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続かない物語たち  作者: 海荻あなご


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13/15

昔世話になっていた隠れ里の姫様が逃げてきて再会してなんやかんやな感じのファンタジー ②

1.ふたたび


 ここは港町イーステル。

 緑豊かな大陸フォーネイトの最東端にある港町で、隣の大陸ウィンタルとの交易船と漁船が停泊している。

 港町だけあって行き交う人も多く活気ある町のため、酒場や食事処はいつも賑やかだ。

 イーステルの数ある酒場の一つ、"酒場の大将"。見た目は漢しかし心は乙女の大将と、美人と専ら評判だが男前な性格の女将が夫婦で経営している。

 ここには黒髪でアシンメトリースタイルの左に長く伸びた襟足を流した個性的な髪型をした青年がいる。

 ペング・ウィルバートはここで働き始めて1年になる。

 1年前、理由も分からず当時の仕事を解雇された上に追い出され、当てもなく歩き続けてこの町に辿り着いた。その時に大将夫婦に出会ったのがきっかけだった。

 解雇のショックでボロボロだった自分を大将夫婦がウチの酒場で働かないかと誘ってくれたのだ。住む場所も用意してくれたりととてもお世話になっている。

 前職とは違う仕事に最初は大変だったが、慣れればどうってこともなく店の常連客や仕入れ商人とも仲良くなり始め楽しく思えるようになった。

 そして今日も無事に営業を終えて店の片付けを済ませたところだった。



「じゃあ大将、お先に」

「はぁい、お疲れさまぁ」

「気をつけて帰れよー」


 大将夫婦に挨拶をしてから店の外へ出ると、少し曇っているようで月は黒い雲に覆われていた。


「明日は雨…か?せっかくの休みなんだけどなぁ」


 明日は月に2回ある店の定休日で、特に予定は無いがなんとなく残念な気持ちに俺はなった。

 大将夫婦が用意してくれた住居は、町の端にある小屋だった。

 そこは元々大将が店を出す前に一人で暮らしていた小屋だそうで、結婚と同時に店を出すのをきっかけにその小屋を出たんだそうだ。それを残したままにしておりどうしようかと考えていたところに俺に会い、家賃は要らない代わりにウチで働いてくれとなったのだ。

 ちなみに大将夫婦は酒場の上に居住スペースがあり、そこに住んでいる。


「ペンちゃぁん!待ってぇ~」


 少し歩いたところで呼ばれて振り返ると、大将がピンクのエプロンを付けたまま走ってくるのが見えた。


「大将、どったの?」

「言い忘れたことがあってぇ…」

「ん?何かあったっけ?」


 大将は少しだけ息を切らせていて、落ち着くためか息を『ふぅー』と吐いた。


「あのねぇ、明日なんだけど急遽お店貸切になったのよぉ」

「あ、そうなの?」


 貸切なんて珍しいなと俺は思った。いつも賑わっている酒場だが、貸切になることは滅多に無ぇからな。


「それでねぇ、申し訳ないんだけど…ペンちゃん明日手伝ってくれないかしら?」

「そういうことね、いいよ」

「本当~?ありがとうねぇ、せっかくのお休みなのに…」

「いいよ、いいよ。どうせ洗濯物するとかくらいしか予定無ぇし」


 これが寂しい男の休日です、と心の内で呟いて虚しくなる。年頃の男が侍らせる女もおらず、所帯染みた休日を過ごすなど…もう慣れました。


「で、何時に行けばいい?」

「仕込みはワタシ達でやっちゃうから、ペンちゃんは開店時間くらいでいいわよ」


 貸切になるほどだから仕込みも大変だろうと俺は手伝うつもりでいたが、いつもの時間でもなく開店時間でいいなんて意外だった。


「いいの?じゃあゆっくり行くわ」

「うん、元はお休みの日なんだからそうして。じゃたごめんなさいね、引き止めちゃって。気をつけて帰ってね~おやすみ」

「おやすみ~」


 大将はニコニコ手を振りながら去って行く。


(どことなく大将がルンルンと弾んでるように見えるのは気のせいか?)


 大将夫婦はいつもラブラブなので、まあ大方夜の"お楽しみ"でも待っているんだろうと思う事にした。


「さてと…」


 大将を見送り俺もまた歩き始める。

 明日は急遽仕事になったとはいえ、開店時間に行けばいいとなればゆっくり過ごせる時間もあるしもしくは少し遅めに起きてもいいくらいだ。


(…あそこの小店ならまだ開いてるだろうな。久しぶりに酒でも買って帰るかな)


 普段なら次の日が休日の時にしか飲まないが、明日は少しゆっくりできるなら多少は飲んでもいいだろう。

 俺は遅くまで開いている小店に寄り道をすることに決める。

 そう決めたらなんとなく弾みたくなるような気持ちになっていた。


***


 夜も更けて暗くなった森の中を桃髪の少女はひたすら走っていた。

 身体中傷だらけのままずっと走り続けていたために体力も限界だった。満身創痍だった。

 それでも預かったペンダントをぎゅっと握り締め、上がらなくなっている足を無理やり動かす。


 頑張れ、頑張れ、私の身体。動け、動くんだ、私の足!


