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「レムリア先生といい、ミランといい、爵位を上げたがらないね。そんなに面倒なことが多いの?」
と、私は尋ねた。
「そうですね。領地を賜ったらその面倒を見ないといけなくなりますし、その分、仕事も増えます。他の貴族から妬まれることもありますし、何より、また宝石竜様に近づいた者達が評価されているのは何か企んでいるのではないか、なんてありもしないことを噂されますから」
と、ミランは言った。
「噂は気にしなくて良いのに。自分達に何かあったら何とかするし、ミラン達に何かあったときも何とかするから。実力で」
と、翠玉が言った。
「それはそれで困るような…」
と、ガーネットが言った。
昼食の時間になったので、食事をしていると、ガーネットが、
「そうだ。父上が午後、黄玉と翠玉に会いたいと仰っておられた」
と言った。
「わかった。何処に行けば良い?」
「テオに案内してもらう。俺も一緒に行くし、護衛もつくが、城内でも気をつけてくれ」
と言われたので、私と翠玉は頷いた。
昼食後、少し休んでからテオの案内で城内を移動した。
すると、
「ごきげんよう!黄玉様!翠玉様!ガーネット殿下」
と、声を掛けられた。
声から、この人だろうな、と思いながら振り向くと、予想通りアメシスト公爵がいた。
「ごきげんよう」
「…また出た」
「ごきげんよう」
と、私と翠玉とガーネットは言った。
「国王陛下より、魔導具と魔石の研究機関で起きたことは少々お聞きしております。黄玉様、ご無事で何より」
と、アメシスト公爵が言った。
「そのことをご存知なのは、研究機関にご子息が在籍なさっているからですか?」
と、私は尋ねた。
「その通りです。愚息はそれなりの立場におりますし、我が家は研究機関に様々な支援をおこなっておりますので、知り得た次第です」
「そうでしたか。私達は国王陛下に呼ばれておりますので、そろそろ失礼します」
と、私が言うと、
「私も国王陛下に呼ばれておりましてな。せっかくですからご一緒させて下さい」
と言って、アメシスト公爵はついてきた。
『呼ばれてるって本当かな?』
と、翠玉が念話で私とガーネットにだけ聞こえるように尋ねてきた。
『本当だろう。アメシスト公爵にも案内係の者がついているからな。呼ばれていない者にはつかない』
と、ガーネットが念話で言った。
『…今回の長期休暇、旅行は楽しかったけど、その後が面倒なことばかりで、学校が早く始まらないかな、と思うようになってきた』
と、私が念話で言うと、
『今日は30日だ。明日には学校が始まるから、あと少しだ』
と、ガーネットに言われた。
念話で話しているうちに、国王陛下とお会いする部屋の前に着いた。
アメシスト公爵は別室に案内され、私と翠玉とガーネットだけで部屋の中に入った。
中には既に陛下がおられた。
「ごきげんよう、黄玉様、翠玉様、ガーネット。ご足労頂き、ありがとうございます。本日お話ししたいのは、町の中で黄玉様に魔石が投げつけられて転移させられたことについてです」
と、陛下は仰った。
私達も席に就いてから陛下は、
「黄玉様にお聞きしたいのですが、魔導具と魔石の研究機関に転移させられた後、自ら空間魔法をお使いにならなかったのは何故でしょうか?」
と、尋ねられた。
「空間魔法を阻害する魔導具が設置されている可能性を考え、使いませんでした。魔石であの部屋に転移させられたので、何も無い可能性も考えましたが、私達の転移後に起動された可能性や、魔物の空間魔法のみ阻害する魔導具が作られている可能性などを考え、使いませんでした」
「わかりました。投げつけられた魔石については、クリアシールドの鑑定結果にも少し情報がありましたが、製作者や投げつけた者については何も情報がありませんでした。何か、魔石について他にわかることはございませんか?」
「作った者がわからない、ということは、魔力溜まりで自然にできた魔石の可能性があります。投げつけた者については、申し訳無いのですが、何もわかりません」
「そうですか。お話し頂き、ありがとうございました。次に、翠玉様から改めて黄玉様が転移させられた当日の行動についておうかがいさせて頂きたく存じます」
「わかったよ」
と、翠玉はその日の行動を全て話し、次にガーネットも同じように、その日の行動を話した。
私達と話し終えると、陛下は別室に居るアメシスト公爵を呼んだ。
アメシスト公爵が席に就いてから、陛下は、
「アメシスト公爵。そなたは魔導具と魔石の研究機関に様々な支援や寄付をおこなっている。また、そなたの次男は研究機関を束ねる立場にある。今回、黄玉様が魔石の空間魔法で強制的に転移させられ、誘拐されたことについて、そなたやそなたの家は関わりは無いのだな?」
と尋ねられた。
「ございません。愚息も、関わりなど無く、そのような事件が起きたことは部下からの報告で知り驚いた、と申しております」
「最近、アメシスト公爵領とパイルト共和国を行き来する者が増えている、という報告がある。これについて何か知っていることはあるか」
「ございません。我が領地はパイルト共和国に近く、冒険者ギルドも多くあります。その上、森や採掘場も多く、魔力溜まりもあり、人が集まりやすいことは陛下もご存知のことと思います。森へ採集に来る者、魔力溜まりへ向かう者、採掘に来る者、採集・採掘された物を鑑定する者、怪我をした者を治療する者、他、多くの者の出入りがございますし、冒険者は冒険者ギルドに登録されていればどの国へも出入りできます。パイルト共和国と行き来する者が多いのは、たまたまそうした冒険者が多いからではないでしょうか。最近は、黄玉様とレムリア・フローライト伯爵令嬢の魔石の研究の成果に触発されたのか、研究機関が普段より高値で魔石を買い取る、という情報を出し、冒険者の動きも活発になっているようですから、そうしたことも関係しているのでは、と考えております」
と、アメシスト公爵は陛下に説明した。
陛下とアメシスト公爵の話を聞きながら、私は翠玉とガーネットにだけ聞こえるように念話で、
『アメシスト公爵領に魔力溜まりがあるの?』
と尋ねた。
『ある。森の中と洞窟の中に1か所ずつ、今のところ見つかっている。だが、他にもある可能性がある、と言われている』
と、ガーネットが教えてくれた。
『じゃあ、アメシスト公爵家の人は自分の領内で魔石を手に入れられるんだね』
と、翠玉が言った。
『ああ。だから、アメシスト公爵がこの場に呼ばれ、父上から話を聞かれているんだ。魔導具と魔石の研究機関の者を使わずとも、冒険者にお金を払えば魔石を手に入れることができ、宝石竜を狙うパイルト共和国と領内の人の行き来が他よりも特に多い、というところで父上は、アメシスト公爵が何か企んでいるのでは、と疑っておられる』
と、ガーネットは念話で言った。




