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「…そういえば、ミラン殿は成人してからアスター魔法学校に入学され、レムリア・フローライト伯爵令嬢の助手をなさったことがあるという話を聞いたことがあります。だから、そのようにレムリア・フローライト伯爵令嬢の味方をなさるのですかな?」
と、研究機関の人が言った。
「俺は今、黄玉様の護衛として話しております。最優先しているのは黄玉様です」
と、ミランは反論した。
「ミラン殿は、侍従としてのスキルが足りず、解雇されたと聞いたが、フローライト家を頼り、黄玉様や翠玉様に取り入って今の地位を得たのでは?」
「そのようなことはございません」
「そういえば、王妃殿下の侍女の中に、毎回食器を落とすからと解雇された者がいたが、その者はその後すぐに黄玉様の侍女になったとか。最近、それまで良い評価が無かった者が宝石竜様にお仕えしたり仲良くなったりすることが多い。まさか、皆で宝石竜様を利用しようと企んでいるのではあるまいな?」
「そのようなことは無いと言っているでしょう。俺と王妃殿下の侍女は接点は全くありませんし、地位も違い過ぎます。年齢も違いますから、在学中に会うこともできませんよ」
と、ミランは研究機関の人達に反論している。
「やはり、宝石竜様は此方で保護すべきだと存じます」
「そうですね。今のままですと、どんな企みに利用されるかわかりません。黄玉様、少しの間だけでも我が研究機関においで下さい」
「レムリア・フローライト伯爵令嬢や王妃殿下の元侍女、そこのミラン殿が何を企んでいることか…」
と、研究機関の人達が勝手なことを言い出した。
私は、それを聞いていてだんだん腹が立ってきた。
すると、急に部屋の中で大きな音がして、雷が落ちた。
「ミラン、このクリアシールドの中から出ないで」
と私は言ってから、
「さっきから勝手なことばかり。私が信頼している相手を噂で貶めようとしないで。レムリア先生とも、侍女とも、ミランとも、それぞれ別の機会に、誰の紹介もなく、たまたま出会った。そして、私達は自分でそれぞれの人となりを見て、信頼している。何も知らずに勝手なことを言うな!」
と私が怒って水魔法を使うと、部屋の中に居た研究機関の人達が頭から大量の水を被った。
部屋の中が水浸しになると、氷も次々と出てきて、部屋の中が腰の高さくらいまで氷水で水没した。
私の周りでは、魔力が出ているのかバチバチと音がする。
「…ミラン、影響は受けてない?」
と私は尋ねた。
「はい。水も氷も此方にはきていません。…氷水で頭を冷やせってことですか?」
「いや、氷はついうっかり」
「ついうっかりでこれだけの氷を出せるのですか…。黄玉様の周りでなんかバチバチ言ってますけど、この状態で雷魔法は止めて下さい」
「気をつけるよ」
と私とミランが話していると、部屋の外から、
「姉さん!ミラン!」
と、翠玉の声がした。
「私もミランも大丈夫だよ。ただ、部屋の中が水没しているから、扉を開けるのはちょっと待って」
と言って、私は魔法で水と氷を消した。
水と氷を消したことを伝えると、すぐに扉が開いて、翠玉とガーネット、メル、テオ、ロルーナ、騎士達、国王陛下が入ってきた。
「姉さん、ミラン、怪我とか無い?」
と翠玉に尋ねられた。
「無いよ」
「俺もありません」
と私達が話している間に、部屋の中にいる研究機関の人達を騎士達が捕らえた。
「翠玉達はどうしてこの部屋に私達が居るってわかったの?」
と、私が尋ねると、
「この部屋の外に大きな雷が落ちた。それが黄玉の魔力だとわかったから、この部屋に来たんだ」
と、ガーネットが教えてくれた。
「雷、外にも落ちたんですね。部屋の中にも一度、落ちました。黄玉様が怒ったからだと思います」
と、ミランが言った。
「黄玉様。騎士達が捕らえた研究機関の者達は全員無事で、怪我などありません。皆、寒いとは言っておりますが」
と、テオが教えてくれた。
「頭から水をかけたし、その後部屋を氷だらけにしたからね。怪我が無かったのは良かったよ」
と、私は言った。
「ミランは寒くない?」
と、翠玉が尋ねた。
「はい。俺はずっと黄玉様と共にクリアシールドで守られていたので、水も氷も浴びてませんし、問題ありません」
と、ミランは答えた。
研究機関の人達が騎士達により連れて行かれてから国王陛下が私の前に来て、
「黄玉様、私達の警戒が足りず、また、我が国の魔導具と魔石の研究機関の者達が黄玉様に無礼なおこないをしたこと、我が国を代表して謝罪致します。申し訳ございませんでした」
と、陛下が跪いて仰った。
「謝罪は受け入れます。まずは、起きたことを説明します。この場で話しますか?」
「いえ、場所を変えましょう。此方へおいで下さい。ミラン、そなたからも話を聞かせてもらいたい。それと、黄玉様を守ってくれたこと、感謝する」
と、陛下は仰った。
陛下のお言葉に対して、ミランは一礼した。
私達は、陛下や護衛と共に城の中を移動した。
「ミラン、改めて、一緒に居て守ってくれてありがとう」
「僕からも。姉さんを守ってくれてありがとう」
と、私と翠玉は言った。
「いや、結局守られたのは俺の方ですが、お役に立てて良かったです」
と、ミランは言った。
案内された部屋の中に入り、何故出掛けたのかという理由から、一緒に行った人、起きたこと、研究機関の人達と話した内容、私がどんな魔法を使って、結果何が起きたかを全て説明した。
魔石により発動したクリアシールドを鑑定したときに書き写した鑑定結果も陛下に提出し、投げつけられた魔石により魔導具と魔石の研究機関の部屋に転移したのではないか、という私の予想も説明した。
全てお聞きになった陛下は、
「わかりました。詳しく話して頂き、鑑定結果まで提出して頂いてありがとうございます。黄玉様とミランから聞いた話を参考に、調べさせて頂きます」
と仰って、一礼なさった。
「夏の長期休暇が終わるまで、黄玉様の護衛を増やすことを考えております。黄玉様、よろしいでしょうか?」
と、陛下に尋ねられた。
「はい。ご迷惑をお掛けして申し訳ございません」
と、私が言うと、
「此方こそ、申し訳ございません。護衛は増やしますが、学校と王族が管理する森は、今まで通り、空間魔法であれば護衛を伴わず行き来して頂いて構いません。自室やガーネットの部屋でお過ごしになるときも、今まで通りで構いません。ただ、他の場所へお出掛けになるときは、いつもより多く護衛を伴って下さい」
と、陛下が仰ったので、私は頷いた。
「今回、黄玉様が狙われた理由が宝石竜様だからなのか、魔石が作れるからなのかが不明なので、フローライト伯爵家にもある程度事情を説明し、護衛を増やしますので、そちらはご安心下さい」
と、陛下が仰って、私は頷いた。
「何かお気づきのことや私にお話しがあるときは、いつでもおいで下さい。まずは、よくお休み下さい。詳しく報告して下さって、ありがとうございました」
と陛下が仰って、私達は退室してガーネットの部屋に戻った。