 疲れや傷の痛みで倒れ伏したくなるのを堪え、自らを奮い立たせる。

 もしかしたら追っ手がいるかもしれないと警戒して、街道には出ずに足場の悪い森の中をひたすら進んで来た。

 なんとしてでもアイツの所へ行かないと犠牲になった家族に顔向けできない、そう思って必死に進んで来たのだ。

 ようやく森を抜け開けた場所に出ると目的地であった町が見えた。夜も遅いため、明かりは少ない。


(あと…もう…少しだ…!!)


 そう思った時、鼻先にポツっと何かが落ちた。

 思わず足を止めて空を見上げると、夜空は星一つ見えず月は黒い雲に覆われていた。

 上を向いた顔にポツポツと雫が降りかかる。


「雨…」


 それはだんだん強くなり、数分も立たずに大雨となった。


***


 小店を出ると外はザァザァと雨が降っていた。

 親切な店主が傘を貸してくれたが、雨は強く足元をたっぷりと濡らしてくれた。

 歩く度にグチョグチョ鳴る靴が気持ち悪く感じる。


「はぁ…最悪…」


 上がった筈のテンションがまた下がる。


(まあこれが帰りなだけまだマシか…出かける途中の方がホント最悪だわな)


 帰ったらすぐに靴に靴下、そして服を洗濯機の中に脱ぎ捨て温かい風呂に入ればいい。一風呂浴びて出たらグイッと酒を飲み干すんだ、うんそうしよう。サッパリした後の酒はきっと美味しいぞ。

 そう思ったら急いで家に帰りたくなったため足を早めた。最初は早歩きから徐々に小走りになっていき、最終的には思いきり走っていた。


(そういえば…あの時も外に出たらこんな雨だったな…)


 思い出すのは1年前のあの日。

 岩山の中にある"隠された国"から出た時もこんな大雨だったのだ。

 突然解雇されたショックの中、トボトボと道を歩いていたらいつの間にかイーステルの町に着いていた。

 雨の中をぼーっと歩いていたようで、身体もすっかり冷えてしまい疲れ果て倒れてしまった。そこがちょうど"酒場の大将"の前で、俺に気付いた女将が大将を呼び居住スペースへ運んでくれ見ず知らずの俺を保護してくれたのだった。しかも三日三晩熱で寝込み看病までしてくれたのだ。そして目覚めた俺への第一声が『ウチで働いてみない?』だった。あの時はひどく吃驚したのを覚えている。


(目覚めたら知らない家だわ見た目は厳つい男がおネェ口調で話しかけてくるわで…そりゃ吃驚するわな)


 あの時の事を思い出しププっと笑っていたらもう家の近くまで来ていた。

 お楽しみはもうすぐ…と思ったところで何かがおかしいと感じた。

 立ち止まり目を凝らして見ると、玄関に誰かが座り混んでいる。

 布か何かを被っているために顔も見えず男か女かも分からない。


「タチの悪い酔っ払いが家でも間違えたか…?」


 面倒くせぇなと心の中で舌打ちをして、小走りで家まで進む。

 近くまで来ると男にしては身体も小柄っぽいので女だと思ったが、俺の元に尋ねてくる女なんていないのでやはり酔っ払いか何かだろうと思った。


「おい、アンタ…」


 玄関の前まで来て女に声を掛けると、顔を伏せて座り混んでいた女が少し顔を上げた。

 雨に濡れたのか桃色の髪の毛が頬に張り付いていた。


(!)


 水色の瞳をしているその顔に見覚えがあった。


「ペン…グ?」


 俺の名前を呟くその声で脳裏に桃髪の少女が笑顔で俺を呼ぶ姿が浮かぶ。

 ヨロヨロと立ちあがったその姿は傷だらけでボロボロだった。膝はガクガクと震えている。


「ペング…!」


 俺を見て笑ったその顔はあの頃のままで懐かしく感じてしまう。


「何で…って、おい!」


 驚いていると膝から崩れ落ちそうになる所を抱き止めた。抱き止めた身体は雨で冷えていた。

 俺の元に尋ねてくる女なんていないと思っていたが、まさか本当に尋ねてくる女がいたなんて…それも1年前に俺を解雇を告げた当の本人が尋ねてくるなど思いも寄らない出来事に俺の頭はついていけなかった。


「コノリ…」


 コノリは俺の元雇い主だった。

ペングという名前、画像のファイル形式であるpngをペングと呼んでいたのが由来です。

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