果や国への貢献を見て、私に対する考えが変わったって言っていたけど、何処まで本当かわからないし」
「まあ、そうだな」
「それに、アメシスト公爵家の次男が魔導具と魔石の研究機関で、魔物の力を抑える魔導具を作ったことも気になる」
と、私が言うと、
「そういえば、そのような物を鑑定してほしい、とエミルさんがファセリア鑑定師のところに持ってきて、警戒してほしい、と黄玉に言っていた、と聞いたな。確かにそれも気になる」
と、ガーネットが言った。
「魔物だけの力を抑える魔導具だから、国内の何処かに設置して国を守るためかもしれないけど、僕達も魔物だからね。アメシスト公爵家の次男ってだけで疑うのもどうかと思っていたけど、今回、姉さんが誘拐されたし、研究機関も怪しくなってきたね。まあ、前から怪しかったけど」
と、翠玉が言った。
「とりあえず、研究機関の方で信用できそうなのはエミルさんとその協力者だけ、という感じだね。次にエミルさんに会う機会があったら、研究機関の内部はどういう感じなのか、話を聞いてみるよ」
と、私は言った。




